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「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」伝説の灘校教師の教え

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昨日、たまたまテレビのチャンネルを替えていたら『中居正広のザ・大年表 第4弾 3時間SP』をやっていて、最後の1時間ほどを見ていたら、灘校の伝説の国語教師、橋本武さんの奇跡の授業の話を取り上げていました。以前『奇跡の教室』という本を読んで橋本先生のことを知り、一度ブログで紹介したいと思っていたので、書いてみます。

灘校が開校した昭和20年当時は、国立のほうが人気があり、私立はすべりどめだったそうです。どうやって生徒たちの学力を上げるか、先生たちが悩んでいたときに、橋本先生が「結果が出なかったら責任をとる」と、風変わりな授業を始めました。中勘助が自分の子供時代を題材にして書いた自伝的小説『銀の匙』の薄い文庫本1冊を、中学校の3年間をかけて読むという授業です。

授業では、例えば、コレラの当て字で「虎列剌」というのが出てきたら、他に国名などどんな当て字があるか紹介したり、さかなへんの字が出てきたら、生徒たちにさかなへんの字を集めてくるように指示したりと、小説の内容からどんどん横道にそれ、遅々としてなかなか読み進みませんでした。

あるとき、不安に思った生徒が「このペースだと終わらないんじゃないですか」と先生に質問したところ、橋本先生は「スピードが大事なんじゃない。すぐ役立つことはすぐ役に立たなくなる。なんでもいいから少しでも興味を持ったことは自分から掘り下げてほしい。そうやって自分で見つけたことは君たちの一生の財産になる」という話をしたそうです。

生徒たちは、そのときは先生が言ったことがよくわからなかったようですが、次第に横道にそれる楽しさに気づき、自分たちでどんどん調べて考えるようになり、学力もアップ。橋本先生が受け持った初代の『銀の匙』の子供たちから15名が東大に合格し、その後もどんどんレベルアップして灘校が有名校になっていったそうです。

インターネットによって、たいていの知識は検索によってすぐに調べられる時代になっています。こういう時代に大事なことは、効率的にたくさんの知識を詰め込むことではなく、橋本先生の教えのとおり、少しでも興味、関心があったら横道にそれて、自分で調べ、自分で考え、理解し、その知識を自分の行動に役立てていくことだと思っています。そうして得た知識や知恵、経験が、ばらばらの点だったものがしだいにつながって、線になり、面になって、いろいろな新しいことができるようになっていくのだと思います。

この伝説の教師の橋本先生のことを書いた『奇跡の教室』には、これからの教育をどうしていけばいいのか考えるためのヒントがいっぱいつまっています。教育関係者はもちろん、多くの方々に読んでほしい一冊です。

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