UX(ユーザーエクスペリエンス)を黎明期から追いかけ続けてきた筆者は、昨年度の成長期を経て、いよいよ今年度は成熟期に入ろうとするUXの姿を再び追いかけることにした。第2章の最後に「UXは概念や理念」であり「デザイン思考などの方法論でUXを実践することの必要性」を論じてきた。ただし、その孤高な理念を下敷きにしても、なかなか実際の業務に反映できない、もしくはその効果や価値が見えにくいとの話を、特に現場ではよく耳にする。そこで第3章では、UXの成熟期を見据え「より現場に即したUX」とは何か、もしくは「UXを通じて何が日頃の業務や事業全体に貢献するのか」といったことに焦点を絞り、言及してみたい。

【第6回】Eコマース成功の鍵はUXだ

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インターネット上でのEコマースビジネス(以降EC)は年々拡大しており、経済産業省の「電子商取引」に関する市場調査によると、B2C市場では2013年の約11.2兆円から2014年は約12.8兆円と14.6%の伸びを示している。それに対しB2B市場は、「狭義のEC」(インターネット技術を用いたコンピューターネットワークシステムを介して商取引(受発注)が行われ、かつ、その成約金額が捕捉されるもの)でも2013年で186兆円、2014年は196兆円と、伸びは少ないながら莫大な金額の取り引きがECを通じて行われている。情報通信の分野でも8~10兆円の市場規模でクラウドの拡大がけん引し、年率においても10%内外の伸びを示している。私のカバー領域がB2Bなので、今回は中でもITに的を絞りECの話をしてみたい。私の予見では、「今後10年スパンなら、ほぼ100%のB2Bアプリはクラウドから提供される!」しかも、「自社内にはアプリはおろか、個人情報などほぼすべてのデータを持たない!」、そういった経営スタイルに変革していくと考えている。

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■IT市場でのEコマースとは

B2Cを例にとると分かりやすいと思うが、すぐ思いつくECは、低価格なゲームのダウンロードだろう。インターネット上のありとあらゆる広告媒体やSNS、場合によってはテレビCMなどをとおしてユーザーに情報が告知され、それを見たユーザーはそのアプリをダウンロードし、使い、楽しむ。B2Bも基本原理は同じで、違うのは価格であり、購入→利用→課金→保守などのルートがやや複雑になっていることぐらいだろう。前回のコラムでは、その流入経路が多角かつ複雑化しているオムニチャネルの話をしたが、今回はB2BにおけるUXを駆使したサイトの売れるポイントを中心に考えてみたい。デジタルマーケティング上は、リードすなわち見込み客を「お問い合わせ」や「資料請求」といったアクションから獲得することが課題だが、ECの場合は、それに加えフリートライアルの申し込みまでルートを引くことが重要だ。もちろんそれ以前に「この会社のサービスなら、業務効率が図れそうだ」「セキュリティが万全だ」「簡単に使えそうだ」といった確信を持っていただかないと、なかなか申し込みにはつながらない。また、一度申し込みを決意されても、入力項目数や個人情報の内容、場合によっては長々としたアンケートが原因で離脱になる。お客さまのアプリ検索や申し込みの動機を把握し、そのレベルに応じてハードルを上下させることが必要だ。それが単にフリートライアルであれば、「名前」と「メールアドレス」だけなどヒヤリング項目は最小限とし、まずは使ってもらうという目的にまい進するのが得策だろう。

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■納得させるUXを仕込む

「この会社なら...」という納得のポイントはどういったことなのか。その構造を以下に示した。大きくは、「集客デジタルマーケティング」「フリートライアルマーケティング」「契約・課金プロセス」「フォローマーケティング」の4ステップだろう。そもそも、プロセス上で並ぶ「マーケティング」という言葉は、「営業の手をかけないこと」を意味する。大口顧客や、すでにアカウント営業が付いている場合はクロージングに営業が出る場合があるが、その他の多くの場合は、Webで探して、Webで見つけ、Webで契約して、Webで利用するスタイルをめざしている。主として中小企業向けのサービス事業だが、冒頭述べたように中大企業でも、「持つIT」から「利用するIT」への移行は急速に進み、米国のSubscription Billing Platform(購読課金)ビジネスは、すでに広く普及している。私がこれまで注目してきたZuoraやCheddarGetter、Monexaといった企業は、アプリ販売企業というより仲介の色が濃くなり、エンドユーザーに豊富な情報を提供するのではなく、アプリを売りたい企業と買いたい企業をつなぐだけとなっているように見受けた。プラットフォームビジネスとしては正しいかもしれないが、個人的にはフォローマーケティングの強化まで含んで、お客さまが関わるプロセスをまるごと便利にしクロスセルやアップセルの提案までつなぐと、UXすなわち経験価値は向上すると思う。もちろん、それに連動しお客さまの購入単価も上がる。

