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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

日本の外交が稚拙だと言われる理由

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識者は、日本の外交を稚拙だと言いますが、具体的にどういうことか分かりますか?

僕は、よく分かっていなかったのだけど、最近少し見えてきました。

いつものように考える材料として捉えてもらえるとありがたいです。

 


拙な外交について語る前に、模範的な外交交渉の例を見てみましょう。

1980年代の、中国とイギリスにおける、香港返還交渉です。

まず、高校の世界史の教科書にも書いてあることですが、香港は3度に渡ってイギリスに侵されました(下表)。

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香港島と九龍半島南部は「割譲」とあります。領土としてイギリスのものとなったということです。

つまり本来は、九龍半島北部および新界地区の返還をどうするかという交渉であるはずでした。しかも返還後も、主権は中国に返還するが、支配権は数十年間はイギリスが持ち、徐々に中国の支配に戻していくというのがイギリスの腹案でした。

1982年(その前に既に事務レベルの会合はありましたが)、サッチャー首相(当時)が北京を訪問して、鄧小平(実質上の最高実力者)と初の会合を持ったときのイギリスの主張はまさにこの通りだったのです。

このときはイギリスはフォークランド紛争で圧勝したばかりであり、大英帝国の威信を久しぶりに取り戻したサッチャーは意気揚々だったはずです。

 

 

ころが1984年に決着がついたときには、1997年には割譲地区も含めて、中国に主権も支配権も(ちなみに中国側は一貫して主権と支配権は切り離せないと出張しました)一括返還するということになりました。つまり、中国の圧勝ということです。

なお、ほとんどの交渉は秘密裏に行われていて、報道陣にも具体的な内容は明かされていません。なので、憶測にすぎない部分もあるかもしれませんが、中国の勝因はだいたい以下のように言われています。

  • イギリスは最終責任者が明確でなかったが、中国は鄧小平が実質上の全権を持っていた
  • イギリスは香港の平和的返還と返還後の繁栄にも責任があると考えた(そうできなければ世界中の笑い物)が、中国は交渉決裂時には強制回収も辞さないという態度だった(これはおそらくブラフだと思われるがイギリスは本気で恐れた)
  • 鄧小平は1984年9月を交渉期限と定めた。このことがイギリスの焦りを誘った
  • 中国側は、三地区同時返還および主権と支配権の非分離ということに関して、一切の妥協をしなかった
  • イギリス側は各種条約と西側諸国および香港の支持がある有利さからか情報収集を怠ったが、中国側は交渉相手の個人の私生活に関わる情報まで徹底的に収集・分析していた

イギリス側には作戦ミスや油断があったようです。しかし、それを上回る中国(鄧小平)の外交巧者ぶりが際立ちます。

このあたりの評価は他にもいろいろあるでしょう。いやそうじゃないという意見も傾聴に値しますが、今回押さえておきたいのは、そういうことではありません。

重要なのは、国際法の建前通りであるならば返還する必要のない香港島と九龍半島南部が返還されたということです。

このことを日本人があまり意識していないのが、一番の問題だと僕は考えます。

※なお、この交渉のもう一つ模範的な面は、これだけの中国の圧勝にも関わらず、イギリスも最終的には面子を失っていないということです。これもなかなかすごいことだと思います。だから、日本人の多くがこの交渉の意義に気づかないのかもしれません。 


れに対して、今回の尖閣問題に関して、日本の外交が稚拙だと言われるのは次のような理由からです。

  • 唐突に意味のない国有化を行い、その結果、反日デモを招いた
  • 反日デモは終息したが、中国の強硬化を招く結果となった
  • 日本の立場はそもそも尖閣に関しては国境問題はないということであり、中国の強硬姿勢を招くのはまったく得策ではない

