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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

セミナーでよく使われている"洗脳"テクニック

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洗脳ごっこ.jpg先日、亡くなった後輩が書いた本(右写真)を買った話をした。

ありきたりな書評を書くのも気が引けたので、どうしようか考えていたのだが、セミナーでよく使われている"洗脳"テクニックという観点でまとめてみるのがいいかなと思った。

※写真はAmazonより拝借しました。リンク先は普通のAmazonのサイトです。

 

"洗脳"という言葉は禍々しいが、著者の故・藤井康宏君も書いているように、"軽いかけひき"にも使われていることであり、こういうことがよくわかっていない"マジメな人が一番こわい"のである。

というのは、こういう人たちこそ"洗脳されてもその自覚がなく"、"他人を無自覚な善意で洗脳してまわる"からだ。

セミナーというのは知識の伝達だけでなく、行動変容を伴ってこそいいセミナーとされるので、そこにおいて"洗脳"テクニックが使われているのは当然のことである。それ自体は非難されるべきではない。

"あ、いまあのテクニックを使ったな"というようなライトな感覚でセミナーを楽しみつつ、有益な情報を自分のものにしていくのが、正しい大人の作法というものであろう(藤井君も同じことを言うだろう)。

なお、ここで言うセミナーは、街中などで広く開催されているもので、富士のふもとなどで閉鎖した空間を作り、最終的な人格改造を目指す、いわゆる「自己改革セミナー」などの危険なものとは違うものだ(そこで行われていることは本当に恐ろしい)。

とはいえ、グラデーションをなしているのも事実で、どこからが危険なセミナーという線引きは難しい。主催団体に対する信頼性しか測る指標はないだろう。

いずれにしろ"洗脳"テクニックの何たるかを知らないと、どんどん危険な方向にはまっていくということは押さえておきたい。

 

ずは、根本原理からおさらいしよう。

洗脳のプロセスは、よくご存じだろう。『洗脳ごっこ』にも下のようにまとめてある。

1.誘う――人に影響をおよぼす

2.集団に取り込む――人の人格を変革する

 a.解凍(分離)――人間エネルギーのフタ(人格=固定観念+習慣行動)をこわす

 b.変革(移行)――エネルギーを解放して流露させて方向づける(感情の発露!)

 c.再凍結(統合)――エネルギーを循環させて固定する(新たな価値!新しい自分!)

3.集団を維持する――新しい人格を維持する(つまり、どうどう巡り)

このようなプロセスを可能とする根本原理がある。

それは、

一貫性の圧力とコミットメントの呪縛(『洗脳ごっこ』)

である。

人には自分が一貫した存在でありたいという願望がある。あるいは一貫性がないと責められたくない気持ちがある。そこにつけ込むのが洗脳の根本原理なのだ。

コミットメントとは、局面ごとに自分の誓いを口に出したり、書面に書いたりして強化することを意味する。コミットメントをすることで一貫性の圧力はいや増すことになる。くだけた言い方をすれば「さっき、言っただろう!」と言われると対抗しようがなくなるということである。

繰り返し繰り返し、コミットメントを求め、一貫性の圧力をかけ続けると、それがボディーブローのように効いてきて、ある日突然新しい人格が立ち現れる――これが洗脳の本質なのだ。

 

れでは、以下にセミナーでよく使われている"洗脳"テクニックをお伝えしよう。

ただ、くれぐれも言っておくが、こういうことをやるセミナーが必ずしも悪いというわけではない。

繰り返しになるが、セミナーというのは知識の伝達だけでなく、行動変容を伴ってこそいいセミナーとされるので、"洗脳"テクニックを使うのは必要なことなのだ。

あなたがセミナー講師なら、テクニックとわきまえた上で、どんどん使うことだ。

ただ、以下をテクニックではなく本気で信じている講師がいたとしたら、これは要注意だ。 

 

「他人は変えられない」

「他人は変えられないから自分を変えよう」などというのは、もちろん初歩的な"洗脳"テクニックだ。

ここまで、洗脳の話を聞いてきた読者であれば、他人を変えるなんて容易だということにすでにお気づきであろう。

第一、他人を変えられないという主張する人が講師をやっていていいものだろうか?

冷静であれば、このような疑問が次々と湧いてくるのだが、セミナー会場などにいって、"先生"のファンに取り囲まれたりすると、こういう疑問はあまり湧いてこなくなる。お金を払って参加していたらなおさらだ(そして、その気持ちは参加費に比例する)。

有名な"先生"ならますます疑問に思わなくなる。成功していない自分と成功している"先生"をどうしても比較してしまい、まずは耳を傾けようという気持ちになる。"先生"は、洗脳がうまいから成功しているだけかもしれないのだが・・・。

こうして「自分を変えよう」という部分が刷り込まれて、講師のいう通りに変えられてしまうのだ。

 