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■集客デジタルマーケティングでお客さまを集め、信頼を勝ち取る

SEO(SearchEngineOptimization=検索エンジンでの上位表示)対策は当然のことながら、多くの取り組みやコンテンツが、お客さま来訪後のサイト内に散りばめられていることが重要だ。その項目だけを下図に示した。プラットフォームのコンセプトや説明もさることながら、個々の商品についても説明や事例が充実し、専門的な意見も得られるような応対は必要だ。

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個別の説明は割愛するが、当社で成果が上がっている動画によるサービス説明だけ少し加える。お客さまが最終的な決断に至る(=見込み客になる)には数段階あると思われるが、当社のとある商品では、平均3回のサイト訪問で各訪問時に10ページ以上を閲覧後、個人情報の入力に至ったという報告がある。お客さまが相当悩まれている様子が、サイト内の行動履歴からも分かっている。重要なことは、初訪問でまずざっくりと商品やサービスを理解していただくことだろう。そのときに、動画は効果を発揮する。何といってもテキストを1分読むのと動画を1分見るのではデータ量で1万倍の差があり、その分動画は伝わりやすいともいえる。7.png

FAQ(質問に対する回答)も、単にページをお客さまに読んでいただくだけでは、理解が深まらない。今後はチャット的な要素を持つ、リアルタイムかつインタラクティブな動画などを取り入れることで、お客さまが安心してサービスの導入を決定いただく方向に進むだろう。本来は、コンタクトセンターが受け持っていた部分だが、最近はAI(人工知能)による解決策が注目されている。近い将来FAQの自動化は進み、その時間短縮はそのまま企業のブランドエンゲージメントに直結していくことだろう。

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■フリートライアルマーケティングで経験価値を積む

Webサイトからの誘導によるリード(見込み客)獲得は、すでに一般化した手法だが、フリートライアルに誘導するには数ステップの追加が必要だ。チュートリアル(手順説明)や現状の課題を把握するためのシステム診断サービス、今後はさらに地域や業種・業務に特化したサービスも増えると思われるので、提供側は各種ターゲティングなどの誘導施策を駆使しながら、独自サービスを開発する必要がある。加えて、「利用するIT」の時代はすなわち競合比較が容易になる時代ともいえる。従い、範囲は限定されるかもしれないが、競合アプリの情報も掲載し、ストレートにお客さまと会話したほうが、より信頼獲得につながるだろう。自動車業界では競合他社の情報を掲載し比較できるサイトもあり、今後はB2Bでも現れるだろう。また、市場調査レポートやバックアップ体制などの付帯情報もフリートライアルを促進する際には効果的だ。

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■フォローマーケティングでクロスセルやアップセルにつなぐ

UXの観点からは契約や課金も重要だが、多くが決済エンジンに起因する技術的な要素なので割愛し、フォローマーケティングについて考えてみる。サービスを導入したお客さまの中には、「うまく活用できない」「社内の利用状況や料金の把握が難しい」など、いろいろな課題が生まれてくる。ここには、フォローマーケティングとしての数々の施策が必要だ。保守は当然オンラインだが、それ以外にも定期的なトレーニングによるユーザー拡大や、より顧客満足度を上げるキャンペーンの実施、また関連アプリの拡販もオンライン上でできるので、顧客単位の売り上げ単価を上げるには効果的だ。また、SNSを利用した顧客意見の吸い上げとサービスへの反映、さらにその精度を向上させるビッグデータの利活用など、フォローマーケティングとして数々の施策を打ち続けることが、今後は重要になる。

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近年さまざまなクラウドサービスが登場したが、今後は営業の力をできるだけ省力化しながら、場合によっては営業を経由せず、クラウドビジネスは拡大していく。だからこそマーケティングがますます重要になり、そのプロセスの中にUXの数々の要素を仕込んでいくことが求められる時代になっていく。クラウドビジネス成功の鍵は、UXだ。

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