いま一番恐ろしいのは、中国の強硬姿勢に負けて、交渉のテーブルに乗ることです。交渉のテーブルに乗るというのは、国境問題があるということを認めることになるからです。

これすなわち、中国に一歩譲歩したことになります。一つ譲歩すれば、外交術の巧拙に差がありすぎるので、次々と譲歩を引き出されてしまう可能性が高い。

せっかく実効支配しているのに、うかつな動きで中国に口実を与えてしまったことを識者は非難しているということです。

日本人としては承服しがたいのですが、竹島問題に関して一切交渉のテーブルに乗らないという韓国の態度こそが外交の基本だと言えます。竹島に関して国際世論に訴えると言う政府の姿勢が一部で批判されているのは、それがまったく意味がないからなのです。

国内世論に対してのリップサービスのつもりかもしれませんが、だんだんと引っ込みがつかなくなります(戦前の日本の外交を見よ)。

そんなことよりも相手がどうすれば交渉テーブルに乗ってくるのかを真剣に考えるのが外相の仕事でしょう。乗ってくれば一つずつ崩していくことも可能になります。

共同管理などということを言っている者までいるそうですが、まだ交渉も始まっていないのに譲歩するなんて、それこそ世界中の笑い物でしょう。

※日本の難しさは、韓国との交渉で成功を重ねると、それを今度は中国に逆手に取られる可能性があるということです。とてもデリケートな問題なのです。それなのに今の段階で竹島の共同管理などと言い出せば、そこを中国につけこまれる可能性がある。これはとても迂闊な発言であり、マスコミはもっと非難すべきだと思うのですが、今のところは物議をかもす可能性ありぐらいの論調です。譲歩は交渉に交渉を重ね、諸外国の反応を完全に分析し終えたあとにするものであって、拙速というのもおこがましい発言でしょう。


れでは日本はどうすればいいのでしょうか?

外交下手と言われる日本ですが、近年にも成功例はあります。

小泉元首相の北朝鮮訪問です。

小泉は、平壌に乗り込んですぐに、金正日に拉致問題の存在を認めさせました。こんなことは当然ながらその場で突然できるわけがありません。事前に決まっていた話のはずです。

このときは、ロシアのプーチン大統領の後ろ盾を得たと言われています。2003年のエビアンサミットの開催日が、プーチンのゆかりの地であるサンクトペテルブルクの式典と当初重ねっていたので、小泉がシラク大統領にずらすように提案しました。それが受け入れれたことに対して、プーチンが恩義を感じたのだそうです。

外交秘話的な話なので、そのまま信じていいかは分かりませんが、小泉は他の要人に対しても、いろいろと感謝されるようなふるまいをしていたと伝えられています。特にアメリカとのベタベタぶりは、国内では批判もありましたが、ブッシュはかなり感謝していたことでしょう。

 

 

ういう人間関係づくりや根回しが結局は外交においても大事なのです。

特に交渉相手の面子に気を使うのが成功の秘訣でしょう。面子といえば東洋的な発想と思われるかもしれませんが、洋の東西を問わず、政治家や高級官僚であれば面子を大事にすることには変わりありません。

「寄らば斬る」などと威勢のいいことを言ったり、「国際世論に訴える」など抽象的かつ実効性のないことを言っている政治家に外交は務まりません。

そういう幼児的な発言や反応が、日本の敗戦の遠因だったと我々は学校の歴史の時間に学んだはずです。

小泉元首相レベルの外交手腕をもつ人が現れることを切望します。彼の靖国参拝は中国からかなりのクレームがありましたが、日中国交回復の記念式典は結局開かれたということだけでも、今の外交とはかなりレベルが違うと言えるでしょう。

 

お、外交に関しては素人の意見と一笑にふされるのもいたしかたないと思っています。

ただ、相手の面子を立てつつ、一貫した主張をし、一方で外堀を埋めて、最後にお互い譲歩もありというやり方は、仕事においてもタフな交渉相手との交渉術として有効です。

こちらは僕の経験からも言えることです。今回の話は、日本の現状への強い憂いから書き始めましたが、最終的には仕事方面で役立てていただければという気持ちになりました。

(文中敬称略)

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