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サイボウズのワーママ動画「大丈夫」を見たワーパパの感想

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ワーパパというのはあまり聞かれない言葉ですが、チャラチャラ家事して「男女共同参画でーす」みたいな顔をしている自称イクメン・自称カジメンとは違うんだぞという意味でワーキングマザーたるワーママに寄り添う気持ちを強めた呼び名として定着していくんではないかと思っています。だいたいの基準として

  1. 奥さんが連続7日以上いなくなっても家庭・会社・地域のタスクを回し残件を残さない程度の能力がある
  2. 保育園、学校、地域、マンション等の重要役職を1つ以上担当している、または過去にその経験がある
  3. ワーママに混ざりワークライフバランスについてディスカッションできる
  4. ワーママの愚痴と雑談に耳を傾けることができる

これくらいからワーパパを名乗れるのではないかと思います。そういう自分は4点目以外はだいたいいける感じがするので、あまりイクメンとは言わずしてワーパパなんですよーと自称しています。

さてサイボウズの「大丈夫」が論争を読んでいます。オルタナブログ界隈ではこのような意見がありました。超抜粋ですが。

 

働くママたちによりそうことを

 

サイボウズのワーママ動画にモノ申す!:バブル世代もクラウドへGO!:ITmedia オルタナティブ・ブログ

野水さん「職場の働き方も意識もバブル上司が変われるかどうかがキーなのです。」

 

サイボウズのワーママ動画:愛の反対は憎しみではなく無関心です:マリコ駆ける!:ITmedia オルタナティブ・ブログ

大里さん「一番悲しいのは世間(それが一番身近なはずの人だったりするのだが)が無関心なこと(愛がないこと)なのだ。」

 

サイボウズのワーママ動画:経営者は全員見るべき:「走れ!プロジェクトマネージャー!」:ITmedia オルタナティブ・ブログ

大木さん「経営者こそ、自社の女性社員に寄り添わなくてはならない。」

 

サイボウズのWM動画「大丈夫」に私も物申す。:田中淳子の”大人の学び”支援隊!:ITmedia オルタナティブ・ブログ

田中さん「なぜ、家事も育児も「女性」に偏るようになっているんだろう?」

 

サイボウズのワーママ動画「大丈夫」の夫とその上司に物申す:ポジティブ果実のなる木:ITmedia オルタナティブ・ブログ

久野さん「男性も変わらなきゃ、って男性(特にマネジメント層)に思ってもらいたいと思いました。」

 

バブル上司、ワーママに身近な人たち、経営者、男性、男性、あたりが変わるべきというご意見です。私自身のワーパパ度は以前に久野さんからまあまあ頑張ってる方だと評価いただいていますので、あまり縮こまることなく意見を言わせていただきます。

ここでみんな悪いというとおもしろくないので、あえて誰が「いちばん」悪いかという制約とするならば野水さんと同じく「上司」もう少しシャープに中間管理職であると言いたいです。

というのも自身の経験でCxOの方々が集まる会合で各社の女性活用の取組状況をお伺いしました。グループディスカッションの形式でカジュアルな意見交換が進められましたが、「うん?」と思う点がありました。

割合レベルでの統計的なワーママの把握はされていました。これはわかります。その次に詳細化すると「うちの娘が」とか「うちの部署の○○歳が」といきなり固有名詞レベルの具体例になるのです。普通ですとCxOな方々であればこんな人もいればあんな人もいる、ですとかワーママにも3種類あって長時間労働のバリキャリタイプ、残業なし労働で昇進意欲がある新型ワーママ、時短勤務で育児に重きを置きたい旧型ワーママ、みたいな類型があると思うのですが、そういうのがない点に強く違和感を覚えました。

その理由として私はマクロとミクロしか把握できていない、すなわち中間管理職からの報告事項が薄いのではないかと推測しています。ワーママを支える制度について部下に尋ねても「今の打ち手で○○人のワーママが誕生しました。業務遂行に問題ありません。施策は成功しています。」の報告で終わってしまっているんではないでしょうか?それで気になるところはピンポイントに聞いているという状態です。経営課題として認識されずにその手前でフィルタリングされてしまっているように感じます。(もっとも、非常に重要な課題が目白押しでこぼれているだけかもしれませんが)

全社的な施策としてワーママの人数を増やさなくてはならない。しかし生産性は維持しなくてはならない。そうした場合にはワーママを本当に活用するよりも、周りの人に負荷を分散してワーママを飼い殺しポストに押し込むのはマネジメント上とても楽です。しかしそのようにされたワーママ本人は孤立感や空回りから以前の自分を取り戻すように頑張り、過多な目標を負ったりして帰宅ダッシュや持ち帰り仕事という道に進みやすいように推察されます。サイボウズの動画は「大丈夫」ですが、穿ってみればあの大変さは「私にもっとたくさん仕事を振っても大丈夫だ」と言おうとしている結果のようにも見えます。