「他人を100%受け入れよう」

「他人は変えられない」と同じテクニックだ。

ここで言う「他人」とは、もちろん講師のことなのだが、表面上は一般論として言われるのがミソだ。

これを強化するためにワークなどをやらされることもある。受け入れがたいことをお互い言い合ったあとに、今度は褒めあうなどのワークだ。

これはかなり心を揺さぶられる。こういった強烈な"揺さぶり"のワークが多いほど、危険なセミナーだと言える。

なお、セミナー中のワークは言うまでもなく、「コミットメントの呪縛」を実現するためのテクニックだ。

 

「主体性を持って」「自己責任」「自立しよう」

 社会学者の宮台真司氏によると、自己改造セミナーの問題点は、ことさら「主体性」を強調するところだという。自己改造セミナーでは、社会システム(社会や企業や学校)の側の問題が、人格システム(個人)の問題に読み変えられてしまう。社会システムの現状はまるごと肯定したまま、個人の「かまえ方」さえ変えれば、苦痛や痛みが除去されるかのように偽装される。「気づき」によって解放されれば、より自由で、精神的で、主体的な生き方ができると説かれるのである。宮台氏は言う。
 「今日の過剰に複雑で不透明な社会環境のもとで『主体的』であることなど、わたしたちの誰にとってももはや容易ではない。それにもかかわらず『主体的で』あることを肯定的にもち上げる言説に、わたしたちはたえずさらされており、否定的な自己意識に脅かされがちになっている(後略)(『洗脳ごっこ』)

長い引用になった。要するに、今の世の中で我々が主体的な選択をするというのはほとんど不可能なことなのに、主体性を持てと吹き込まれることで、我々は揺さぶられるということである。

「他人は変えられないから自分を変えよう」というのと、ほぼ同じことである。

講師の言っていることは、結局、「主体性を持って、しかも自分の責任で私の言うことを受け入れよう。それが自立なのだ」ということだ。騙されてはいけない。

そういうフィルターを外したうえで、有益なことなら受け入れればいい。

 

「ひとと比較するな」「自己承認しよう」「自己実現しよう」

この3つは三大噺のようにセットとなっている。

自分の良さも悪さも他人と比較しないでどうやってわかるのか疑問に思うのが冷静な人間ではなかろうか?

しかし、セミナー中にいろいろと揺さぶられて、「自己の卑小さ」に打ちのめされている人間にとっては、これらは素晴らしい救いの言葉、まさに福音となる。

こうして、あくなき「自己実現」(なにしろ一生かけて達成できる人はほとんどいないとされている)のために、この次もセミナーに参加しようと思うのである。

 

「我々は世間から見たら変わり者なんですよ」

この言葉が出てきたら、そろそろ仕上げにかかっていると思ってよい。

「世間」という仮想敵に立ち向かう同志の集まりが、このセミナーだったというわけだ。

なお、この「仮想敵」のテクニックはよく使われる。僕もときどき使う。広告宣伝、営業でも頻繁に使われる。

もちろん政治においてもっとも頻繁に使われている。

 

「友達やご家族にもぜひ」

これは、洗脳のプロセスでいえば「3.集団を維持する――新しい人格を維持する」に該当する。

洗脳を固定化するためには、勧誘させるというのが一番の手立てなのである。勧誘こそが、一貫性の圧力とコミットメントの呪縛を再生産する、最高に有効な手段だからである。

多くの人が勧誘しているセミナーは、その意味でとても危険だ。

 

上のようなことは、多くのセミナーで行われていることである。僕もセミナーを主催しているが、自覚的に使うことがある。

さらに、営業でも恋愛でも夫婦間のかけひきでも、もちろん政治や宗教でも、ありとあらゆる場で使われている。

なぜなら、逆にこのようなテクニックを使わないと、「気づきがない」とか「提案がない」とか言われて怒られるからである。

人は、みな多かれ少なかれ洗脳されたがっているものだ。何から何まで自分で考えるのは、とてもしんどいことだから。

商談や店舗でのサービスもそうだ。これらのテクニックを使っていない人は、逆にホスピタリティがないとか、自分本位だと怒られたりするのだ。

たとえば営業電話。いきなり自社の商品の説明をマニュアル通りにやる。大概の人は激怒する。洗脳のプロセスに沿っていないからだ。上手なテレホンセールスは、洗脳のプロセスを巧みに使っている。洗脳のプロセスは、脳にとって気持ちいいのだ。

だからこそ、我々は洗脳について知る必要がある。

知った上で、「ああ、上手に使っているな」と思えばいいのである。

怖いのはこういうことを知らずに、巧みに洗脳されて、その価値観を無条件で信じてしまって、人にも広めようとする人だ。善意からの押し付け、これが一番たちが悪い。

こういう善意の押しつけをする人がたくさん群がっている場所を見極めて、そっと距離を置くのが、騙されないコツなのである。

 

『洗脳ごっこ』は、とてもよくまとまっている。身近なところで使われている洗脳テクニックを主に取り上げているので、分かりやすいし、応用も、防御もしやすい。

途中のヒモ師のやり口の部分などは、面白すぎる。

今こそ必要な本だと思う。売れなかったのは、オウム関連で一通り洗脳本が出た後だったから、周回遅れと思われたからだろう。

しかし、今になって読むとこれこそがトップランナーだと言える。

 

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