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「人の繋がり」とシェアについて考察してみる

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旧知であるヌーラボの橋本社長が、記事「Zipcarに乗ったのでシェアについて考察してみる」にて、たまたま書籍「シェア」の紹介と結びとして、

モノを通じて人が繋がる。これもシェアリングをする動機かと思う。(以下、略)

という話をしていたので、そこに関連して最近考えている

「人との繋がり」が大切になってきた理由、についての考察を紹介したいと思います。

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結論から言えば、昔は「資本の投下量」が雌雄を決する場面が多かったが、現在では「アイデアの多様性」によって、雌雄が決する場面が増えたため、かと思います。

■昔は資本が必要な「モノ」勝負の世界

ひと昔前は、「モノ」が中心にある、プロダクト中心の社会。例えば、洗剤あたりが、典型的な「モノ」として挙げられるかと思います。

洗剤がどれだけいいものになるのかは、化学系の研究をどれだけ繰り返して、より洗浄力などのスペックが高い化合物を作り出せるかというトライアル(試行錯誤の実験)の数、従事する研究者の数、そのトライアルを実施するだけの体力、そして、どれだけスケーラビリティを活かして、大量生産によりコストメリットを出すか、といった点で優劣が決していました。つまり、より資本(カネ)を多く持ち、大規模な投下をすることができるプレイヤーが、市場で勝つことができたわけです。

■現在はスタッフの多様性が大切な「アイデア」勝負の世界

それに比べて、例えばフェースブックなどのソフトウェア。こういうものは、どれだけクールなツールなのか、どれだけ使いやすいのか、どれだけいままでに無い視点を持ち込んでいるのか、というのが勝負の分かれ目となります(※規模拡大の際に、サーバーの増強やら、セールスの増強やら、はあるが、そこはコモディティ化しているので、大きな勝負の分かれ目にはならないケースが多いかと思います)。

そして、人を惹きつけるクールなツールを生み出すジェネレータが何かといえば、「会話の量」「参加しているスタッフの多様性」に他なりません。こうした多様性が、新たなアイデアが生み出されやすい環境になることは、書籍「メディチインパクト」などにも紹介されていますし、みなさんも、日々の仕事の経験の中で、少なからず感じられることがあるのではないでしょうか。

アイデアは、圧倒的な会話量による右脳と右脳同士の刺激、それにお互い知らない観点同士を持ち寄って、「これいけるんじゃない?」というようなひらめきがあるかどうかが重要となります。

そして、それを「いいね!」と使い始めてくれる、社外のクールなアーリーアダプターが必要となるから、そこでさらに、「人と人が繋がっている」環境が大切となります。

■モノの分野でも「人との繋がり」が大切になってきたから「シェア」になる

以上のように考えると、「シェア」が流行りだした1つの理由は、個人レベルでみんなが「人との繋がりには高い価値がある」と認識してきたことにあるのではないでしょうか。

昔はシェアだと十分な売上が発生しないから、それによって規模の経済も働かきづらく、よい製品の開発にも結びつかなかったという状況だったのに対し、今は、効率的に開発を行い、一通りのお金の投下で解決できるものは、大体みんな満足しちゃってきている、という背景があるかもしれません。

そうした環境下では、仕事としてはソフトウェアとかを作るってところに多くの人が惹かれていく傾向がある一方で、実際に生活を支えているのは、モノ。例えば自動車や住まいなどは、どう社会が転んでも必要なのに変わりはない、という制約条件があります。

そうすると、そのモノの調達もできて、なおかつ、自分たちが最も今、大切と思っている「人との繋がり」を、強制的に持つことができる「シェア」は、経済的な観点からも、個人として投資すべき重要な点となってきていると、個人レベルで気づき始めているのではないでしょうか。

■日本のバロメータは「シェア」にあり?

さて、もしも日本でシェアが流行らないとしたら、それってひょっとしたら、モノへの投資が個人の感覚の中で優先になっていて、アイデアへのシフトとか、それによる価値に気付くのが遅いってことを意味しているのかもしれない、と、危機感を感じます。

そして同時に、個人的にこれは「人との繋がり」を活用する大きなチャンスがやってきているのかな、とも感じます。

せっかく都合よく不況で、モノを買うお金がない状況なのであれば、この機にシェアをやってみて、そこで「人と繋がる」感覚を掴んで、それによって人と交わることの価値を理解し、自分の仕事へと波及させてみてはいかがでしょうか。


と、今回の記事では「人との繋がり」について、実利的な要素での魅力を考えてみましたが、一方で、「人との繋がり」そのものに目的的な魅力があるのも確かかと思います。そのあたりは、下記の記事「モチベーション3.0について」も参照してみていただければと思います。

http://blog.livedoor.jp/yasuyasu1976/archives/3720543.html

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