日本の会社によくある組織構造としては、課長が部長になるためには部長が事業部長あたりに昇進しなくてはならないのですね。そのためには部長に「ワーママ3人増で売上・利益率も達成率105%」みたいな数字を手柄にしてもらわないと困ります。そのためには課長と部長のラインですら「うちの部署のワーママは問題なく子育てと仕事を両立してます。周囲と仕事を分担しあって以前と同様の生産性を実現し目標も達成しました。部長への報告は異常です。」の既定路線でなくてはなりません。それが一番ラクなはずです。それを10年続けなくてはならないといわれれば中間管理職の人たちも考えなおすのだと思いますが、1年や3年続けば自分は昇進するはずみたいな見込があるのであれば、たとえワーママの穴埋め・しわ寄せでワーパパが長時間労働になってその奥様が保育園に帰宅ダッシュをする羽目になろうが、独身族が婚期を逃して一生独身路線を固めようが、バブル男性が家族と会話をなくそうが、そこは自分の知ったこっちゃないと考える人もいるはずです。

実際にはもっと色々なケースがあるのでしょうが、日本の中間管理職の、上司を持ち上げるために自分も問題を隠したがる構造のせいで「今のワーママ支援制度は当社にとって非常に有効です」が経営者に入ってしまっている可能性が高いと思います。そして企画系の部署が「ワーママと役員のティーブレイク」みたいな企画をしてもその状況が打破されるとは思えません。むしろ思いつきでもっとひどい施策が採用される可能性が高いと思います。

それではどうすればいいのでしょうか?現実を知るための情報をWebに発信していくことが重要であると思います。その点ではサイボウズの動画は先陣を切った感があります。大きなうねりになりそうです。そして、私自身、自分の安定した地位と昇給と部下の多少の苦労を天秤にかけた場合に、正しい判断をできる自信がありません。もしその判断をすることになった場合に正しい決定をするためには「部下の多少の苦労」がどれほどのものなのかを認識する必要があるでしょう。今後のために私も重要と思う2点をこちらにご紹介したいと思います。

 

1.子どもの睡眠時間

2010年の国際調査では、3歳以下の子どもの一日の総睡眠時間は日本は11時間37分で、対象の17カ国中で“最下位”。1位のニュージーランドと比べて100分も少ないそうです。

子どもの "睡眠の乱れ"が、脳に影響を及ぼす? | ハートなブログ | ハートネットTVブログ:NHK

今ですら少ないと言われてしまう睡眠時間は11時間37分ですが、仮に布団に入る時間を11時間30分としておきましょう。そのうち1時間30分を保育園でとる(昼寝)として、残りは10時間。20時に布団に入り6時に起きると10時間です。睡眠時間の適正な指標というのは諸説あってなかなか判断が難しいものですが、夜の睡眠時間の目安を10時間としてこれがとれているワーママ家庭の子供(3歳以下)が何割いるのでしょうか?そしてその実態が望ましいかどうかを厚労省は大げさとしても、産業医あたりに訪ねてみて社員および社員の家族の適正な健康維持に望ましい施策になっているかどうか、これを見なおしてみるのはどうでしょうか?

 

2.保育園の入所資格

23区でも有数の保育園激戦区と言われる江東区の平成27年度の認可保育園の入所資格を確認してみます。一般的な正社員であるところの月に20日以上勤務では「8時間以上の勤務」が満点の12点となりますが、7時間だと1点が減じられて11点となります。すなわち保育園の激戦区での中途半端な短時間勤務制度は保育園の入所資格を実質的に喪失することにつながります。勤務時間の負担低減をやるならば8時間勤務を前提とした在宅ミックス勤務(週2日在宅など)になるでしょう。これは同じ8時間労働でも通勤時間がゼロになるため非常に有効ですし、いまのところ自治体が在宅勤務は減点とする動きを知りません。自宅で商店などを営む家庭でも8時間勤務を12点としていますので、在宅勤務を低く見る可能性はほぼゼロと考えられます。

在宅勤務でなければ、希望の施設に入れないことを前提に、認証保育園となった場合に当該自治体の認可保育園と同じレベルとなるように保育料を給付することも良さそうです。遠方の保育園なら入れるという場合には送迎サービスに対する補助が考えられます。特に、自分で探してきたら金を出してやるというスタイルではなくある程度バルクな感じにやることを前提に会社としてNPO等と交渉して利用しやすい形態にしてあげられると良いかもしれません。

また、待機児童を優先する加点があります。多くの自治体では1歳児の受け入れが多く、次いで3歳児(年少に相当)が多いかと思います。これはすなわち2歳児の受け入れが非常に少ないことを意味します。1歳児からの持ち上がりにより2歳児の枠はほとんど埋まっているからです。そうすると2年間の育休制度というのがいかに無意味かというのがわかります。逆に6ヶ月で育休復帰した世帯にインセンティブをつけ、認証保育園に半年在籍すると「待機児童」としての加点がつくので認可保育園に1歳児から入りやすくなります。

