UX(ユーザーエクスペリエンス)を黎明期から追いかけ続けてきた筆者は、昨年度の成長期を経て、いよいよ今年度は成熟期に入ろうとするUXの姿を再び追いかけることにした。第2章の最後に「UXは概念や理念」であり「デザイン思考などの方法論でUXを実践することの必要性」を論じてきた。ただし、その孤高な理念を下敷きにしても、なかなか実際の業務に反映できない、もしくはその効果や価値が見えにくいとの話を、特に現場ではよく耳にする。そこで第3章では、UXの成熟期を見据え「より現場に即したUX」とは何か、もしくは「UXを通じて何が日頃の業務や事業全体に貢献するのか」といったことに焦点を絞り、言及してみたい。

【第4回】マーケティングオートメーション(MA)におけるコンタクトセンターはUXが勝負

»

前回は人工知能(AI)の話題をとおしてUXについて踏み込んだが、今回はまずコンタクトセンターのUXについて考えてみたい。最近、AIが普及したときになくなる業務の一つとして、コンタクトセンターが挙げられる。実際に大手の金融系企業でこの春からコンタクトセンターにAIが導入され、話題となっている。従来の対応時間が平均30分から8分に短縮されるという話題がその中心だが、確かに問い合わせの電話をかけるときも、テンキーや「♯」、「✳」などを何度か押して、やっとオペレーターにつながることが多く、そのロス時間は印象が悪い。

04-01.jpg

■コンタクトセンターの種類

まずコンタクトセンターという言葉だが、最近は電話のほか、FAXやEメール、チャット、Webなど対応手段が増えたため、従来のコールセンターに代わる一元的な名称として誕生した。商品、サービスの不具合など困ったときに助けてくれるヘルプデスク、企業側からプッシュ型でターゲットユーザーに売り込みをかけるアウトバウンドコール、またお問い合わせや資料請求を受けマーケティングにつなぐインバウンドコールなど、さまざまな種類が存在している。私の所属はマーケティング部門なので、今回はインバウンドコールを中心に考えてみたい。

04-02.jpg

■Webサイトで受注につなぐ

インターネットサイトからお客さまを誘導し、お問い合わせや資料請求を通じてコンタクトしてきたお客さまに営業活動を行う、いわゆるWebマーケティングに私が取り組み始めたのは2004年頃で、今から10年以上前になる。当時インターネットサイトは単に企業情報や商品情報を表示するだけのページだった。そこから営業活動につなぎお客さまを獲得することなどほとんど視野にない、いわゆる「経費支出」としての存在から、マーケティングへの応用、すなわち「投資」という概念が生まれたのは、その頃だったと思う。「Webマーケティング」という言葉も、その後広く知られるようになった。
個人情報を企業に登録し、見込み客となるお客さまのことをリードというが、その情報をマーケティング部署や営業部署が盛んに営業活動へと活かすようになってきた。次のステップとして、クロスメディアマーケティングやデジタルマーケティングとして、セミナーやイベント、ペーパーメディア、動画などがWebの連携施策として次々と登場し、Webサイトが2010年頃まで営業ツールとして成長していく。相前後してクラウドサービスが登場し、お客さまへのサービス提供形態が変わり、従来の所有から利用へとパラダイムシフトした。
その結果、リード情報のハンドリングにも変化が生まれる。リードナーチャリング(見込み客育成)やリードジェネレーション(見込み客醸成)が盛んに行われ始め、獲得したリードをホットリード、コールドリードなどに分類し、サービスや商品に対するお客さまの真剣度を見極めながら、ターゲティングしたメールマガジンの発信やWebサイト再訪者に向けたランディングページの最適化を図る。そうして、リードを引き合いまでつなぐことが、デジタルマーケターの重要な仕事となった。それに伴って、デジタルマーケティングチームとしてのコンタクトセンターへの期待は高まり、密な連携を取ってリードへ個別施策を行うことが最大の課題ともなった。

04-03.jpg

■MA(マーケティングオートメーション)のはじまり

さて、本年からMA(マーケティングオートメーション)が注目を集めている。これは、上記のプロセスを自動化しようという試みである。「HubSpot(ハブスポット)」や「マルケト」、「Eloqua(エロクワ)」といった海外でもてはやされているMAツールが次々と国内に紹介され、従来あまりマーケティングに力を入れていなかった企業もこぞってMAに興味を持ち始めているのが、昨今の状況だ。当然、マーケターやコンタクトセンター、そしてセールスの機能も変わることになる。その変化は以下だ。

