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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

成功者が人をありがたいと考えているとは思えない理由

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以前、成功者は論理に弱いのが強みだと書いたことがある。

今回は、知識があやふやなのも彼らの強みだということを"比較優位説"への理解を補助線に解き明かしていきたい(注)。

なお、比較優位説は自由貿易が最良だとする論理の基盤になるもので、TPP反対派には評判が悪いと想像する。TPP反対派の中には言葉の暴力としか思えない議論をする人も少しいるようなので言い訳しておくと、今回は分業というものが成り立つことの論理的基盤として紹介しており、TPPに関しては関係ない。

僕自身は現在の日本におけるTPPに関する議論の論点がほとんど理解できない(というか賛成派と反対派は同じ論点で話をしているのかさえ分からない)ので、TPPに関して言及できないし、したいとも思わない。

(注)なお、気づいておられる方も多いと思うのだが念のため、このブログは半分まじめだが、半分はブラックユーモアでもある。多少の牽強付会さには、どうか目をつむっていただきたい。

 

較優位説の細かい説明は、ウィキペディアを見てほしい。

▼比較優位 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E8%BC%83%E5%84%AA%E4%BD%8D

ただし、数字に弱い人は見ないほうがいい。以下のことだけ理解し、信じてほしい(二番目は特にややこしいので、下のほうで図解した)。

  • AとBの二者(国であるのが普通だが、個人でも成り立つ)の間で、Aのほうが生産性が高い事業Xがあれば、Xに関して、Aを絶対優位、Bを絶対劣位という
  • AとBの二者の間で、XとY二つの事業があり、どちらの事業に関してもAのほうが生産性が高いとする。また、Xにおける生産性の差とYにおける生産性の差を比較するとXのほうが大きいとする。この場合、Yに関して、Bを比較優位、Aを比較劣位という
  • どちらの事業でも絶対優位であるAが、Bに対してXとYの両方の成果物を販売するよりも、お互いに比較優位な事業の成果物を販売しあうほうが、全体として富が増える
  • 上は、三者以上の間でも成り立つ

ウィキペディアに書いていることは、だいたい上のようなことである。このことを毛織物(Xに該当)とワイン(Yに該当)の例で説明している。

注意してほしいのは、箇条書きの2番目。ややこしいとは思うが、ここだけは理解してほしい。ここがポイントなので図解しておく。

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上の図で言えば、J国がA国に自動車を輸出し、かわりに米を輸入すると、全体の富が増えるということだ(注)。

(注)この例をみて、森川はアメリカから米を無関税で輸入するのがいいと思っていると勘違いされたら心外だ。牛肉のように和米は高級米だなんて行き方はダメ。これ以上水田が減少するような政策は、日本の治水という観点から反対する。

 

較優位説は、よく個人レベルの例にたとえられる。

こんな例だ。

ある町に優秀な弁護士A氏がいる。彼は弁護士としてだけでなく、タイピストとしてもかなり優秀で、町のどのタイピストよりも速く文書が打てる。さて、彼はタイピストを雇うほうがいいだろうか、それとも自分でタイプしたほうがいいだろうか。

答えは、タイピストを雇うほうがいい。A氏を除いて、町で一番タイプが速いB氏を検討するとしよう。

弁護士としては、A氏が絶対優位であり、比較優位である。これは比較にならないほどだ。一方タイピストとしては、A氏が絶対優位だが、B氏が比較優位である。A氏がB氏に仕事を出すことで(上のウィキペディアの記事にあるとおりの理由で)町全体の富が増える。

これが格別な得意分野がなくても人が職業を選択できる(つまり分業が発生する)理由である。また外注化などということも比較優位があるから成立する。比較優位万歳ではないか。

 

て、驚くべきことは、絶対優位と比較優位とを取り違えている成功者が多いということだ。

つまり、AさんとBさんがいて、AさんはBさんよりも優れたところがあるが、BさんにはAさんより優れたところがある。それぞれの"比較優位"'(誤用)があるでしょう、だからみんな平等なんだみたいなことを言うのだ。

そうではない。仮にあらゆる面でAさんがBさんにまさっていたとしても、AさんとBさんは平等なのだ。その勝り方の大小でBさんにも道が開けてくる。Bさんにも人の役に立てる局面が出てくる。

 

ンバーワンじゃなくていい、オンリーワンになろう、なんてことも成功者はおっしゃるようだ。

自分もそうやってきたと。そして、オンリーワン同士でコラボレーションしていこうなどとのたまう。

誰にでも強みはある。それを伸ばそう。人と比較して優位なところでオンリーワンになろう。まさに"比較優位"だよ、と。

違います。それは"絶対優位"というのです。ただ、"比較優位"という言葉がよく分かっていないのが、彼らの強みでもある。"比較優位"な者たちから搾り取ることに何の痛痒も感じないからだ。

比較優位なら、ナンバーワンでもオンリーワンでもなくていい。

プチ成功者たちはすぐに、この道ナンバーワンとか、ニッチなこの世界ではオンリーワンとか、そういった者同士で組みたがる。

見込みのある人は、寄ってたかってオンリーワンに引き上げて仲間にいれて、プチ成功者同士で富を独占しようとする(下図は「自己啓発も勤勉も時代遅れ」より再掲)。

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それが悪いとは言わない。何度も書いているが彼らの営業妨害をするつもりはないし、それに僕が声高に叫んだとしても影響力はまったくない。

だから、ナンバーワンでもオンリーワンでもない者から搾り取るのもいいと思う。だまされるほうが悪い(だまされる人を減らそうとこのブログは書いているが)。

ただ、プチ成功者ではなく、真に尊敬される成功者になるには、ナンバーワンでもオンリーワンでもない人たちの"比較優位"を見つけ出して、雇用の創出につなげて、社会全体を富ませることを考えなければいけない。

 

このブログは、仕事それ自体を楽しむ人を増やすことを目的に書いています。

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