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人月単価で働くSEのお話

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自分も単価で働く人間のはしくれです。
そういえば大学の時の家庭教師バイトは3500(円/時間)でした。
(半分ほど仲介事業者に搾取されました)
そういう「単価」って便利でもありますが不便でもありますね。
オルタナティブ・ブログでも取り上げられています。

一方で私のようなサラリーマンSEにとっては単価というと

  • お客様向け単価
  • 社内向け単価

の2つが思い浮かびます。
以下、人月による見積もりの話です。
※弊社含め、モデルにした会社があるわけではありません。

「このシステムを構築するとしたらおいくらですか?」

というお客様からの質問に対して、

「月10万円で働くSEが10人がかりで6ヶ月かかるので600万円です。」

という回答に用いる単価、それがお客様向け単価です。
生々しい数字にならないように月10万円という破格のSEを用意しました(笑)

でもこれは本当にSEに月10万円の給料が渡るというものではありません。
そりゃそうですね。そしたら会社が1円も利益を受け取らないという
ボランティア団体になってしまいます。

ではこのSE達が月々の給料3万円で働いていたとしたら
10-3=7万円が会社の儲けになるでしょうか?

そうなりませんね。人件費だけでシステム開発はできません。
工業簿記の原価計算でも忘れてはいけない概念ですが、
会社の運営には会社の土地代だったり、貸し倒れ引当金だったり、
間接部門の人件費だったり、とにかく多くの経費が発生します。
(SIer自身も紺屋の白袴でシステム化による経費圧縮が疎かだったり。。。)

上のような間接経費は使った部署に使った分だけ
負担してもらうようにすれば簡便に開発の原価を把握できます。
それが社内原価の計算材料になります。配賦とか言います。
そこに各社の事情を加味してSE達の社内原価が7万円と決まったとしましょう。
すると原価は10人かける6ヶ月かける7万円で420万円。儲けは280万円です。
すると社内単価は管理上の都合で使うもの、という性質が強いようです。

これは、開発途上で決算日を迎えた時に仕掛品がどれくらいあるのか、
という点においてはかなりの威力を発揮します
機械と違ってシステムで「完成度60%」等と判断するのは難しいです。
そうすると投入した人月をベースに進捗具合で加減しとけ!ということになります。

この7万円というのは1人1ヶ月使うと自社にとっての原価がいくらか、という値です。
運よく他人の倍のパフォーマンスの人をたくさん集めることができれば
この開発には10人も必要ありません。
そういうわけで、5人かける6ヶ月かける7万円で
210万で開発が完了しました。そうすると会社の儲けは390万円ですね。

計算が簡単な例にしたらものすごくぼったくりのSIerになってしまいました。しかし、
契約によりけりですが開発途中に「やっぱあと100万円かかります♪」とは言えません。
そのリスクがある分だけ、難しい開発であれば見積もりは多めになりがちです。
それに他人の倍のパフォーマンスの人がいる分だけ、そうでない人もいます。
また、同じ人でも技術に得手不得手があります。それで平均値が便利になるわけです。

こうしたざっくりした計算でも、このプロジェクトで頑張ったSE達は
たくさん利益を出したので給料アップだな、と判断することはできます。

逆を考えます。全然開発が終わりませんでした。
10人6ヶ月どころか、人員の応援と納期の延長を依頼して15人9ヶ月……。
15人かける9ヶ月かける7万円で945万円。まぁ恐ろしい。((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
そうすると、給料は下がるどころか1人のSEも残りませんでした。
なんてことにならないように我々はがんばって生産をするわけであります。

お客様と値段を交渉するに際しては

単価下げてよ。
こんなに人月かからないよね?

というような意見を賜ることは珍しいことではありません。
また、見えない値引きとして、

後から開発範囲を広げたり、
他システムで影響が出る部分の改修をしたり、
新システム操作習練会の先生として1週間呼ばれたり、
操作マニュアルを作ったり、

という作業をサービスしたりします。
これが定常化すると、開発する側もそれを加味した大きな見積もりを出し、
相手はそれを加味して更に激しく買い叩く、と良いことがありません。

単価下げてよ、というのは少し乱暴な値引きです。
工数による見積もり内容を検討しないで値段だけ落としてね、
というものですので、とにかく安くしろ、という要求です。
また過去の例をもとに「こんなに人月はいらないはずでしょ?」
というのも危険です。「ドッグイヤー」という言葉があるとおり
ハードウェア・ソフトウェアも進歩しますし、開発手法も進化します。
しかしそれを上回るほど情報システムに対する社会からの要請というのは
大きなものになっています。安全・信頼・安定・確実……。
また、ライバル企業が勝負に出て巨額のシステム投資を行うかもしれません。
そのようにシステムへの依存度が高まれば高まるほど、システム障害は
手痛いしっぺ返しとなりますので、けちってはいけない部分の見極めは大切です。
また、最初の1回だけものすごくサービスしたフリをして、
他社が手出しできないような中核システムを押し込み、
後からゆっくり甘い汁を……ということもありえます。

このような手法によらない値下げといえば、お客様のところで仕様書を完璧に作り、
コンペにすることで適正価格に近づける方法でしょう。
もしくはシステムに明るいコンサルタントに
見積もりの適正度を判定してもらうという方法もあります。
これをする場合はそれぞれ「手抜き工事」と
「厳しい追求で値切りまくるコンサルタントは優秀。それ以外は悪。」
という図式になってしまわないような注意が必要です。

長くなった割にまとまりませんでしたが、以上、人月計算についてでした。
自分の工業簿記のわからなさを再認識して鬱でした。

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