人を動かすものは何でしょうか?様々な「座右の銘」から、それを探っていきたいと思っています

20. 誰かが書いた記事を読む際は要注意:クリティカルな視点を持ちましょう

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よく、「●●って、△△なんですってね」と言われたとき、「その情報、どこから入手したの?」と聞いたら、「インターネットから」って答えられます。インターネットに載っている情報はすべて正しいとは限らないのですが、それでもインターネットに載る情報の影響力の高さは否めません。

最も注意を払わないといけないのは、すべて事実が語られているにもかかわらず、書き手の意図した方向に誘導されるような記事です。今回、そのやりかたが(良い意味でも悪い意味でも)非常にうまい、と思った記事があったので、あえて実名でご紹介します。

それは、Yomerumo に2016年5月28日に掲載された、「ディズニーR、深刻な客離れとブランド毀損の非常事態...4年連続値上がりが失敗か」です。最初に断っておきますが、私はこの記事の書き手の方とは一面識もありませんし、書き手の方を賞賛するつもりも、非難するつもりもありません。また、私はTDR(東京ディズニーリゾート)もUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)も大好きで、共に年間パスポートを持っているので、特にどちらかに肩入れしようという気はまったくありません。その上でこの記事は、情報を(意識的にか、はたまた無意識かはわかりませんが)偏った状態で公表することで、書き手の意図である「TDRは値上げが原因で客離れを起こした」という結論に導いている、ということを申し述べます。

さて、この記事の書き出しは次の通りです。

東京ディズニーリゾート(TDR)の1日入場料の推移を見てみると、以下のように4年連続で値上がりしている(2015年は消費増税が要因)。

・13年:6,200円
・14年:6,400円
・15年:6,900円
・16年:7,400円

この値上げ幅はさておき、4年間も連続して値上がりすることにより、TDRのイメージダウンを引き起こしていると考えられる。毎年少しずつ値上げをするたびにニュースとなり、マイナスの話題となってしまい情報が拡散していく。そんなデメリットが大きい価格設定戦略をなぜとっているのか、不思議でならない。ブランド自体ではなくパークが全て上から目線での戦略だからだと感じる。

書き手は、「年間も連続して値上がりすることにより、TDRのイメージダウンを引き起こしていると考えられる」と考察しています。さらに、その考察を次のように深掘りしています。

  1. 値上げによるメリットとデメリット
    値上げにはメリットもあるが、デメリットのほうが大きい。
    毎年少しずつ値上げをすることによりニュースとなり、ブランド価値を落としてしまう。
  2. 競合USJの動きを意識しての便乗値上げなのか
    USJは今年15周年を記念してリボーン戦略を打ち出し、顧客の喜ぶ世界を取り入れている。
    その結果、入場者数は前年比同期約18%増と絶好調だ。
    昨年話題になった「ハリー・ポッター」エリアや「進撃の巨人」「エヴァンゲリオン」をテーマに取り入れた期間限定アトラクション、つり下げ型コースター「ザ・フライング・ダイナソー」を新設して魅力を高めた。
  3. 開業から33年という歴史年月が、顧客に古さを感じさせているのか
    TDLは1983年開業だが、USJは01年開業とまだ15年と新しい。オリエンタルランドの有価証券報告書には色々なことが書いてあるが、しかし、具体的に何をどうするのかを示さなければ顧客はわからないし、単なる値上げでしか感じない。
  4. (以下略)

私が気になったのは、これらの考察が、非常に偏った情報を根拠としている、ということです。この記事の根拠となる数字にウソはありません。しかし、たとえ事実を列挙していても、情報が偏っていると、あいまいな情報になることがあるのです。

1.について
まず、確かに値上げは顧客の心証を悪くし、顧客離れを起こす可能性を示唆します。あの「ガリガリくん」でさえ、10円値上げするためにお詫びのCMを流したぐらいですから。しかし、「TDRは値上げが原因で客離れを起こした」という結論を正しく論ずるなら、この後で比較対象とするUSJの値上げについても触れる必要があると考えます。

実際、USJの入場料の推移は次のようになっています。ちなみに、2006年にTDR、USJともに5,800円に値上げしています。

  • 2010年:6,100円
  • 2011年:6,200円
  • 2012年:6,400円
  • 2013年:6,600円
  • 2014年1月:6,790円
  • 2014年4月:6,980円
  • 2015年:7,200円
  • 2016年:7,400円

つまり、USJはTDRをはるかに超える、「8年連続値上げ」を実施しているのです。記者が「値上げ幅はさておき」としている通り、この値上げ幅を考慮に入れないのであれば、USJのほうが値上げ回数は多い、ということになります。しかも、2014年には1年に2回も値上げしています。値上げが上から目線の戦略であるならば、USJにもその上から目線があてはまります。にも関わらず、USJは毎年入場者数を増やしているのは様々な報道がある通りです。

