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「10年間ネットで中傷」から考えるネットいじめの3つの特徴

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テレビで「ブログ炎上で逮捕」というニュースを聞いて驚きました。なんでこんな時間にブログを書いてるか、またテレビでニュースを見とるんかといいますと、風邪を引いてぶっ倒れておるからであります。関係者各位、ご迷惑をおかけしましてすみません。病原を撒き散らす前に行動不能になったのが不幸中の幸いでした。

さてこの事件はまだ送検の段階であり、しかるべきところで真実が認定されるまでは周囲があまり立ち入ったことに口を出すようなものでもないでしょう。ただこの事件の構図から「ネットいじめ」に関係する3つの特徴を見てとることができました。

終わりの見えない絶望感

ネットいじめと現実いじめの大きな違いは、距離も時間も関係なく被害が出るところです。

デジタル技術の特徴により、私のこのブログも5年でも10年後でも読むことができるでしょう。今のインターネットがどこかで完全に壊れてしまうことがなければ、悪意ある書き込みも何もかも残り続ける可能性があります。現実的なところを考えれば、データが多くなりすぎてgoogleでも処理できず古い情報が埋もれてしまうかもしれませんし、ブログやメールの運営業者が夜逃げしてバックアップを取る暇もなくすべてが失われるかもしれません。技術的に考えたらそうかもしれませんが、自分の悪口を書き込まれた人の立場から考えたらどうでしょうか。この情報はいつまで残り続けるのだろう、またこの悪口を見た人の記憶にはいつまで残るのだろう、自分の子供が自分の悪口を見たらどう思うんだろう、と考えても不思議はありません。特に思春期の子供からしたら一大事でしょう。ここには時間的な「いじめの終わり」が見えないといういやらしさがあります。

また、私の好きなライターである小寺信良さんが以前ITmedia LifeStyleで下のようなことをおっしゃっていました。

例えばいじめを苦に引っ越すというのは被害者からしたら非常に癪なことではあるでしょうが、効果は高いと思います。引越し先にまでいじめにいくほどの意欲があるいじめというのはないでしょう。しかしながらネットは距離的なものも時間的なものも関係がありません。何かをきっかけに現実のいじめを受けて引っ越したのに、しばらくして自分のブログを見たら元の土地のいじめっ子から悪口が書き込んであったということは十分に考えられるでしょう。また、大人になり実名と顔写真を出してブログを始めたら昔の自分を知る人からいじめを受けるということも考えられるでしょう。

この2つとも現実に起こりえる可能性は非常に低いと思われます。いじめに対するリアクションも得られなければ、長時間に渡って「いじめてやろう」という気持ちを抱き続けなければなりません。しかしいじめられた側からすればそれが万に一つでも起こり得るかもしれない、と考えることが嫌なわけです。それは何年も先まで実名で、顔写真入りでブログを開設しようという気持ちをくじくものになります。何年か前からmixiは昔の同級生を探すのにもってこいの場所になっていますが、やっと見つけた同級生のマイミクに昔のいじめっ子がいるかもしれない、と考えたらマイミク申請も恐怖になりかねません。

ちなみに私は敬愛する小寺信良さんをtwitterでfollowしています。当然被followなしですが。オルタナブロガーにはけんじろうさんを代表に年頃の娘息子を持つ親が多いので、そのうちMIAUのインターネットリテラシ読本あたりでコラボができれば、と思案中です。(個人的に)

ネット義勇兵の存在

報道によると男女18人が書類送検されるとのことです。18人のうちのほとんどはこの事件の直接の関係者でなく、ネットで何らかの情報を得て行動したのではないかと思います。中には17歳の女性もいるそうです。元となる事件が起きたのは1988年のことですから、特にこの方は伝聞でしか事件を知らないと考えてよいと思います。

ネットいじめの恐ろしさには、たった数人の首謀者がこのネット義勇兵とも言える正義漢たちを扇動できてしまうというところがあります。例えばいじめのターゲットが書くブログを「こいつは○○という事件の首謀者だ」と言いふらして回ることができます。もちろん最近ではそのような見飽きるほど直球の煽りは99%でなく100%スルーされると思いますが、変化のつけ方次第でうまく煽る方法は少なくないでしょう。特にネットいじめが問題化している中高生ではネットを始めて日が浅く、スルーのできない、リテラシーの高くないユーザの比率が高いと思われます。

古くからトイレで「03-xxxx-1234は●●●●(芸能人)の電話番号です。本人が出ます。本当です。」というような落書きを目にすることがあります。ほとんどの人は嘘だと見抜くことができるでしょうが、中には信じる人がいるかもしれません。ネットいじめではこれをトイレの利用者よりもずっと多くの人が見る場所に書き込み、また未成年が集う場所に書き込むことができ、また機種によっては電話番号がリンクに変換されてワンクリックで通話発信ができてしまうのです。

電話の場合は人間だけが加害者ですが、メールは自動送信の対象となります。出会い系サイトや、メールアドレス収集ボットがよく出没しそうな掲示板にターゲットのメールアドレスを書き込めば膨大な迷惑メールが届くようになって被害を与えます。一人で貼るのは大変ですが、正義を信じる人をうまくオルグすれば何倍もの効率でダメージを与えることができます。

自分を正義と信じる人に正面から協力を仰いだり、それと知らない人に間接的にいじめに加担させたりということを、現実のいじめとは比べ物にならない数多くの人に働きかけることができるのがネットいじめの恐ろしさです。しかしそのことは次のデメリットを乗り越えて、の話です。

