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人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

研修講師につきつけられている課題

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 前稿では、新入社員研修を例にとり研修の意義を考えましたが、本稿では更にその効果と意義を深堀りしていきます。

・企業研修に関するトレンド
産労総合研究所による2012年度教育研修費用の実態調査によると(2012年度教育研修費用実態調査 産労総合研究所
 教育研修費用の(総額)の今後の方向性(1~3年)では、「現状維持」が50.0%、「増加(かなり増加+やや増加」が40.5%、「減少(やや減少+かなり減少)」が9.4%でした。約9割が現状維持かもしくは増加傾向にあるということが読み取れます。この数字だけを見ると、私たちの業界は明るい兆しが差し込んでいると思いたいところですが、現状はそうではありません。それはなぜかというと、次の調査結果を見てみましょう。
 研修内製化に対する取り組みの状況を見ていくと、「内製化に取り組んでいる」と答えた企業は76.2%、従業員1000人以上の企業になると88.6%とかなり高い割合で内製化を実施していることが明らかになっています。ここで研修内製化について説明しておきます。研修内製化とは、私たちのような研修を専門にしている外部業者や外部講師に研修の企画・実施を委託するのではなく、社内部署・社内講師による研修の企画・実施のことをいいます。研修内製化が大企業を中心で実施、または関心を持っている状況にあるということは、私たち外部講師の研修の進め方や姿勢にも要因があるのではないかと考えられます。更に、調査結果を見てみましょう。
 研修内製化の効果(複数回答)を上位から見ていくと、「経費削減」が65.8%、「社内の人材が有効活用できた」57.5%、「自社固有の研修ニーズに対応できた」53.4%、「社内のノウハウ・技術や技能が伝承できた」46.6%などが挙げられている。1位の経費削減は企業において至上命題であるので、言わずもがなというところです。ここで、私が注目しているのは、「自社固有の研修ニーズに対応できた」という項目です。裏を返せば、既存の研修は「研修ニーズに対応できていない」、それが結果として「効果が薄い」ということではないでしょうか?

・なぜ研修ニーズに対応できていないか
 この問題を紐解くには、二つの側面から考えていくことが必要になります。それは、研修を企画する企業側と運営・実施する講師側からです。

まず、企画する側の問題点として考えられるのが以下の通りです。
 ①研修を自社の戦略や具体的目標達成手段として位置づけけていない
 ②研修は年度行事のように実施そのものがルーチン化している
 ③ある研修とある研修が有機的に連動していない(研修実施の断片化)
 
一方、講師側の問題点として考えられるのが以下の通りです。
 ①ニーズのヒアリング不足
 ②講師得意分野やパッケージの押し付け
 ③知識・技術の一方的な講義
 ④効果よりも雰囲気・ノリを重視する

正確な原因把握には、きちんとしたヒアリングをして探索的因子分析をしないとわかりませんが、私が考えつく要素は上記の内容です。このような状況ですとズレが生じてしまうのは明らかです。

・内製化だけで効果的な研修ができるのか
 改めて研修の意義を考えて行きましょう。研修が直接業績に影響を与えることはありません。研修の結果、受講者の目指す行動変容が生じ、行動変容の結果業績にプラスの影響を与えるます。つまり、研修は企業の目指すところの手段にすぎないということです。この手段の内容如何によっては、コストと時間がかかってします恐れもあります。プラスの行動変容を起こすためには、心理学、社会心理学、組織行動学、コミュニケーション理論、経営学などの様々な知見を有し、客観的に状況を把握する力が前提となります。そのためには、人材育成のスペシャリストとして高度な知識とトレーニングが必要になってきます。配置転換や他業務との兼務が予想される中では、人材育成のスペシャリストとして活躍できるためには時間的な制約があまりにも大きすぎます。そこで、必要となるのが私達のような専門に特化した外部講師となります。(ここで、行動変容に関する知見をもたない講師や自分の得意分野だけで押し通そうする講師は除外します)
 そうは言うものの、私自身、研修の内製化が必要ないとは考えていません。例えば、新入社員研修や研修内製化の効果にも挙げられている「社内のノウハウや技術・技能の伝承」などは社内講師が担当するほうがメリットが大きいような気がします。

・私たち外部講師につきつけられている課題
 人がどのように行動変容にするかは、「その人自身」だけでなく「置かれた環境」にも影響を受けるということは認識しておかなければなりません。従来の研修では「人」だけにスポットが当てられていたような気がします。当然、主役は「人」ですからスポットは当てなければなりませんが、それは必要条件であり十分条件ではありません。同じカリキュラム・同じ講師で研修を実施しても、効果に差が生じるのは「置かれた環境」が異なるからです。この前提を把握しておかないと、効果的な研修は望めません。階層別研修(新入社員研修、マネージャー研修など)や目的別研修(営業研修、目標管理研修など)を実施するにしても、どのような属性で、どのような状況にあるのか、目指すゴールはどこにあるのか、そのためにはどのような「場」づくりが必要で、どのような知識をどのタイミングで提供すればよいのか、どのようにアプローチ(ファシリテーションやロールプレイ、ワークなど)を用いればよいのかなどをプランニングする能力が求めらるのではないでしょうか?だから、講師の得意分野の押し付けなどに終始してしまうと問題が生じしてしまうわけです。

本稿の締めくくりとして次の言葉を提言します。
「人」は単純な生き物ではない。また、一人一人特性も異なる。その集合体である組織のなかで「人」の行動変容に影響を与えるためには、ミクロ的な物の見方とマクロ的な物の見方が必要になる。

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