  1. お客さま単位でのスコアリング基準の細分化
  2. イベントやセミナー、ホワイトペーパー、ブログそしてWebなど個別施策の拡大
  3. 各種メディアからの流入シナリオの強化
  4. リード以外も含むビッグデータの利活用
  5. 運用設計と実運用(マーケティングとコンタクトセンター、セールスの連携)の深化

一見、複雑化したように思えるデジタルマーケティングだが、従来の施策や作業の延長線上にある。あとは役割分担をし、スコアリングを基にした個別判断、並びに各種施策の実施とリード獲得、その後の営業アプローチを経て受注獲得に至るまでの整流化が要点だ。

MAにおけるコンタクトセンターの位置付けだが、リードの分類後、ホットリードは即営業活動を行う対象として、コールドリードは醸成や育成を行う対象として、それぞれ担当セールスに展開する必要がある。最近、コールドリードにアプローチするインサイドセールスという言葉があるが、リード分類後のコンタクトセンターとインサイドセールスの連携が強ければ強いほど、コールドリードの受注確度は高くなる。具体的には、以下の図で示すようにリードのフォローと顧客リストの作成がカギとなる。

04-04.jpg

■「セールスセンター」で受注確度を上げる

今後はマーケター、セールス、コンタクトセンターを「セールスセンター」のように位置付けて、リードの判定会議や施策会議を相互に持ち、スピーディーに対応していくスタイルが定着していくだろう。同時にマーケターへのフィードバックループも強固にして、結果として受注確度を上げるのが、MAの最終ゴールだ。中でもマーケターが施策を検討するキーポイントは、リードのパーソナライゼーションと管理だろう。プレゼントにするか、一定期間の割引キャンペーンにするか、試用やモニターキャンペーンか、イベントやセミナー、予約制相談会の実施か...はたまた、いいコンテンツがあればホワイトペーパーを作成、配信して、ダウンロード時に個人情報を入力してもらうという施策もある。その場合の入力フォーム項目やアンケート内容の精査は、ある意味でマーケターの主業務、かつ醍醐味でもある。

これらの施策がWeb経由の場合、SEO対策を怠ってはならない。意外と、自然検索でダイレクトに誘導することが可能になるからだ。デジタルマーケティングの黎明期から、用語集やFAQを充実させることはSEO対策に効果的だと広く知られており、マーケティングの基本といえる。それから、一部ブランディングにも通じるところがあるが、MAの持つ機能の中にブログなど発信型のWebメディアがあり、そこへ社内識者や社外の専門家が集中的に投稿することでもお客さまの信頼を得ることが可能で、SEO対策としても効果は上がる。またクラウド化がさらに進むと、B2Bにおいてもクロスセルやアップセル、一定の信頼を得てからの定期的なマーケティングによる継続利用の促進、You TubeやFacebookを用いたSNSによるプロモーションが、少しずつ有効になってきた。もちろん、メールマガジンによるエンゲージメントも忘れてはいけない。今後マーケティングが進む中で、ポイント付与や、場合によってはインセンティブとしての利用価格値下げなど、よりお客さまの経験価値を増幅させる仕掛けを行うことが、お客さまとの絆を強くする。単にモノやサービスの売り切り、買い切りといった時代は終焉し、モノとサービスを一体化した新たなサービス概念(=サービスドミナントロジック)に基づく商品、サービスの提供が、今後はますます広がる。

04-05.jpg

■時間より中身。インバウンドコールもUX視点で

冒頭で「コンタクトセンターがAIに取って代わられる」という話をしたが、ヘルプデスクとしてのコンタクトセンターは合理化が進む一方で、リード獲得のためのインバウンドコールは、AIでは不可能なUX視点を基本にすることで残るだろう。インバウンドコールは、メールでのお問い合わせや資料請求に対しても真摯に応えることができ、興味を持たれた商品のみならず、枠を超えたクロスセルやアップセルを行うことも可能だ。その意味でコンタクトセンターは、お客さまにとって企業と接するもっとも初期のコンタクトポイントで、いわば「企業の顔」といえる。MAにおけるコンタクトセンターは、時間よりもむしろ中身だろう。何かを探され、困られているお客さまへ、豊富な知識を生かし、さまざまな選択肢を瞬時にお返しできる機転が、UXという視点では必要になる。リードをより温めるために信頼を得ること、商品選択肢の幅を広げること、そして何より「この会社がいい」という確信をいただくことが、その後のセールスへの引き継ぎや受注獲得に影響を与える。今後のMAの動向に注視していきたい。

04-06.jpg

※文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する