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時代の潮目にあるビジネスとICTの幸福な関係をクラウドコンピューティングの視点から考えます。

雲の海の水先案内人――クラウドインテグレータという存在

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はじめに

当初、ITに直接関わる人たちの間でのみ、新しいサービスの形態として注目を浴び始めた「クラウド」という言葉は、ここへきて随分と市民権を得てきたように思います。

ビジネスシーンのみならず、Google DriveやマイクロソフトのOne Drive、AppleのiCloud等のストレージ系からSNSの世界まで、パーソナルユースのサービスでも「クラウド」という言葉が当たり前のように使われるようになりました。
しかし、人口に膾炙すればするほど、理解や解釈に個人差が生まれやすいのも言葉というものの宿命です。
「クラウド」という言葉も、受け取る側の知識や立場によって、そのイメージは大きく異なってくることでしょう。

申し遅れました、株式会社テラスカイでコンサルティングを担当しております、大友と申します。
主にビジネスシーンにおいて、クラウドコンピューティングを最も効果的に活用するための考え方や方法論を主題に、これからこのブログで考えて行きたいと思っています。

クラウドをこれから使い始めよう、もしくは使い始めたけれど思った様な効果が出ておらず改善を始めようと思われている、企画部門、IT部門など事業のIT戦略に関わる方々、あるいはこれからクラウドに携わろうとするエンジニアの方々、また既存のSIerの方々にも是非お読みいただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いします。

さて、私の所属する株式会社テラスカイは、「クラウドインテグレータ(CIer)」を標榜しています。
第1回目の今回は、クラウドの置かれている現状を改めて概観しつつ、クラウドインテグレータとは何か、どう在るべきか、について考察します。


ビジネスシーンにおけるクラウドの現状

現在のビジネスシーンにおいて、クラウドコンピューティングといえば、ハードウェアの在り方によって大きく2つに区分されます。

ハードウェアを一社が占有するプライベートクラウドと、クラウドサービス提供事業者(クラウドプロバイダー)が所有するハードウェアを契約者が共有するパブリッククラウドです。
また、特にパブリッククラウドで顕著ですが、サービスの提供形態によっても3つに大別されます。

  • SaaS
    契約者は必要な機能(サービス)の提供を受ける
  • PaaS
    契約者は基本機能の揃ったプラットフォームの提供を受け、その上に必要なアプリケーションを構築する
  • IaaS
    契約者は必要なハードウェアの提供を受け、その上にミドルウェアやアプリケーションを含めたシステムを構築する

数年前までは、クラウド利用といえばコスト削減を主眼に置いた単体での使い方が主流でした。
例えばこのような使い方です。

  • 限定的な領域での業務、特に労務管理や情報共有など事業の主たる活動ではない一般的な業務について、システムを独自開発するのではなくSaaSで補う
  • 一時的に膨れ上がる類のデータを格納するストレージを、自前で用意するのではなくIaaSで賄う

しかも、利用しているのは新しい技術に抵抗の少ない、「フットワークの軽い」企業のみであったため、クラウド技術を利用することそのものが、IT戦略上の差別化であり優位性につながるということもできました。

しかし、既にパブリッククラウドは企業にとって「あたりまえ」のインフラになりつつあります。

IDCの調査(
国内クラウド市場 ユーザー動向調査結果を発表IDC Japan, 7/2014)によれば、パブリッククラウドを「利用中」「利用を前提に検討中」の企業は合計で、2014年段階で全体の4割近くに達します。

これが意味するところは、単に「クラウドを導入する」だけでは、もはや競合に先んじる競争力たりえないということです。
他社と同等以上のテクノロジーを利用することは、現代のIT戦略上は必須のことでしょうが、そのテクノロジー、ここではクラウドコンピューティングを、いかに有効に利用するか、クラウドの持つポテンシャルをどれだけ発揮させることができるかが重要になってきます。

もう一つ興味深いデータがあります。

国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表」 (IDC Japan, 2015.8.6)

こちらを見ると、マーケットの拡大が顕著であり、まだまだ伸び代があることは一目瞭然ですが、より興味深いのは、SaaS、PaaS、IaaSのいずれもが高い伸びを示していることです。
クラウドがニーズに応じて果たすべき役割が広がっているということであり、また、それに応じるだけのポテンシャルを期待されているということでもありましょう。

反面、複合的な利用が必要となり、クラウドプロバイダーのサービス内容や、サービス自体の特性を見極め、ニーズに対して最適なサービスを選択する重要性は一層増大して来ます。

使いやすくリッチなUI、大容量データを高速処理する性能、多様なデバイスに対応し得る適応性――。
ビジネスからの期待については、当然ながらこれまでオンプレミスでフルスクラッチに開発されてきたものと大きく変わるところはありません。

これらに加えて、クラウドにはやはりコスト面での期待が大きいのです。
金銭的費用の面だけでなく、要求から実装を経て実現に至るまでのリードタイム、すなわち時間的コストの軽減についても大きく期待されているわけです。

もちろん、1つですべての期待に応え得る「万能の」サービスは存在しません。
それぞれに得意不得意があり、適材適所に採用していくことが、ポテンシャルを最大限に発揮させる肝になってきます。
そのためには複数のクラウドサービス利用を前提として、自社保有環境にオンプレミスとしてあえて残すシステムとの役割や連携をも考慮しなければなりません。
システム総体として最適化を果たすデザインの力、そしてそのデザインを実現できるクラウド上での実装能力が、より重要になってくるのです。


今後のクラウド導入に必要となること

とはいえ、この「システム総体として最適化を果たすデザイン」というものは、言葉でいうほど簡単なものではありません。
そもそもビジネスが置かれている現況は千差万別です。ある時はハードウェア調達コストの削減が至上命題でしょうし、また一方では導入スピードの向上が急務なのかもしれません。あるいは増大する一方のシステム監視の負荷の軽減が喫緊の課題となっているでしょう。
ビジネスがクラウドに寄せる期待が、一様になりえるはずもないのです。

こういった様々な「今そこにある期待」に応えるに、ベストなサービスを選定し、しかも周辺のシステムとのバランスを考慮して実装するのは、クラウド上の多くの開発から培われた経験なくしては困難であると言わざるを得ません。
事実、わたしたちがお声掛けをいただく際も、そのきっかけとしては「クラウドを導入したものの、期待した効果を得られなかったため」というケースも少なくないのです。

こういった、「ビジネスの期待」と「クラウドサービス」との最適なマッチングをデザインし、実現し、事後の運用までを支援する。
その遂行に必要な思想と手法、経験を備え、ユーザが未知の「雲の海」を進むための水先案内人の役目を務める。

それが、「クラウドインテグレータ」という存在である。

わたしたちはそう、考えています。

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