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【こんな本を読んだ】永井孝尚著『売れる仕組みをどう作るか』幻冬舎 ~やりたいことを成果につなげるために~

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昨年だったか、SNSで流れてきたコラムかブログで、

「今のままでいい、と思っていても、現状維持にはならない。なぜなら、私たちが乗っているのは下りエスカレーターだから」

といった内容のものがあって、うまいたとえ方だなぁと感心したものだった。

私は、86年入社で、その頃の4-50代は、なんだかもう悠悠自適のような雰囲気を醸し出していた。まあ、バブル期だったこともあって、お金もたくさん持っていたのだろうし、40代では管理職になっていたし、50代になると、ほとんど何もしなくてもよい、みたいな空気があった。もちろん、20代の私が、勝手にそう思っていただけで、40代、50代の当人たちは、それなりに苦労していたのだろうし、激しい競争だってあったのかも知れない。

ただ、40代50代が、新しいことを始め、旗振り役になって若手をけん引するということもなかったような気はする。「まあ、みんな、ガンバレや、俺たちゃ、そろそろ引退だし、今のまま現状維持でいきますよ、退職まで」という空気はやはりあったようにも思う。

時代がこんな風にハゲシク、大きく変化することなど考えることもなく、私も40代になったら、今より楽になるし、50代になれば、のんびり出来るだろう、と軽く考えていた。いいなぁー50代、とノー天気に思っていたものだ。

でも、昭和も終わったし、20世紀も終わった。どんどん経済が成長していく、作れば売れる、という時代でもなくなったし、人口構成はかなり変わってきて、年齢に関係なく、とにかく、「変わる」ことが大事、「変わらなければ死ぬ」みたいな感じになってきた。50代も、60代も例外ではない。とにかく、変わらなければならない。

現状維持は、衰退への一歩。下りのエスカレーターを必死で昇らなければならない。

まあ、考えてみたらたしかにそうだ。高度経済成長期とバブル期というほんの数10年がちょっとおかしかっただけで、「変わらなければダメ」というのは、実は、いつの時代でも同じなのだろう。

そうそう、DEC時代、最後のオフィスは、ラーメンの聖地「荻窪」にあったのだが、たしか、春木屋のご主人が「創業以来変わらない味」と言われているけど、それは違う。創業以来、少しずつ時代の変化に合わせて微調整しているからこそ、お客さんが、「創業以来変わらない味」と言ってくれるのだ、と、そんなことを何かのインタビューで答えていたのはとても深く印象に残っている。

昭和の味を守るラーメンというのは、実は、常に変化していた、というのはとても示唆に富むお話である。

古くからの得意客に「変わらぬ味」と思ってもらうために、どれほどの努力をしているのか、どんな試行錯誤を繰り返すのか。
老舗を守るってのもスゴイことだなぁと思う。

さて、

永井孝尚さんの『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)を読んだ。

日本は「衰退パターン」に陥っている組織が多いが、「成長パターン」に変わろう、と訴えている。

そのためには、「トルネード式仮説検証」が大事だ、それが、「成長パターン」の実現につながると言う。

やりたいことを実現するために、あるべき姿=ビジョンを明確にし、ただ無鉄砲に頑張るのではなく、慎重に慎重に進めるのでもなく、スピーディに物事を推進し、失敗してもそこから学び、学び、トルネードの上昇気流のように進化を目指す。

今の時代に合った方法でやりたいことを実現していこう、と提案する。

トルネードの方法は、以下の通りだ。(略して書いています(↓))

第一段階:これやりたい!と決める
第二段階:「少人数のプロジェクトチーム」で方向性を決定する
第三段階:仮説検証サイクルを回し、学び、あるべき姿を実現する

この第二段階の「少人数」というところ、大事だなぁと思う。

大勢の合意を得ようとすると、時間がかかる。必ず、反対する人、前例があったか確認する人、変わることに抵抗を示す人が出てくる。その全員に納得してもらおうと思っている間は、すべて「内向き」の仕事になる。これは、疲れるし、そんなことに時間をかけていたら、やりたい!と考えていたことを他の誰か(たとえば、他社)がやってしまうかも知れない。

スピーディに対応するには、少数でまずは決める、というのは、ほんとにその通りだ。

大勢から「そんなの無理だよ」と反対されるようなことほど挑戦すべき、とも書いてある。

もちろん、うまく行かないこともあるだろうから、「ほら、言ってみたことか。本当に無理だったじゃないか」というケースもないわけじゃないだろうが、「それ、いいね!」と大勢が言うようなことというのは、たぶん、他の誰かも考えてやってみているだろうし、うまく行かないから、誰も続けていないのだ。

