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once a fanboy, always a fanboy ――いい歳なのに与太話はやめられない

代理店御用達の営業用日本語とかは滅びてもいいと思う

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 ネットのあちらこちらで日本語が滅びるかどうかについての歪んだ論争が巻き起こっているようだけれど、まぁ、それはさておき、自分ぐらいの年寄りになると、社会で使われる言葉が時代と共にどんどん変化するのを目の当たりにしてきた中で、ほんのときたまではあるけれど、どうしても納得できない言葉使いに出会うことがある。

 ここ近年でそういう自分的に納得できない言葉使いの筆頭は、20〜30代のやり手のビジネスマン達が使う「お打ち合わせ」や「お見積もり」「ご提案」だ。

 上記のような言葉が出てくるシチュエーションは大抵の場合、先方から「打合せ」や「見積もり」「提案」が申し出される時だ。まがりなりにも顧客であるこちら側に問い合わせているのだから、本来であれば、彼らの都合である「打合せ」「見積もり」「提案」は、へりくだって表現されてしかるべきなのに、そこで「お」や「ご」を付けてしまうと、こちらが高められることはなく、逆に彼ら自身の都合が高められる表現になってしまう。

 もちろん、こういう言葉使いをしている本人達にしてみれば、単に丁寧なつもりでそうしているだけなのだろうけれど、中学・高校時代のテストで敬語の使い方に苦労させられた世代にしてみると、ひたすら慇懃無礼な言葉としてしか聞こえない。こういう言葉使いに出会うと、いつも非常に気持ち悪いというか、ハッキリ言って不愉快な気分になる。

 で、こういう不気味な「ていねい言葉」が生まれた由来は、おそらく、ひたすら耳障りが良い言葉を弄して相手を籠絡する必要があった広告代理店によるクライアントへのプレゼン辺りなのだろう。広告代理店の中の人達の語り口は、その場限りで、なんとなく立派に聞こえるものだから、そのプレゼンを体験した人は自分も真似してみたくなる。そして、そういうことが繰り返されて、ねずみ算的にそういった言葉使いが流布していったのだと思う。

 今や、「お打ち合わせ」「お見積もり」「ご提案」は、日本のビジネスメールにおける定形文の一つとして確立してしまい、それは日本語的におかしいから止めようなどと言うと、かえってこちらがおかしいと思われるのが関の山っぽい。そう言えば、社名の後に「さん」を付けるのも、かなり気持ち悪いけれど、あれもやっぱり21世紀初頭における日本ビジネス界の常識だしなぁ…。

 ま、この手の言葉に対する蘊蓄は、糸井重里氏が運営する「ほぼ日刊イトイ新聞」において、既に「オトナ語の謎。」としてずいぶん前に語り尽くされた感はあるけれど、それでもオトナに成りきれない自分は、「お打ち合わせ」「お見積もり」「ご提案」という件名のメールをもらう度に、なんだか頭に来てしまったりする。あぁ、早くオトナになりたい…。


4101183120 オトナ語の謎。(新潮文庫)
糸井重里
新潮社  2005/03/29

ほぼ日刊イトイ新聞で連載された企画の書籍化。学校では教えてくれない謎めいた言葉、「オトナ語」を、おもしろおかしく解説する。
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