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レモンの市場の続き(モラル・ハザード)

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先日のレモンの市場の続きです。

中古車を題材にしたレモンの市場では、
中古車を買いたいと思っている人が
中古車を売りたいと思っている人の持つ情報を
不完全にしか得ることができない問題がありました。

これは取引を成立させようとしている時点で、
既に情報の非対称性が存在しているケースです。
このパターン以外にも、情報の非対称性が発生することがあります。
「もしあなたがそうするつもりだと知っていたら、私はそうしなかっただろうに」
という、高校生の英語のテストの解答欄のような事象のことです。

例えば、私が損害保険に入ったとします。
自動車、ゴルフクラブ、カメラなどの財産の損害を
何から何まで修理してくれる夢のような保険だとします。

そうすると私はこんな行動を取るかもしれません。

  • 自動車の運転が乱暴になる。整備しない。こする。ぶつかる。
  • 木の根のすぐ横につけたゴルフボールを力いっぱい叩いて
    ゴルフクラブを折る。腹が立ったら地面に投げつける。
  • カメラを専用のケースに入れないで裸のままカバンに突っ込む。
    雨の日でも、砂ぼこりのひどいグラウンドでも、気にせず使う。

これらは「保険に入っていなかったら絶対にやらないであろう」
という行動です。保険に入ってるからと言って、積極的にこれらを
行うことは褒められたことではありません。しかし、

「このスキー板をレンタルする料金に加えて、1000円追加で払うと保険が効くよ。
折れたり傷ついたりしてもお客さんは1円も負担しなくていいよ」というスキーレンタルや、

「レンタカー代とガソリン代以外に任意で1000円の保険に入るとXX万円までの
傷であれば修理料金はいただきません。」というレンタカーなどを利用すると、

ついつい荒っぽくなってしまう方もおられるのではないでしょうか。

これらを保険によるモラル・ハザードと言います。

保険会社が「普段どおり行動するだろ?常識的に考えて……」という目論見で
設定した保険について、それに加入した人々は、
「せっかく金払ってるんだから元取るだろ?常識的に考えて……」と、
行動してしまう点において、情報の非対称性が発生することが原因です。

これは損害保険の話だけでなく、健康保険の分野でも同じことが起こります。
健康保険が充実していると、患者はちょっとした病気でもすぐに病院に行きがちです。
高齢者の医療費は若い人よりも自己負担が小さいですので、
少しの体調不良でも病院に行く人が多いと言われます。
(もちろん高齢者の方はちょっとした病気が大病につながりやすいという面もあります)

また、医師においても「保険で安くなるので患者から文句は出ないだろう」という考えで、
過剰とも言える診療行為を行ったりします。もちろんこれがすべて診療報酬の水増しに
直結するというものではなく、ついつい「念のため検査しておくか」とか
「念のため投薬しておくか」という行動をとりがちだ、という例です。

そのため日本では、病院で行われた医療行為の記録を
病院でも健康保険組合でもない第三者機関がチェックしています。
ここで情報の非対称性が破れますので、大きなモラルハザードは起きにくくなります。

また、損害保険に免責条項を設定して「さすがにこれはアウトです」
という事例を保険会社が設定しておくことで、加入者の想定外の行動を制限します。
「木の根の真横のボールを打ってゴルフクラブが折れても保険金払いませんよ」
という説明を聞いていれば、そんなリスキーなショットを打つ人は少ないでしょう。

このように保険会社が「こういう場合なら保険を支払いますよ」と囲いを作ることで、
加入者は無茶をしなくなります。
それにより保険会社が「まさか」と思うことが無くなります。
すなわち保険会社と加入者で情報が対称となります。

私の説明がまずくて何のことを言ってるかわからなかった方は
「ジュリエットは仮死状態だったのに、それを知らないロミオは
本当に死んでいると思って服毒自殺してしまった」
というシーンの大袈裟な解釈だと思っていただいても大きな間違いはないと思います。

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