「何それ?」「やめとけ」と言われることのほうが、取り組み外があるというものだ。

だから、「何それ?やめとけ」と言わなくて、「お、ちょっと面白うそうですね」と賛同してくれる「少数」とまずは、コトを起すのがいいのだろ思う。

そうそう、このあたりで、研修の受講者がよく言うセリフを思い出した。

「オレ、そういう権限ないんですよね」



「私、折角提案したんだけど、うちのメンバ、理解できなくて、実現しない」

というもの。

今の時代、「権限なくても人を動かすリーダーシップ」という考え方が主流になってきているし、「提案しても理解してくれない」のは、たいていの場合、自分の力が足りないからだ、権限という意味の力ではなく、説得力とかそういう力。(と言い切ると、怒り出す人がいるかも知れないが、気にせず、話を先に進める)

そんなわけで、「これやったほうがよい」と思うことがあって、それが組織の目標達成につながる(と思われる)ことであれば、どういう立場、役職だろうが、動いてみればよいのだ。(と私も思う)

本の中ごろに、管理職は意識を変えよう、という話も出てくる。

失敗で×をつけるよりも、新しいことに取り組んだら〇にするという加点主義に移行すべきだというのだ。

そして、まず、あなた=管理職が挑戦している姿を見せろとも。

以下、引用しよう。

部下は、必ずリーダーであるあなたの背中を見ている。だから部下に「失敗をおそれない挑戦」を勧めると同時に、あなた自身が「失敗を恐れない挑戦」をすることだ。百の言葉よりも、現実に挑戦するあなたのその背中から、部下は学んでいく。

あなた自身が変われば組織も女寿所に変わっていく。

部下に期待するなら、まずは、管理職が変われ!だ。

ちょっと話は違うが、「部下が上司のことを"成長している"と認知すると、その上司による内省支援が部下の能力向上に相関がある」みたいな研究があって(※1)、上司が成長していると部下から認知されることが、部下の能力向上につながるって、面白い結果だな、まあ、感覚的にはわかる話だけど、と思ったことがある。

挑戦だって同じことだろう。

部下に挑戦しろ!変われ!と言う前に、管理職が挑戦し、変わっていく姿を示すことだ。

そうやって、皆が「変わろう」とし、「こうなりたい」「これやりたい」を目指して、仮説検証をスピーディに繰り返す。失敗したら、そこから学ぶ。これには、経験学習サイクルの考え方が当てはまりそうだ。

「具体的経験」→「省察的観察」→「抽象的概念化」→「適用」。(※2)

失敗しても、「省察的観察」つまり、ふりかえりを行い、「抽象的概念化」によって、教訓を導き出す。その教訓を次の何かに適用していく。これを繰り返すことで、人は、経験から学んでいく。

永井さんが述べているのは、経験学習を含めた、仮説検証なのだろうなぁ、と思う。

後半には、企業の具体的事例が出てくる。中でも「ジャパネットたかた」の新社長の経営の話がとても興味深かった。凄いなぁ、ジャパネットたかた。

役職に関係なく、何かしたいなぁーという方にお勧めの一冊。


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これが今回読んだ本。

永井さんと言えば、「100円コーラ」ですが、これらの本も面白かった。

どの本も小説形式。「会社に、こんな人、いないわぁー」と突っ込みたくなる強力なキャラが時に気になるが、小説を作る上ではキャラがそれぞれ異なって、特にメインのキャラは際立たないといけないわけで、そこは内容としての本質ではない(笑)。

  

(※1) 『職場学習の探究』生産性出版
「職場の学び」について様々な切り口から研究した論文をたくさん載せている本。この中で、脇本健弘さんが「部下による上司の成長認知と上司による部下の内省支援に相関がある」といった研究を紹介している。

(※2) 松尾睦『経験学習入門』 ダイヤモンド社 
「コルブの経験学習サイクル」という考え方だが、読みやすいのは、松尾先生の本だと思う。経験学習のサイクルも出てくるし、松尾先生が研究された「人の成長は、経験から成り立つとして、経験にどういう要素が必要か」という成果が掲載されている。経験には、「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」の3つの要素が組み込まれることが経験から学ぶ力を強化するのだと説く。

 

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