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何が違うの?日本企業と海外企業の情報システム

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 「日本企業の情報システムの考え方って、縦割り的だなぁ」と感じるようになったのは、ある海外企業と共同でのシステム開発プロジェクトを推進したときからです。一度この視点に気付くと、様々な日本企業の情報システムを見るときに、ここは変だなとか、損しているなとか、改善できそうだなとか、そういったものが今までとは異なる角度から見えてくるようになりました。もちろん企業により事情も状況も千差万別なのですが、とはいえ、これまで私が見てきたいくつもの日本企業の情報システムは、総じて縦割り的な傾向を持っています。本稿のタイトルのように、日本企業と海外企業の情報システムは何が違いますか?と聞かれたら、「日本企業の情報システムの考え方は縦割り的ですよね」というのが私の意見です。

 このような日本企業の情報システムの考え方を、このブログでは短くして「縦割り情シス」と表現します。私はITコンサルタントとして活動していて、そんな縦割り情シスによく出会いますし、そのたびに何とかしたいと感じています。この「殻」を破る方法(= エンタープライズ・アーキテクチャー改革論)をオルタナティブ・ブログで考えていきたいと思います。

 さて、まずは、(1)縦割り情シスって何?  (2) なぜ縦割りになるの?  (3) 縦割りによって、どのような問題が生じるの? というお話をさせてください。

(1) 縦割り情シスって何?
 「縦割り」という言葉は、組織間/担当間の横の連携が希薄な状態を表現するときに使われます。それでは、「縦割り情シス」とは、具体的にどのような事象をいっているのか、よくある3つのケースを見てみます。

◆ケース1: アプリケーション間の縦割り
 企業の情報システム部門において、例えばAという情報システムと、Bという情報システムの担当者が別々で、互いに他人が担当する情報システムのことを良く知らない状態というのは、よく見受けられます。それぞれの情報システムの開発業者もバラバラでしょうから、企業内の情報システムの全体像を本質的に把握している人は、この企業には少ないかもしれません。ここでいう全体像を本質的に把握している人というのは、企業内に新しく実現したいビジネス要件が生じた際に、そのための機能を配備するのはAシステムであるべきかBシステムであるべきかを論理的に結論付けられる人のことです。担当するシステムの範囲内であれば各担当者が最も良いアーキテクチャを検討するのですが、自分の担当範囲外になると良く分からない、それが縦割りです。

◆ケース2: 共通基盤の縦割り
 ITの世界には、EAI(データ連携基盤)やSSO(シングル・サイン・オン)といった各情報システムの共通機能を提供するテクノロジがあって、それらをひとまとめにしてここでは共通基盤と呼びます。共通基盤は、その役割から横通しの性質であるべきなのですが、それでさえも縦割り的な振る舞いをしていることがあります。例えば、このEAIはAシステムのデータ連携のために導入されたものだからということで、他のシステムに使わせないことがあります。もちろん、共通基盤をどれだけ共用できるかはトラフィックなどの非機能要件との兼ね合いなのですが、そもそも共用という発想が無いことがしばしばです。

◆ケース3: クラウド時代の新しい縦割り
 最近、情報システム部門とユーザ部門の間の距離が広がってきています。SaaSが登場して以降、情報システム部門を介さなくても、ユーザ部門が独自でSaaS型の情報システムを導入できるようになったからです。これには企業にとって良い側面も多いのですが、その一方で困った側面もあります。これも縦割り情シスの一種と捉えています。

 ここで見てきた3つの縦割りのうち、ケース3は海外企業も共通となる話題なのですが、ケース1とケース2は日本企業独特の現象だと私は考えています。このようになる背景には国内特有の事情があるのですが、長くなってきたので続きは次回に記載します。次回は縦割り情シスの背景にある日本企業独特の事情を考えたいと思います。

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