TDRもUSJも値上げをしている。しかもUSJのほうが値上げ回数が多く、TDRのほうが1回あたりの値上げ幅が大きい。これを同列で語ることで、初めて値上げ戦略についてフェアに語れると考えるのです。言い換えれば、USJは値上げをしているにも関わらず躍進を続けているわけですから、「値上げ戦略そのものは必ずしもダメではない」という結論になるでしょう。

(この記事に限らず、TDRの値上げばかり強調する記事が世の中に非常に多いのが気になります。どうしてみんな、USJの値上げに関して触れようとしないのでしょう)

2.について
さて、USJが値上げしているにもかかわらず快進撃を続けているのはなぜでしょうか。記事では、USJがさまざまな挑戦、新しいアトラクションの導入を図っていることを挙げています。一方、TDRの挑戦については何も書かれていないので、あたかもTDRは手をこまねいて何もしていないように見えます。USJの挑戦や新しいアトラクションの導入について触れるならば、同じくTDRのアトラクションの挑戦や導入も並列に語る必要があるでしょう。

TDRは2014年に「ワンス・アポン・ア・タイム(TDL)」を、2015年に「スティッチ・エンカウンター(TDL)」、「キングトリトンのコンサート(TDS)」をスタートさせていますし、2013年には「スター・ツアーズ(TDL)」を、2014年には「ジャングルクルーズ(TDL)」を、2015年には「エレクトリカルパレード・ドリームライツ(TDL)」をリニューアルしています。また、期間限定プログラムも季節に合わせて数多くのものがあります。

パークの挑戦や新しいアトラクションの導入を語るならば、値上げ同様、両方のパークを同様に語り、その上で、それらの魅力や導入の戦略、効果などについて深く考察する必要があるでしょう。

3.について
ここまでは「TDR」について書かれてきたのに、ここにきて急に「TDL(東京ディズニーランド)」に言及した書き方になっているのはおおいに気になります。「TDS(東京ディスニーシー)」はUSJと同い年(2001年オープン)なので、古さを強調する際には、TDSの存在は邪魔なのでしょう。

一方、記者は「具体的に何をどうするのかを示さなければ顧客はわからない」としていますが、実際には、TDR全体の「今後に向けた挑戦」に関してすでに具体的な方策が明らかになっています。まずTDLでは、2016年中に「ジュニア・ウッドチャック」を題材とした、ドナルドと3人の甥っ子をテーマにした施設がオープンします。2020年に「美女と野獣エリア」、「ライブタンターテイメントシアター(TDSのブロードウェイ・ミュジック・シアターのような施設)」、およびベイマックスをモチーフにしたトラクションを建設予定です。また、現在の「ミートミッキー」と同様のコンセプトで、ミニーと一緒に写真が撮れるグリーティング施設ができます。
TDSでは、2016年に新しいエンターテイメントショー「アウト・オブ・シャドウランド」が、2017年に「ファインディング・ニモ」、「ファインディング・ドリー」をテーマにしたアトラクションがオープンします。また、2019年には「ソアリン」がオープン予定です。さらに時期は未定ですが、北欧をテーマにした新しいテーマポートが新たに作られる予定です。オリエンタルランドの有価証券報告書を読んだ記者が、これらの事実を知らないわけはないでしょう。つまり、話し手にとって都合の悪い事実にあえて触れないことによって、話し手の意図する結論に巧みに誘導している、と考えられます(本当に知らなかったのなら、ごめんなさい)。

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と、いうわけで。何かを比較して語る場合は、必ず「同じ土俵に乗せて」語るようにしましょうね。
あるいは、何かを比較・評価する記事を読む場合は、「その比較・評価が同じ土俵に乗っているか」、「同じ尺度で比較されているか」ということに注意して読むようにしましょう。

そういう意味では、この記事自身も疑ってかかりましょうね・・・。私は、ある事実を「意図的に隠して」この記事を書いていますから。

追伸
そもそも、TDRは TDL+TDS です。残念ながらひとつの入場券で2つのテーマパークに入場するのは不可能(そういうパスポートもあるけれど)であり、もしUSJと比較するならば、本来であれば、「TDLvsUSJ」、または「TDSvsUSJ」でなければなりません。
そう考えると、入場者数の比較は、TDLとTDSとは切り離して考えるべきです。USJの2015年度の入場者数(1,390万人)がTDS(1,360万人)を超えたというニュースは妥当で、その前年(USJ1,180万人、TDS1,410万人)と比較しても、TDSがダメになったという報道をするのではなく、USJがスゴい、という報道をすべきだ、と考えます。
さらにいうと、TDLが開業して14年目であった1997年の入場者数は、1,736万8千人でした。開業して14年目のUSJ、TDSを大きく凌いでいます。みなさんはこの数字をどう解釈しますか?

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