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書評『外資系コンサルが実践する 資料作成の基本』

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「外資系コンサルが実践する 資料作成の基本 パワーポイント、ワード、エクセルを使い分けて「伝える」→「動かす」王道70」をいただきました。早速、最後まで読みました。

http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4820748998/

コンサルタントの実働部隊というと少数のマネージャーに何名かの若手がセットになって稼働することが多いかと思いますが、そのマネージャー側の人のお仕事というと若手に的確な資料を作らせることであろうかと思います。より多く、より正確に、より早くの資料を”作らせる”ことが重要でして、自分で作るだけでは生産性に限界がありますのでチームワークがものを言います。そのあたりのことが本書では以降に紹介するような流れで記述されています。

本書の第1章では中身を練る「スケルトン作成」が取り上げられています。資料を作成する場合にはいきなり内容の検討に入らず、相手やシチュエーションに基いてWordやPowerPointといった”何で”作るかというレベルから検討しなくてはなりません。そしてようやく目次を書き出し、その目次に基づいて内容(論点)を書き下すフェーズに入ります。

何を書くかという構成が決まった次がドラフティングです。ここから第2章になります。本書での扱いは、内容となる文章をどのように書くかというだけではありません。第2章の4節のうち、1節は資料のテンプレートの選び方、1節はコンテンツの書式(箇条書きやインデント)といったデザイン面、1節は文章の書き方、1節は資料に最終的に貼り付けるデータのソースをExcelで作ろうという構成です。内容はよくてもレイアウトが悪くては注目を集めにくく、意図が伝わりにくくなりますし、せっかく良いデータがあってもPowerPoint上ではソートしたり関数処理を行ったりするのは難しく生産性が劣るものです。また、ワークシート用としたExcelではセル結合をしない等の関係代数的な発送による掟もありますが、そのあたりも触れられていました。

そして第3章は図解の章です。PowerPointの最近のバージョンではSmartArt機能が拡充されており以前と比べれば気軽に図解を利用することができるようになりました。とはいえ何となく目についた形を選んだ場合に、その意図が書き手と読み手とで一致するかどうかは運頼みとも言えます。そのような齟齬が生じないよう、第1節では図表の選び方が解説されています。コンサルタントといえば象限やマトリクスを使うのが好きと言われることがありますが、どちらも出てきますのでご期待ください。象限やマトリクスを含めて図解として用いるべきものとしてチャート(図)とグラフの使い方が50ページに渡り紹介されています。この辺りはExcelやPowerPointのヘルプに入っていると非常に喜ばれるのではないかと感じましたがMSさんいかがですかね。そしてチャートとグラフの部品として用いる「図形」の使い方も解説されています。これは矢印や四角、三角といったオートシェイプをどのように活用するかといった内容です。私の印象ですが、図形の扱いはグラフ等と異なり、図形のひとつを取り違えたからといって資料全体の印象を大きく変えることはないかもしれません。しかしながら個人の好みのばらつきが大きいために資料作成を分担する場合に事前に意識統一をしておかなければ統一感が崩壊する可能性が非常に高い部分です。例えば本書ではファクトは長方形、それよりも主観的な内容は角丸四角で伝えるのが適していると言っています。そのようにルール統一して挑むことは確実に生産性の向上に寄与するでしょう。そして本章の最後では色使いについて触れられています。資料の受け取りてがコーポレートカラーを設定している場合には、資料のベースカラーをそれに合わせることが推奨されています。確かに、テーマカラーがしっかりと設定されている当社では、確かに当社に合わせたカラーリングをされている資料を受け取ることがあります。その心遣いは嬉しいものです。

最後の4章では資料のフィックスが説明されています。資料全体がマーカーだらけだったり太字だらけだったりするとどの部分が重要なのかが埋もれてわかりにくくなります。ですのでそういった強調の処理は最後まで引き伸ばしておき、全体の中での重要度を見極めてメリハリをつけて設定する必要があります。本書でも強調処理は最後の章となっており、実際に資料を作る流れに則した位置で出てきています。そのようにしてお化粧を施したら、次は印刷を想定した最適化です。見切れやグレースケール印刷への対応だけでなく、余白調整も重要です。穴開けパンチで読めないですとか、綴じたせいで左の方が読めないという理由で可読性が落ちるのはもったいないですので、そうしたチェックポイントがいくつか紹介されています。電子ファイルのプロパティの削除や、不要なスライドマスタの削除といったかなり細かい点まで紹介されており心配りを感じました。ふと、Excelを送るときは全シートでA1を選択した状態で1枚目のシートをTOPにして保存、というルールが厳守されていた業界のことを思い出しました。

なお色についてですが、生まれついての遺伝的な色弱である私から補足させていただくとすれば、社内に色覚異常者(色弱)自身またはその特性に通じた人がもしいるのであれば、ざっと見ておいてもらうと良いかなーと思いました。たまに、正常色覚の人には読める背景と文字の組み合わせであっても保護色のようになってしまう場合があります。プロジェクタよりも紙のほうが生じやすいような。あまり知られていませんが、色弱にも血液型のように何型というのがあり、得意不得意が人によって違いますので誰かがOKだからといって大丈夫というものでもありません。

主に内容の紹介に終始してしまいましたので、最後に私の感想を述べますと本書は時系列の仕立てになっています。そのためにわかりやすくもあるのですが、一方ですべてを適応していった場合には極めて気合の入った資料を作ることになってしまいます。書店等で手にとって読んだ場合には、そこまでの提案の機会なんて自分の今のビジネスでは滅多にないから、と購入を見送ってしまうかもしれません。しかし目次等をよく見てみるとこういう場合はこうしようという個別の対症療法が集まっています。本書は決してストーリーに乗って頭から使っていくことだけを想定しているわけではりません。むしろ「地球の歩き方」のようにバラバラっとめくって気になるところだけ使う人のほうが多いんではないかと思います。

個人的には3D棒グラフは作成者の自己満足だと切って捨てたところが痛快でした。吉澤準特氏の次回の1冊に期待しております。

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