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コンテクスト(文脈)を創造が新しいビジネスの価値創造につながります。色んな角度から「コンテクストクリエーション」をみてみましょう

汎用人工知能への挑戦と限界

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人工知能への期待が高まっている昨今。いわゆる人工知能技術を使った様々な応用への適用によるビジネス展開が検討されている一方で、過度な人工知能の期待や畏怖が広がっているようにも感じる。

では、現実に実現されたり、研究されたりしている人工知能はどのような位置づけで、SFで描かれている人工知能と比べてどこが違うのかについて、一番根幹となる、特化型人工知能と汎用人工知能の整理とその限界について述べたい。

特化型人工知能と汎用人工知能

人工知能と一口に言っても大きく2種類に分けられる。「特化型人工知能」と「汎用型人工知能」だ。これに関しては非常にご存知の方も多いと思うが、もう一度整理のため下記にまとめる。

  • 特化型人工知能:画像認識、チェス、将棋、囲碁など何か一つの目的に特化した人工知能。あくまでもその目的に特化した問題しか解けない。
  • 汎用型人工知能:どれかに目的を特化することなく汎用的な能力を兼ね備えた人工知能。様々な問題を解くことができる。

今、実現されている全ての人工知能が特化型人工知能だ。囲碁で驚異的な強さを見せたAlphaGoも「囲碁」という目的に特化した特化型人工知能である。対して、厳密に言えば、これまで汎用型人工知能として実現されたものは存在しない。また、人工知能研究者の95%は特化型人工知能の研究者だと言われている。

人間はというと、いろんなことを考え、様々な分野で生かして考えることができる点では、汎用型ということができる。つまり、人間のような知識を実現するという最終目標は汎用人工知能を作ることということになる。

ただし、先にも書いた通り、現在実現されている人工知能の全ては特化型であるし、人工知能研究者の95%は特化型人工知能の研究をしているのが実態なのである。なぜか、それは実現することが難しいからである。どのように難しいのか、その一つの側面について示したい。

ノーフリーランチ定理(NFL)

汎用人工知能を実現することというのは、どんな問題でも高精度に解いてしまえるようなアルゴリズムを考えることと考えるかもしれない。それは理論上難しいのではないかと投げかけたものがノーフリーランチ定理という。この定理は「どのような問題に対しても平均的に効率良く解くような探索アルゴリズムは存在しない」というものだ。

ノーフリーランチ定理(Wikipedia)

いわば、問題が変わればアルゴリズムを変えるべき、なるべく事前知識を使ってその問題に特化した手法を考え、適用すべきという示唆が含んでいるだろう。あるデータ解析手法がすぐれていると言っても、なんでもかんでもその手法を使うべきではないのだ。

こうなってくると、汎用人工知能の実現方法として、どんな問題でも高精度に解いてしまえるアルゴリズムを考えるよりも、与えられた問題に対して、有効なアルゴリズム、モデル、パラメタを自動的に選択する方法の方が実現性が近いと考えられなくもない。人間の頭の中でも、問題によって戦略を変えるように、多数のアルゴリズム、モデル、設定可能なパラメタを用意し、事前知識(訓練データ)によってそれらを選択、設定できる能力が重要となるわけだ。

ある問題を与えられるということ

ある問題を人間が与えた時に、有効なアルゴリズム、モデル、パラメタを自動的に選択するというの行為はどういうことなのか。

我々が住む「実世界」は無限の種類の特徴で覆われている。無限の種類の特徴のまま何かをしようとすると考慮すべきことが多すぎて考えるだけで何も行動ができなくなってしまう。というよりも、何を考えていいのかさえわからなくなるだろう。その無限の種類の特徴を次元削減をすること、それがコンテクスト(文脈)を与えると言う作業だ。「問題」というコンテクストを与えることで、「実世界」で着目すべき特徴を把握し、導出可能にすることだ。

明確にされないとわからない目標を定められることにより、その目標に沿った行動が決定されるということだ。

これは一見、多様な問題に対して解き方を選ぶという点では、汎用と考えられるかもしれない。しかしながら、まだまだ人間にはおよばないところがある。問題を与えられるのではなく、問題を設定する、創り出すことである。

ある問題設定をするということ

人間は、何らかの目標や問題設定、問題を創り出したりする。必ずしも、いつでも問題は与えられるものではないのだ。多くの場合創り出すものなのだ。コンテクストは創り出すもの(コンテクストクリエーション)。

自ら問題設定をし、その問題に対して適切なアルゴリズム、モデル、パラメタを自動的に選択し、問題を解くことはすなわち、歩むべき道について与えられるのではなく、意思決定をしていることに他ならない。

汎用人工知能にもレベルがある

日立製作所の矢野和男氏によれば、汎用人工知能について4レベルがあるという。

  • レベル0:全て人間の手による固定のルールやロジックにより動作(従来の機械)
  • レベル1:特化した目的に対して解を見つけられる(特化型人工知能)
  • レベル2:人間から与えられた目的から最適な解を見つけられる(問題と事前知識は人間が与える)
  • レベル3:人間から与えられた目的から最適なデータを見つけ、最適な解を見つけられる(問題のみ人間が与える)
  • レベル4:人間が設定した目的から問題を設定し達成する(問題も創る(スコープを設定する))

人間が組んだロジックしかしない、問題が固定されている、問題と事前知識が与えられる、問題のみが与えられる、問題さえ創り出すというレベルわけである。このように整理されると、特化型人工知能、汎用人工知能と二元論的に考えるのではなく、どのようなレベルで汎用なのかを見ていくことも技術の進展を考察するうえで重要となる。このように見れば特化型人工知能も従来のITと比べれば、ある意味汎用であるということができる。

汎用人工知能は実現するのか?

汎用人工知能は厳密には実現していないと書いたが、矢野氏のレベル分けをすればレベル2を模索している研究や技術は散見される。レベル3を対象とした研究は存在するが少ない、また、レベル4は誰も到達していない。

様々な問題を解くという観点から考えると、唯一無二のどんな問題にも使えるようなアルゴリズムが存在するわけではなく、有効なアルゴリズム、モデル、パラメタを問題によって選択、設定することが重要であることは示した通りだ。しかし、有効なアルゴリズム、モデル、パラメタを自動的に選択する方法というのがまだ確定的な方法があるわけではない。実際、人間もなぜその戦略を使ったのか、説明はできないが、最適な手法であると考えることもあるだろう。そういう意味では、事前知識をどのようにしてアルゴリズム、モデル、パラメタの選択、設定に生かすかの研究が非常に重要となる。しかしながら、そのブレイクスルーはまだ見つかっていないと言っていいだろう。

また、実はレベル3とレベル4の間に非常に大きな壁がある。ここに人間と機械の違いが存在するのではと考えている。問題を創るということは実世界で生きて活動するための必須事項をブレイクダウンすることに近い。そこには、根本となる考え方(哲学)、意思だけでなく、身体性が絡み合う。これこそが人間らしさであると「現時点では」いうことができるだろう。

つまりは、いわゆる汎用型人工知能って実現が結構難しいというお話でした。

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