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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

協力は良し、つるむのは悪し

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そして、がんばりすぎるのはもっと悪い。

社会の罠評論家もやっている森川滋之です。今回は、理念教育研修に潜む罠について語りたい。

僕が以前いた会社では、2000年を期に会社の理念を作り、それを浸透させるための研修を始めた。

ネガティブがウリの僕だけど、こういうのは意外と好きだ。やるなら徹底するというスタイルは好ましい。また、ネガティブだからこそ、理念という言葉に対して憧れがあったりもするのだ。

さて、その研修にも、もちろん罠はあった。

 

ずは中間管理職が順番に集められた。僕が参加したのは、第2回目。第1回目の参加者と入れ替わりだったので、研修内容の情報は一切伝わってこない。

場所は、富士の裾野。理念教育にはふさわしい。脱走はほぼ不可能。

一泊二日の研修で昼食前に現地集合。第1回目の参加者は昼食を取ってから帰る。我々は研修情報を得ようと接触するのだが、彼らは疲れきった顔で「やればわかる」というだけ。どうやら緘口令が敷かれているらしい。

昼食後ジャージに着替えて研修室に集まれとの指示。行くと、突然エアロビが始まる。

20分間、飛んだりはねたり。きついですよ、これ。

毎回交替で役員が来る。無理をしないようにとの指示がインストラクターから出る。特に役員に向かってだ。でも、役員ってがんばるんですよ。がんばるから役員になれるわけでして。

50歳を過ぎている人たちががんばっているのに、当時34歳の僕ががんばらないわけにもいかない。

終わったときはもうヘトヘトで、これは洗脳教育だなと僕は思ったりもした(注)。

(注)出身会社の名誉のために言っておくと、微妙に違うと思います。というのは反発する人は、ずっと反発してたから。

 

から考えると、最初から周到な罠が張り巡らされていた。

チームに別れての研修だった。座学中心だったが、最初に全員で外に出て、ゲームをやらされた。

どんなゲームだったか詳しく覚えていないのだが、要はチーム全員の協力が必要なゲームだった。

エアロビでへとへとになり思考停止に陥っていたほとんどの参加者は、チームワークの大切さを改めて無条件で受け入れたのだった。

しかし、洗脳教育の疑いを捨てきれずにいた僕は、少し斜めからこの状況を見ていた。

いつだって、みなが信じることを疑うのは、生き残るためには必要なことなのだ。

 

修は夜まで続く。

一日目の最後のイベントは、オリエンテーリングだった。 

タイムを競い、1位から3位までには賞品と金一封が出るとのこと。生涯を通じてハングリーな僕は、俄然やる気が出た。この発表があるまでは、夜のオリエンテーリングは危険だと文句を言いそうになっていたのだが。

一人ずつ、5分ごとの間隔をあけて出発。渡された地図は、かなり抽象的なもの。

年配の人ほど時間がかかると予想されるため、年齢順に出ていく。僕の出発はかなり後ろのほうだった。

しばらく歩いていると、人が団子になっているのが見えた。どうもつるんでいるらしい。地図を見ながら、ああでもない、こうでもないと言い合っている様子だ。

彼らは昼間に得た、チームワークが大切という教えを実践しているのだろう。

僕は、団体に紛れ込まないよう注意深く彼らを避けた。これはもう本能的な動きだった。

団体でゴールしたら、賞金の分け前を要求する輩がいるかもしれない。

 

の選択は正しかった。

途中から、僕は独走を確信していた。

7割ぐらいのポイントを過ぎたときには、周りに誰もいなくなっていたからだ。

自分を信じてよかったと思った。

ところが、最後の最後に自分を疑ってしまった。最後のポイントを発見した瞬間、なんだかできすぎだと思ったのだ。

あとは宿舎に帰るだけというときになって迷ってしまった。この道はおかしいと別の道を選び、しばらく行ってから最初の道が正しいことに気づいた。

このときに10分近くロスしてしまった。

結果は2位。1位とは5分差。最後まで自分を信じ続けていれば、僕が1位だったのだ。悔しい。

単独行動をする場合は、最後の最後まで己を信じろ、という教訓を僕は得た。 

 

発は後ろのほうだったが、帰ってきたときには数人しかいなかった。

10人ぐらいいたインストラクターのサブリーダークラスの人が僕に話しかけてきた。

こういう競技ではつるんだら負けなんだよね」

おいおい。最初のゲームでの美しい結論はどこにいったんだ......。

好意的に捉えれば、協力が必要な場面と、単独行動が必要な場面の両方があるということだろう。言い換えれば、協力はいいが、つるむのは良くないということだ。

洗脳教育を疑っていたが、自分の頭で考えろという深い意図もあったようだ。

 

ろいろな教訓を得た研修ではあったが、今から話すことが一番の教訓である。

当時の僕は体重が90キロ近くあった。身長が178センチなので、完全な肥満である。

オリエンテーリングが終わった瞬間、ひざが痛くてたまらなくなった。

見ると大量のエアサロンパスがある。用意のいいことだ。ありがたく、一缶分ぐらいをひざにかけたのだが、痛みは治まらない。

前日の深夜に小雨が降ったため地面がぬかるんでいた。ひざにかなりの負担がかかったようだ。

研修の翌日には、ひざが伸びなくなり、会社を休んで病院へ行った。

診断は関節炎だった。鎮痛剤を打ってもらってようやく歩けるようになった。そのとき血液検査をしたら、尿酸値が異常に高く、それ以来尿酸値を抑える薬を飲み続けている。

金に目がくらんで、がんばりすぎてはいけない――これが最大の教訓である。

そんなことより労災を申請すればよかったな。

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