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ITIL v2 Manager 採点官の立場から・その2

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さて、ITIL v2 Manager 試験に関する話題の第2弾です。

私は、ピーク時には一か月に40人以上の人を採点していました。しかし今月(2011年3月)はわずか3人。新規受験者がいないから、なんですけど、ちょっとさびしいですね。

その3人の受験者のうち、私が「合格」の点数をつけたのは、残念ながら1人でした(注:採点者の主観を可能な限り排除するため、ひとつの試験は基本的に2人の採点者によって採点されます。そのため、私がつけた「合格」「不合格」の判断が最終判断であるとは限りません。また、採点結果が不満な場合、受験者は異議申し立てをすることができます)。今回の不合格者の方と合格者の方との間には、典型的な違いがひとつありました。

それは、「読み手のことを考えた文章が書ける能力を持っているかどうか(あるいは、そのように努めているかどうか)」です。

この能力には色々な要素が含まれているのですが、大きく3つに集約してお話しましょう。

ひとつめは、「事例に即したことが書いてあるかどうか」です。受験者には、受験の10日ぐらい前に仮想事例が郵送されてきます。試験当日は、この仮想事例をベースにした問題が出題されるので、受験者はあらかじめこの仮想事例をよく読んで、事例の中に書かれている企業における現状や問題点、うまくいっている点、うまくいっていない点などを理解しておかなければなりません。

ということは、試験の解答にも「その事例に即した解答」が求められます。例えば「この企業に ITIL を導入する際の課題を述べよ」という問題の場合は、その企業ならではの課題を書かないと点になりません。いくら妥当で適切な解答であっても(仮にその企業にもあてはまる解答だったとしても)、一般論が書かれているのでは点にならないのです。

具体例を書いちゃうと試験問題をバラしてしまうことになるので、たとえ話で。
「アフリカのサバンナにおける野生動物の問題について述べよ」という問題があったとします。ここで「地球温暖化によって生態系が崩れ、云々・・・」と書くのは、確かに妥当で適切、かもしれません(注:私は専門家ではないので、細かいことに関してはご容赦ください)。でも、地球温暖化は本当に一般論で、サバンナ以外にも(地球全体に)あてはまる問題であり、解答としては不適切と言わざるを得ません。ここでは、サバンナならではの問題(例えば、人間の進出で草食動物の活動領域が減り、体格の大きなゾウが他の草食動物に必要な草木までも食べつくしてしまうようになった、など)を書かないと点にならないのです。

実際の仕事においても、お客様に提案書を出す際、「どんなお客様にも当てはまる標準提案書」を用意しておいて、顧客名や日付だけを書き換えて持って行ったりしていませんか?どんな企業にもあてはまる問題をいくら指摘しても、お客様は振り向いてくれません。その企業ならではの問題と、それを解決するための方策を提示して初めて、お客様はその提案を真面目に聞こうとしてくださるのです。

ふたつめ。それは「誰に対して書かれた文章か」ということが意識されているかどうか、です。問題文はただ漠然と「●●について述べよ」と書かれている場合や、「●●について、CIOに提言せよ」と書かれている場合、その他色々なパターンがあります。答案は、その指示に応じて書き分けなければなりません。漠然と「●●について述べよ」と書かれている場合は、おおまかに言って「採点者に対して書く」つもりで書けば問題ありません。しかし「CIOに提言せよ」と書かれている場合は、CIOに読んでもらうということを意識しなければなりません。単純に採点者に対して書いてある解答は、加点しづらいのです。CIOはITの細かいことよりも、それが経営にどう結び付くか、売上や顧客満足度にどのように貢献するか、ということに興味があります。CIOが読みたいと思うような文章を書かないと、点にはならないのです。

また、「ITILを導入するとコストが下がります」みたいな、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の解答は点になりません。「ITILを導入することによって既知のインシデントを効率よく管理できるようになり、一次解決率が上がったり、解決までの時間が短縮できたりといったことが可能になります。その結果スタッフの残業代が減ったり、トレーニングに要するコストが削減できたりして、トータルとしてコストが下がります」ぐらいまで書かないと説得力がないのです。

「読み手のことを考えて」文章を書くということにつながるみっつめは、「ちゃんと読める字を書いているかどうか」です。字がうまい、ヘタってのはある程度仕方ありません。でも、せめて丁寧に書いていただきたいのです。中には本当に殴り書きで、何を書いているのかさっぱりわからない答案もあります。字が丁寧ではない答案は、「採点者に読んでもらおう」という意思がまったく感じられないということの表れです。面白いことに、そんな答案は(一生懸命読んで解読しても)中身も「読んでもらおう」と思って書かれていないことが多く、加点に結び付くことはまれです。字の丁寧さと答案の中身がまるでシンクロしているかのようです。

ITIL Manager 試験の合格者は、みな「読み手に読んでもらう」ということを意識したドキュメントが書ける人だ、とも言えるのです。

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