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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

ビジネスマナーについて考える

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人材育成業界の人間にとって1-3月というのは、「慌ただしい」季節です。
新卒の新入社員研修が4月にスタートするため、準備に追われるからです。



本屋さんに行くと、この時期はいつも以上に「ビジネスマナー読本」「絵でわかるビジネスマナー」「猿でもできるビジネスマナー」的な本が山積みになっていますが、新入社員が最初に学ぶのは、何を置いても、この「ビジネスマナー」です(ざっくり言うと)。

学習項目には以下のようなものがあります。

●あいさつ
●お辞儀
●敬語(尊敬語、謙譲語、丁寧語)
●電話のかけ方、受け方、取り次ぎ方
●電子メールの書き方
●訪問、来客対応
●名刺交換

などなど・・・。

お辞儀といえば、伝統的に「会釈、敬礼、最敬礼」の3種類があり、それぞれ「15度、30度、45度」と角度も決まっています。

こういうのを延々と練習する場合もあるかもしれませんが、私が担当する場合はそこまで徹底的に「訓練」したりはしません。業界・職種によっては、厳密に使い分けできることが必須ではないケースもあるからです。

ホテル業界、デパート業界など接客業であれば、15度、30度、45度がきちんと美しく決まることは必須でしょうが、たとえば、IT技術者で、ほとんど社外の方と接することがないといった職種だとすると、15度、30度、45度が使い分けられなくてもなんら困らないということになります。第一、30度だの45度でぴたっと決まるお辞儀を日常的にする場面などそうそうないわけですし。

じゃあ、学ぶ必要はないか、というと、ここが悩ましいところで、一応、日本人(あるいは、日本で主に日本人を相手に働く人)であれば、"常識"として「会釈、敬礼、最敬礼」の3種があることくらい知っていたほうがいいし、それが、15度30度45度であることも知っていることは、ある意味、"教養"ではないかとも思うのですね。

それと、新入社員のみなさんは、知らなかったことを知るのには興味深々なので、「会釈、敬礼、最敬礼、15度、30度、45度」と聴くと、なんだかおもしろいと思うようなのです。(学ぶ際に「面白いなぁ」と感じることは大事です)

新入社員研修というのは、「守破離」の「守」を学ぶ機会でもあるので、「型」も大事といえば大事。「何が基本か」もわかっていないで、「オレ流」「あたし流」ってのもなんだなぁと思いますし。



ところで、
先日、あるお客様と新入社員研修についてお話していた時、「そうですよねぇー」と思わず同意してしまう場面がありました。

グローバル企業であるそのお客様先の新入社員は、日本人ばかりなのですが、それでも海外の方と仕事することはもう当たり前な環境にあります。

私が、「たとえばなのですが・・・会釈、敬礼、最敬礼・・・・を何度も練習して、美しくできるようになるまで指導するという方法もありますが、そういう"型を覚える""型を徹底的に身体に染み込ませる"という研修は、もういいんじゃないかと思っているんですよね」と自分の考えを述べてみましたら、激しく頷かれ、

「そうそう、そういうの、もういいです。そんなことより大切なことがありますから」

とおっしゃいました。

「以前、グループ企業に海外での生活のほうが長いような新入社員がいて、最初、非常に不作法で、"なんてやつらだ。どんな教育を受けているんだ"と思ったことがありましたが、配属されてしばらくすると、廊下ですれ違う際も、にっこにこと笑顔で、"おはようございますー!"と声をかけてくれたりして、非常に感じがいいんです。そうか、彼らは、二ホンの暮らしが短くて、それで単に「やり方」「言い方」などを知らなかっただけで、でも、根本的に"人を尊重する""人との関係を大切にする"ということを海外経験の中からでもちゃんと学んでいるから、形じゃなくて、心が備わっているんだな、だから、自然に感じよい対応ができるようになってきたんだな、と思ったのです。 だから、形なんかじゃなくて、"人と人との関係""人を大切に思う""一緒に働く仲間(社内外を問わず)と丁寧に接する""快適な環境で働く"といった、基本的な心構え、マインドをもってほしいなぁと思っているんです」

そうですよねぇ、うん、そうだ、そうだ。

もちろん、型も大事。というか、知っていることは大事。

だけれど、型だけ学んでも、ハートの部分で、それを使おうと思わなければ無駄なわけで、
逆に、型はなっていないけれど、ハートがあれば、なんとかなるということもあって・・・。

「ビジネスマナー」は、名刺交換でも電話対応でも、書籍には、型がたくさん載っています。それを学ぶことは大事なのだけれど、その根底に「相手を尊重する」「相手に気持ちよく過ごしてもらえるよう配慮する」という心根を持っていることが大事。

そして、この心根は、非常に教えづらい。というか、教えるよりも育むものであったりします。

IDでは、学習領域を「知識」と「スキル」と「態度」に分けて考えます。

知識:知っているか知らないか。「会釈、敬礼、最敬礼」がそれぞれ「15度、30度、45度」だと知っているかどうか
スキル:できるかできないか。 「会釈15度」を実際に身体をつかってできるか
態度: ふさわしい場面でしようとするか。 向うから人が来て、お、お客様だ!と思ったら、立ち止まり軽く会釈する・・ということを判断できるか。

「態度」は学習目標も立てづらく、達成したかどうかも「ペーパーテスト」では測れないので、学習効果自体を計測しづらいのですが、ビジネスマナーを学ぶ際は、「知識」「スキル」だけでなく、「態度」をより強化していくことが大事だなぁと改めて思いました。



ところで、ですね。
日本も徐々にグローバル化が進んでいくと、そのうち、「お辞儀の角度なんかどーでもいいじゃん」となるかもしれませんね。

私としては、形よりハートだとは思いつつ、そのハートを伝えるために生まれたのが型であるわけで、「型」と「ハート」をセットにして学べるようにしていきたいなぁ、と考えています。



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