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人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

新入社員研修を終えて その課題と意味

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 本年度も新入社員研修を無事に終え、やっと落ち着きました。私の研修を受講して頂いた新入社員の皆さんが、現場でご活躍されることを祈るばかりです。

・今年の新入社員は『ロボット掃除機型』
 さて、公益財団法人日本生産性本部が毎年、新入社員のタイプを発表しているのですが、今年は『ロボット掃除機型』と命名されました。その根拠は「均一的だが効率的に動く」「プレッシャー(段差)に弱い」「たまに行方不明になる」とのことです。なるほどと膝を打ちたくなる表現ですが、今回は私が今年度の新入社員研修で気づいたことや感じたことを書いてみます。

 今年度の新入社員は、講師から見ても優秀であったと思います。ここで優秀の定義付けをしたいのですが、優秀とは素直だということにします。つまり、講師が説明する内容を素直に聞き入れて理解し、それを与えられた環境(ロールプレイングやワーク)でアウトプットしていたということです。

 このようなタイプが多かったおかげで、どれだけ研修を進めることが楽だったことでしょうか。と、安堵したいところですが、そうはいきません。従来の研修ではそれでもよかったのかもしれませんが、昨今、企画担当者や現場マネージャーの間には、研修に対するさまざまな思いがあります。それは「研修は時間とコストのムダ」ということです。その原因は、研修と実際の現場では環境が異なるということにつきます。

・「研修は時間とコストのムダ」なのか?
 その状況と解決法を見ていきましょう。まず、新入社員研修における受講者の前提条件を挙げて考えてみましょう。

  1. 新入社員は業務に関する知識がほとんどない、もしくは全くない。
  2. 新入社員は経験がないゆえに業務に関する判断力がない。
  3. その組織独自の「文化」になじんでいない。

 上記の条件では、マネージャー研修、チームビルディング研修、営業戦略研修で採用している手法であるアクション・ラーニングが採用しづらいことにあります。だから、新入社員研修では、新しい知識やスキルを右(講師)から左(受講者)から伝達していくことが中心になり、あらゆる状況を講師が具体的に説明したとしても、そもそも経験がないので実際の状況をイメージすることにも限界があります。また、ワークやロールプレイングでも、与えられた環境や場面での中での経験になります。

・現場で起こっていること
 一方、実際の現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか? 実際の現場では「人」「場所」「時」によって環境が大きく変わります。また、その組織特有の非公式な知識というものも求めらるので、研修で習得した知識やスキルをそのまま当てはめるには限界が生じます。特に、電話応対においてはそれが顕著に見られます。優秀である今年度の新入社員は、研修で習得したことをそのままアウトプットしようとするので、ミスやトラブルが発生します。ミスやトラブルが発生してしまうと「自分は研修でしっかりやってきた。講師からもいいフィードバックももらっている」という意識をもった新入社員は困惑し、そして業務に対する不安や自信喪失につながっていきます。そうなると、当然、新しい環境における行動のモチベーションが大きく下がってしまいます。この状況を放っておくと、最悪のケースとして早期離職につながっていきます。また、ここで採用や研修に携わった人事担当者と現場のマネージャーとの間で新入社員に対する認識のギャップが生じ、お互い不信感が生じる可能性も出てきます。
 しかし、そうは言っても新入社員の前提条件が大きく変わることはありませんので、導管メタファー的(知識伝達方式)内容や、あらかじめ状況が設定された中でのワーク・ロールプレイングが中心にならざるをえません。その中で、私が実施しているのが研修で学ぶスキルや知識の意味付けをしてもらうことです。環境が変化しても、不変的な意味付けを行うことで対処できるからです。

・受講者自身に考えさせ、理解してもらう
 例えば、「なぜ、相手の目を見てしっかりと挨拶をしなければならないのか?」「なぜ、電話応対では内容をしっかりとメモ取りをしないといけないのか?」ということの意味を考えてもらうことです。講師がその意味を一方的に説明するよりも、受講者自身に意味付けをしてもらうことで、深い所で理解できるからです。深い所で理解ができれば応用もしやすくなります。幸いなことに、今年の新入社員は優秀であったため、私から「考えて下さい」といったら真剣に考えてくれました。

 このようにして今年度の新入社員研修は終了しましたが、これはあくまで4月のOff-JTが終了したに過ぎません。あくまでも新入社員研修の目的は、できる限り早く環境になじみ成果を出せる人材になってもらうように行動変容を促すことです。ですから、ジーン・レイヴとエティエンヌ・ウェンガーが提唱した、正統的周辺参加モデルを組織内でも取り入れ、実施していく必要があります。OJTや正統的周辺参加モデルについては次稿に任せたいと思います。

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 本ブログの締めくくりとして、「1つの研修は、1つで完結するものではない。組織戦略に沿った複数の研修が1本の線に繋がることで、確かな成果が生まれる」という言葉を提起しておきます。


 

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