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長野県信濃町の格好いい時計屋さんと50年前の粋な技術屋さんが作った時計の話

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こんにちは、しごとのみらいの竹内義晴です。

前回の久しぶりに「腕時計をしたい!」と思ったこと、ありますか?という記事で、「最近、なぜか腕時計がしたい」というお話をしましたが、「善は急げ」ということで3本の時計の電池・バンド交換に行ってきました。

バンドはいろんな感じのものがありました。左の、30年前の黒いALBAは「当時の感じのものがいいなぁ」と思い、薄手の黒のものに、右の、約20年前のswatchは青の皮にしようかなと思っていたのですが在庫がなく、店舗にあった黒の皮を当ててみたら、やや安っぽい感じに見えたので、メタルなものにしました。

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電池を交換したら無事動いて、2つの時計は久しぶりに時を刻んでいます。もう、ニヤニヤしてしまいます(笑)。

もう一本のAQUALUNGダイバーズウォッチもバンドと電池を交換したものの、5秒から10秒のところで秒針が引っ掛かり、時間が遅れます。交換したところでは「うちでは修理できない。メーカー送りになるが、このメーカーは取り扱っていない」とのことで、「どうしたものか......」と思いましたが、せっかくなら修理して使いたいと、インターネットで時計屋さんを検索することにしました。

そこでヒットしたのが、長野県信濃町古間にある刻の救急社オグチさん。信濃町は妙高高原に負けず劣らずの田舎(信濃町のみなさん、ごめんなさい)です。ホームページを最初に見た印象は、「へ~、信濃町にこんな時計屋さんがあるんだ~」でした。でも、なにかが引っかかりました。ホームページのいくつかのページをサラッと眺めたら、かなり古い時計も修理しているみたいです。「あれ?この時計屋さん、ひょっとしたら相当の技術屋さんかも」となんとなく感じました。元々、ボクも技術屋なので、そのあたりの「何か」が、そう感じさせたのかもしれません。

妙高高原から信濃町までは、車で15分ぐらい。早速、行ってみることにしました。

店舗前の通りは、いわゆる田舎の「何もないメインストリート」という感じです。「ここに、そんな技術屋さんがいるのだろうか......」と一抹の不安を覚えながら走っていると店舗が見つかりました。車を止め、店内に入ります。そこには、人のよさそうな二人の男性(親子)がいました。

「あの~、時計で相談にのってもらいたいことがあるのですが......」

「はい、何でしょう?」というので、息子さんのほうに時計を手渡し、これまでの経緯をカクカクシカジカと説明。すると、頭にかけていた拡大鏡(?)を目にかけ、時計をマジマジと見始めました。お父さんは修理中の時計の手を止めて、「どんな時計?」とサラッと見ると、「いい時計じゃん、これ、直したほうがいいよ」と一言。

この雰囲気だけで、「あっ、これはかなりの技術屋さんだ」と思いました。

息子さんは、「あ~、なるほど」といいながら机に腰掛けると、「開けてみますね」といい、すぐさま分解を開始。お父さんは、「ま~、お掛けなさいよ」と、椅子をすすめてくれました。

診断中、気さくなお父さんは、時計の話をしてくれました。「時計はね。油がきれると動きが悪くなっちゃうんだよね。油をさせば動くよ。直せば使えるものは使ったほうがいいの。今はなんでも新しいものに買い替えちゃうけどね。もっとも、直せる人もいないから、しょうがないんだけどさ」。

この瞬間、「この二人は、やっぱりかなりの技術屋さんだ」と確信しました。

それから、店内を指さして、「あの時計は100年ぐらい前のものだけど、油をさせばちゃんと動く。油ささないとバネが切れちゃうんだよね」なんていいながら、アンティーク時計の説明もしてくれました。

そんなこんなしていると、時計の診断も終わり、「オーバーホールをすれば直ると思います」というので、「ざっくりいくらぐらいかかりますか?」と聞くと、許容範囲(というか、かなり良心的)だったので、修理してもらうことにしたのです。

「じゃあ、よろしくお願いします」といって席を立とうとすると、「そんなに急がずに、コーヒーでも飲んでいったら?」というので、コーヒーをごちそうになることに、それからも、時計についていろいろ伺うことができました。

話を聞いているとすごく楽しそう。「あ~、この二人、きっと時計のことが大好きなんだな」という感じがします。

表面のガラスにも傷がついていたので、「ガラスって交換できるものですか?」と聞いたら、サクッと時計を見て、「う~ん、これは変えないほうがいいな......なんていいながら、自分の時計なら替えるけどね。大変なんだよ。ガラス替えるの」と冗談っぽくいうお父さん。その正直な感じが、またいい。

息子さんから「ガラスは、ちょっと厚みを出すと重厚感が増して格好良くなりますよ」と、いくつかの時計を見せてくれました。「え?ここで作るんですか?」と聞くと、「そうですよ。だって、メガネ(のガラス)もここで削りますし」というので、「それもそうだな」と妙に納得。ガラスを自分のところで削りだして合わせてくれる(しかも格好良くカスタマイズして!)時計屋さんなんて、今はどのぐらいあるのだろう?昔はあったのかもしれないけど......

「あ~、格好いい時計屋さんだな~」と思いました。仕事っぷりがステキ。メーカーでも直せない時計の修理依頼が全国からくるそうです。「こんなところ(田舎)に、こんなすごい時計屋さんが!」というのもまた、ステキです。業種は違うけれど、ボクもこんな風になりたい。こんな風に仕事がしたいと思いました。

うれしい気持ちで自宅に戻ってきたら、昔、茶ダンスの引き出しに父親の古い時計があったことを思い出しました。「あれって、どうなっているんだろう?」と思い、茶ダンスの引き出しを探してみたら、目的の時計を見つけることはできませんでした。

その代わりに、違う時計が出てきました。SEIKO CROWNと書いてあります。調べてみたら、1960年代の時計みたい。

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手巻きの時計なので、ねじを回してみると......動くじゃないですか!しかも正確に!もう何年、いや、何十年もほったらかしだったのに。50年前のものが、電池交換も必要なくちゃんと動くって、すごい!なんかね、感動しました。当時の技術屋さんの粋を見た気がしました。今のパソコン、50年経ったらきっと使えないよね。悲しいけど。

で、思わず、近くにいた父親にききました。「この時計、使っていい?」と。そしたら、「いいよ」と。手につけてみたら、なんだかとても感じがいい。この時計、大事に使うことにします。年代が年代なので、オグチさんにオーバーホールしてもらおう。

というわけで、長野県信濃町の格好いい時計屋さんと、50年前の粋な技術屋さんが作った時計のお話でした。

実は、これ以外にも、「仕事で大切なことはこういうことだよな」と、マジマジと思ったことがあるのですが、長くなったので、今日はこの辺で。

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