明確な証拠が残る

上の2つはとてもネガティブな特徴ですが、3つ目はそうでない特徴です。ネットいじめには証拠が残ります。「氏ね」と書いたらセーフかと言えばアウトなのが現状です。例え曖昧な悪口であっても、しかるべきところに相談して相手に罰を与えるように行動することができます。よくあるのはいじめっ子が中間のいじめられっ子を扇動してターゲットとなるいじめられっ子を攻撃するやり方です。お前もこれ以上いじめられたくなければ言うとおりにしろ、と。

この場合、いじめられた本人が勇気を出して立件したらまずは中間のいじめられっ子が検挙されるでしょう。捜査機関が本気で動いてくれれば海外proxyだろうが公共スペースのインターネット端末だろうがウォードラインビングだろうが突き止めてくると思われます。中間のいじめられっ子は、例えば何人かの制服の大人に詰問されて黙秘し通すことは考えられません。仮に1人がごまかし切ったとしても、その周囲からの証言をすべて止めるほどのいじめっ子がゴロゴロしているとは思えません。その点は親や教師の目から隠しやすい現実のいじめよりもマシであると言えます。サーバがいじめを見ていてくれるのです。(その代わりにサーバは絶対に自ら通報してくれませんが)

過去には現実のいじめもわかりやすいいじめからわかりにくいいじめへと進化しました。それにならい、上で挙げた「氏ね」というのもそうですが、縦読みで悪口を言ったり、いわゆる裏サイトなどではなく関係のない掲示板に本人だけに伝わるような悪口を書き込んでその画面をケータイで見せたりと手口は巧妙化していくでしょう。文章をバラバラにして複数の掲示板に書き込み、URLを並べてメールする、というようなこともできるかもしれません。しかしどのように巧妙な手口を使おうとも自分で通信事業者になるか、とんでもない力量でもない限りはどこかで足がつくことでしょう。

最近には遺書に加害者の名前を並べ立てて被害者が自殺するという事件がありました。現実世界でだけ行なわれるいじめで証拠を揃えるのは大変なことでしょうし、いじめを誰かに相談することは耐えられないほど辛いことなのかもしれません。しかしネットいじめはやるほうは気楽でありつつも証拠がしっかり残るという点を逆手に取れば、ネットで普段のいじめの愚痴を吐き、「うっかり」そのURLが加害者にばれてしまえばネットいじめを誘発することができそうです。それによりいじめられる側が立ち上がるきっかけをつかむことができるかもしれません。ネットいじめは第三者のいじめ加勢を招いたり、時間的地理的に終わりの見えないいじめを招いたりもしますが、その反撃の糸口を提供してくれるのかもしれません。

最後に

どうもテレビを見ていると、引きこもりが2ちゃんねるを巡回して自分のストレスを発散させるタイミングを今か今かと待っており、たまたまスマイリーキクチさんのような生贄を見つけるとピラニアのように突っ込む、というステレオタイプが存在するに感じます。しかしそんなことがあるでしょうか。googleで検索した感じでは2000年7月にスマイリーキクチさんと事件の関係を疑うような書き込みがあり、その後も現在に至るまで盛り上がらずとも消え入らずにだらだらと長期間に渡って同じような書き込みを発見することができます。

じゃやっぱり2ちゃんねらが悪いのか、と言えばそればかりが考えられるとも言い切れません。なぜかというとこれだけ長い間2ちゃんねる含むネット上で噂になっていながらも、まったく続報やソースがないからです。昔からネットでこの噂を見続けてきた人は、本名と事件関係者の氏名が一致すること以外に情報の真実味を肉付けする材料が出てこなかったことをおかしいと思う人が多いのではないでしょうか。少なくとも古参の2ちゃんねら(最近高齢化が著しいとも聞きますが)でこの噂を信じていた人は少なかったでしょうし、行動に移した人はもっと少なかったのではないかと思います。

むしろ、行動してしまったのはネット歴の浅い、ネットに擦れていない人が「引っかかってしまった」のではないでしょうか。そういう意味ではこの検証不可能な無責任な情報を広めた人も、この事件の間接的な加害者であると言えます。同様に長期間目にする噂には「プチエンジェル」や「鮫島」のように誰も傷つけていない(と考えるのが自然である)ものもあり、それもまたネットの愉しみのひとつでもありますが、今回の事件のように現実の人に迷惑のかかるような無責任な噂を広めることは歓迎できることではないでしょう。

そもそも「突撃」というのもおかしな行為であると思います。例えば何らかの刑事事件であれば判決までは有罪か無罪かわかりませんし、有罪判決が下った後は加害者に対する国家からの罰があるわけですから、その他の人が懲罰を加える合理的な理由がありません。刑務所を出た人を許す、許さないは各人の判断が別れるところでしょうが、最近「刑務所に入った人間と友達というのは、考えられない」との裁判官の発言が問題になりました。そのことを考えれば、例え今回の事件で疑われたような事柄が事実だったと仮定しても、更正の機会を奪うような突撃行為が誉められたとは考えられません。

そして「ネットいじめ」についてあーだこーだと書きましたが、ケータイを取り上げるとか取り上げないとか、認可業者以外は子供に見せるとか見せないとか言っている最中に、大人にこれだけの逮捕者が出てしまうことは子供にとても悪い影響があるように思います。お前らだってやっとるやないかい、と。子供にしめしのつかない行動を取っていては躾がうまくいきません。いっそのこと中途半端にならず、会社でも街中でも昼間っから堂々と2ちゃんねるにつないで書き込みまくっていたら子供は反面教師でまともになるかもしれません。

余談になりますが、裁判所の判決文のように私見を挟まず、世間一般に事実と認定される情報を淡々とコピペして後世に受け告ぐというのは……。どうなんでしょうね。第三者が良かれと思って勝手にやるというのはいかがなものかと思いますが被害者本人の賛同のもとでやる場合を考えたら。通りがかりの第三者は何と言えるのか。難しい問題です。

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