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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

亡くなった後輩の本を買った

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高橋容疑者が逮捕された。

報道によれば、いまだに彼はオウム真理教の教義を信じ、松本死刑囚を麻原尊師として崇敬しているらしい。

臨床心理士の妻にその話をしたら、「ここまで人生を台無しにされたのだから、そうなった理由を否定するのは自己否定になるのよ」と教えてくれた。

友人の開米瑞浩さんは、これを「認知不協和」というのだと教えてくれた。全学連の闘士の一部などが浅間山荘事件を経た後も過激な社会運動家として活動を続けているのは、この理論で説明できるらしい。

いずれにしろ「洗脳」の力は恐ろしい。もちろん解除される人も多いのだが、いつまでもされたままの人もいる。

洗脳について再勉強したいと思っていたら、2010年にまだ43歳の若さで亡くなった大学の後輩のことをふと思い出した。たしか彼には『洗脳ごっこ』という著書があったはずだ。

 

井康宏君は、大学のバレーボールサークルの後輩だった。在学中は、僕の下宿が大学のすぐ横にあったこともあり、よく遊びに来てくれた。卒業後疎遠になったのだが、僕の同学年のA君の結婚披露宴が京都で催されたときに7、8年ぶりぐらいに再会した。

A君は卒業後も京都にいたので、藤井君とは親しくつきあっていたのだった。

藤井君は、卒業後大手情報誌出版社に勤めたのだが、先輩が独立するというのでついていった。その会社がつぶれたのでフリーライターになっていた。

当時は、自分がフリーライターになるなどと思ってもみなかったので、うらやましいような、でも大変だろうなと思うような、複雑な気持ちで彼の話を聞いていた。

ふたりとも東京が拠点だったので、披露宴のあと京都に泊まり、夜はあやしげなロック・バーでひたすら酒を飲み(何しろ声が聞こえない)、その後宿泊したホテルで語り合い、翌日は老舗の料理屋で昼食を取り、一緒の新幹線で帰った。行く店のセンスの良さに、「藤井はいい意味で遊び人だったんだなあ」と思った。

その後、ハガキのやり取りなどもしたが、結局それ以来会っていない。

2003年に出た『別冊宝島 僕たちの好きな京極夏彦』を買ったら、藤井君の署名記事が2本載っていた。頑張ってるんだなと思った。後で知ったのだが、彼はライターとして将来を嘱望されていたらしい。僕が雑誌をほとんど買わない人間だったので、彼の活躍に気づいていなかっただけのことだった。

 

A君から電話があったのは、昨年のことだった。A君は年賀状をやり取りしている数少ない友達なのだが、例の披露宴以来声を聞いていなかった。15年ぶりぐらいだ。まさに「君子の交わり」である。

「森川、藤井どうしてるか知ってるか?」

相変わらずの高槻なまり(高槻とか寝屋川とか大阪と京都の中間あたりはイントネーションがちょっと変なのである)の大阪弁でA君は僕に問うた。あの後、藤井君と何回もあったと思っていたのだろうか。

「いや、結局おまえの披露宴以外ではあってへん」 僕もあやしい大阪弁で答えた。

「あのなー、おまえWebすぐ見れる? "藤井康宏"で検索してみて」

ある編集者のブログに「藤井が死んだ」と書いてあった。

「いや、ずっと年賀状のやり取りをしてたんやけど、今年来なかってん。それで心配になってネットを調べたらその記事が出てきたんや。消息を調べとるんやけど、あんまり情報がなくて。それって、やっぱりあの藤井やろか?」

「たぶん、そうやろなあ」

若い。若すぎる。僕は言葉を失った。A君とそのうち再会しようと約束して、電話を切った(まだ果たされていないが)。

 

っぱり僕は薄情な人間のようだ。その後、すっかり藤井君のことは忘れていた。墓参りすらしていない。というか、本当に亡くなったのかさえ調べることを怠っていた。

それが、高橋容疑者の逮捕で思い出すのだから、世の中何がきっかけになるかは分からない。

Amazonで『洗脳ごっこ』を探したら、マーケットプレイスにしか存在していなかった。

それも14円! 売れなかった本の末路はつらい。僕は身につまされる思いだった。

しかし、中には5,000円の値がついているのもあった。このあたりは出品者の思い入れもあるのかもしれない。

僕は14円のほうを買った(藤井、許してくれ。でも、5,000円の価値はある本だと思う)。送料が250円なのが、藤井君のために悲しい。

それが、昨日届いたので、今読んでいる最中だ。

 

日、誠ブロガーの荒木亨二さんと飲んでいたときに、本を出すというのは格別なことだという話になった。お互いあまり売れていないので(荒木さんは数年以内にベストセラーを出すと僕は確信している)、いい本は売れないと二人で悔し紛れにぼやいた。

この辺、自画自賛が鼻につく人もいるだろうが、そもそも根拠のない自信がないと本など出せないものなので、ご容赦をいただきたい。売れていない本の著者は100%、いい本は売れないというものなのだ。

それでも出すことには意義がある。人生に何かを残したという感覚があるからだ。

もちろん本でなくてもいいのだが、我々のような「文弱の徒」にはそれぐらいしかない。

藤井君の『洗脳ごっこ』もいい本だ。他の洗脳本を読んだことがないので比較できないが、さすが理学部出身だけあって論旨はすっきりしているし、雑誌で鍛えられているので文章も読みやすい。

そして、何よりも視点が鋭い。洗脳する側とされる側の両方からの視点で語っているのもすばらしいし、人と人が出会えばお互い洗脳しあうものなのだという観点もありそうでないものだ。

そのうえで、もっと軽やかに「洗脳」とつきあおう、そうすることが「洗脳」から逃れる唯一の手段なのだという主張も頷けるものだ。

今こそ、読まれるべき本だと、僕は思う。やはりいい本は売れない・・・。

僕は、読んでいて藤井君と語らっている気分になった。彼なら素でもこんな話し方をするに違いない。

売れない本でも残す意義があるというのは本当なのである。著者が死んでも、こうやって語らうことができるのだから。

後悔があるとすれば、生きているうちにほめてあげられなかったことだ。

今更ながら、ご冥福を祈る。

本の内容については、機会を改めて紹介したい。

 

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