このあたりの制度は認定こども園への移行によってどれほど変わるかわかりません。よってワーママに向けた支援策としては「各家庭の自治体でベストとなるように制度を柔軟に変更する」というソーシャルワーカーっぽいサービスを置くことだと思います。例えば激戦区では8時間勤務をして認可保育園に入りたいというニーズがあり、倍率の低い自治体では6時間勤務にしてほしいというニーズがあるはずです。

※ただし、なんとかして会社での8時間勤務を実現した場合であっても、残る時間で送迎・朝食夕食・風呂・絵本の読み聞かせなどをこなすことを考えると上記の睡眠時間10時間を確保するのがギリギリとなる家庭が多いと思われます。

トップページ/生活情報/子育て/認可保育園/平成27年4月保育園等入園の申込み手続きについて

 

 

上記を踏まえて、個別の施策以外で大きなところではどういうった施策が有効なのでしょうか?例えば江東区のような自治体の「8時間勤務」というのは配偶者のうち短いほうがそれを下回れば低いほうが採点対象になってしまいますが、両親とも8時間であれば最高点のままです。実際は多くのワーママ世帯ではワーママ8時間で夫が10時間や12時間という感じではないでしょうか?それはワーママがワーママポストに入ると給与が低迷し、その分を夫がカバーするという構造になりやすいからです。送迎ともワーママに任せると回らないので夫が朝に送りだけ行いワーママが早出・早帰りで迎えというパターンが一番多いんではないでしょうか。私が利用している保育園で見かける父親は夕方よりも朝が多いように思います。それを支援する策、すなわち時差出勤をやりやすくするのは有効です。ただしその場合、ワーママに帰宅後の夕食・風呂・洗濯・翌日の朝食および登園支度がすべて偏ります。おそらく男性側が期待される労働スタイルが残業を前提としているからでしょう。これは労働量が単純に多いというだけでなく、業後にしか打ち合わせができない人がいる、ですとか業後でも平気で電話がかかってくる、ですとか、そういった労働時間の「枠」の問題、すなわちその時間にいないといけないという要素が大きそうです。

それならば夫婦とも8時間勤務になるように強制してしまえばいいのです。そうすれば家事分担も進めやすくなりますし、なにより夫婦間で朝晩の当番をチェンジしやすくなります。勤務時間の配分が妻が短く夫が長いままで朝晩を交代することは難しいのですが、同じ勤務時間同士ならば、それよりはずっと簡単になります。(営業訪問などの制約がなければ。)気分転換にもなるのですが、互いの役割を交換することで大変さを理解し合えるのは諸問題を解決する良い薬になるかと思います。

良い案に聞こえるでしょうか?でもそうしている夫婦は少ないです。ではなぜそうしにくいのか?それは夫婦が別の会社にいることが多いからです。別の会社の人を助けるために、部下に「それじゃ奥さんが大変だから8時間勤務になれよ」と言えることはまずありません。経営者としてそういったニーズがないのに「それ世の中のためになるから明日からやろうぜ」と言える会社も非常に少ないでしょう。そこのところがクリアされてくれば全然ちがうと思います。

私がワーパパの末席を汚しているのは夫婦で同じ会社だからという点が極めて大きいと思います。私が長時間労働しても妻の生産が落ちているのです。妻が生産すれば私の生産が落ちます。会社全体で見れば資源配分の問題でしかありません。私の部署が生産性が高い時期であれば私がワーパパ度を上げ、妻の部署が生産性が高い時期であれば妻がワーママ度を上げれば良いのです。でもこれが夫婦別の会社ということになると急に損得になってしまいます。もし同業他社なら簡単には納得できないでしょうね。

とはいえワーパパが増えるキーは見えてきました。それは社内夫婦の夫の活用です。上記の論理によって社内夫婦の夫は妻が大変なときに、これまでの日本社会ではあまり見られなかったほどにワーパパに没頭することができ、それによって妻が生産を上げることで、周りにも認められるのです。ひいてはワーパパという働き方が認められるようになり、あまりギスギスと生産だけを追い求めるのではなくて「好きだから」という理由でワーパパをすることもやりやすくなるでしょう。その次には奥さんが他社だったとしても「ワーパパしたいので」というのが自然と受け入れられるようになるはずです。

最後に付け足すとすれば、このような施策は「子育ても仕事も普通にしたい」というくらいの要求です。現実的にはここに「子育てしてても独身者と差別されることなく昇進したい」という願いもあります。私が上記に述べたのは昇進意欲を捨ててはいないものの、せめて学童(一般的に小学校3年生の終わりまで)を出るまではワーママ・ワーパパに最適なポジションでいたいという割り切りを土台としています。独身者が好きでなったのか嫌いでなったのかはさておき、彼女/彼らの思いを汲みつつワーママ・ワーパパ制度を拡充し、不平のないように昇進もさせていくというのはなかなか難しいことではないかと思います。

なお、「男は料理が苦手だから」とか「やっぱり小さい間は母親がついてないと」といったレベルの発言は保育園のパパ友の間では非常に少ないです。(意識高い保育園なのかもしれませんが)社会全体での底上げはまだまだと感じるところはありながらも、進むべきところは進んでいます。

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