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カウンセリングによくある誤解や質問、また、カウンセリングとはどういうものなのかなどについて執筆します。カウンセリングルームと契約したい、または相談室を作りたいと考えている、もしくは既に契約しているけど実はよく分かっていない企業の方だけでなく、一般の方にも幅広く見ていただけたら幸いです。

「何でも無理やり心の問題に結びつけようとしますよね?」

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 カウンセリングを受けた方、もしくは、カウンセリングを勉強した方で、表題のように考える方がいるようです。
 果たしてこれは本当なのでしょうか?

 問題には2つの面があります。
 現実に起こった問題と、それをどう捉えてどう感じたかという問題です。

 カウンセリングでは基本的に、後者を取り扱います。 現実に起こった問題の解決を直接的に取り扱うことは、ほぼありません(※現実の問題を、自分で解決に向けて動き出せるようにするにはどうしたらよいかという観点でのカウンセリングは可能でしょう)

「これだと現実の問題が解決されないから、役に立たないんじゃないの?」と、思われる方もいるかもしれませんが、それは早計というものです。

  • 心の問題は、何度も繰り返し同じ考えを呼び起こし、人生の貴重な時間を浪費します。
  • 心の問題は、その問題を持つ人に苦痛な時間を持続させます。
  • 心の問題は、現実の問題のより良い解決策を導き出そうとする思考を阻害します。
  • 心の問題は、現実の問題に対応しようとする学習能力を低下させます。
  • 心の問題は、現実の問題への解決への行動を阻害します。

 1つの問題が全部には当てはまらないかもしれませんが、心の問題を解決した方が、現実の問題への対処も(多くの場合)より良いものになると言えそうです。

 いくつかの例を挙げて見ていきましょう。

1.地震が起きて不安になった場合

 これは、現実の問題に対処しようとしても、「カウンセラーの力で地震を鎮めてくれ!」という人はいないので、心の問題への対処を問題なく行うことができる分かり易い例だと思います。 もし万が一、直接「地震を鎮めて欲しい」という方が現れた場合は、神社やお寺などを紹介することになると思います(したことはないです)。

2.多重債務で苦しんでいる場合

 たとえば、多重債務に至るまでの過程で借金癖などがある場合は、心の問題が大きいと言えます。 その場合、なぜ借金を繰り返してしまうのか、繰り返さないようにするにはどうしたらよいか等についてカウンセリングを行うことが可能ですが、カウンセラーが借金を肩代わりしたり、新たな借金の保証人になったり、借金の返済方法の検討をするなどの行為は行いません。

 この問題の場合、現実の問題に対してカウンセラーは専門外となるので、弁護士の紹介を行う等の対応が考えられます。 だからと言って「カウンセラー役に立たねーなぁ、弁護士の方がよっぽどいいよ」と言われても、専門分野が違うので、カウンセラーが現実問題を直接解決しようとする方が問題なのです。
 他の専門家を紹介したということは、カウンセラーの役目を果たしたと言えるのではないでしょうか。

3.友達同士が仲違いして、その間で人間関係に苦しんでいる場合

 意外に問題になるのが、この例に類似したケースです。
 自分が苦しんでいるにもかかわらず、「友達同士を何とかして欲しい」と強く訴え続けるのです。

 しかし、よく考えてみてください。 カウンセリングの場に居るのは、カウンセラーと来談者の2人です。
 その友達が来談者の心の住人でない限り、「友達同士を何とかして欲しい」という願いを直接的に叶えるには、何か魔術的なものが必要です。「まずはマンドラゴラの根、ドラゴンの鱗、ユニコーンの角を持ってきなさい」と言うかもしれません(※本当に旅に出たら困るので、言わないと思いますが・・・)

 この例の場合は、来談者の感情の惑乱への対処、そして、来談者が問題へ踏み出していくための心の準備などについて、カウンセリングを行うことができます。 また、変則的な対処として友達を含めた面談(あくまで中立の立場であることを宣言する)や、友達を別々に新たな来談者として向かえるなどが可能だと考えられます。

 このように、カウンセラーの役割は心の問題がある場合に、心の問題に対処するための専門家としてカウンセリングを行うことです。 心の問題がない場合にはカウンセリングの必要はありませんし(話をして落ち着きたいなどでもいいと思います:話を聞くことの重要性2参照、現実の問題が大きい場合には、その現実の問題に対応する専門家の紹介を行う(※リファーと言います)のがカウンセラーの仕事となります。

 逆に、表題「何でも無理やり心の問題に結びつけようとしますよね?」のようなことは決して起こらないのかといわれると、残念ながらそうでもないようです。 中には、「自分が何とかしなければ」「何とか力になってあげたい」という思いが強すぎて、または、自分の能力不足を認めることができずに、適切な専門家への紹介を行うことができないカウンセラーもいるようです。

 心理学者アブラハム・マズロー(Abraham H. Maslow, 1908-1970)の言葉に、次のようなものがあります。

「唯一金づちしか道具を持たないものは、すべての問題を釘とみなしてしまいがちだ」
(※日本語訳や解釈が色々ありますが、多分こんな感じだと思います・・・)

 カウンセリングの知識や技術を身につけたからといって、それだけでどんな問題でも解決できるわけではありません。

 カウンセラーの視点でも、来談者の視点でも言えることは、「カウンセラーは万能神ではない」ということであり、カウンセラーは自分が万能ではないということを認める必要があるのです。

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