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組織開発・人財開発・IT・ビジネスについて、日々、感じたことをつづります。

『分かっていない』 ことを分かる ~現在地を知るということ~

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A 『分からないところが、分からない』という状況
  →自分が『分かっていない』ことを、分かっている。

B 『分かっていない』ことが、分からないという状況
  →自分が『分かっていない』ことを、分かっていない。

似ているようで、大きな違いがあるAとB。
今日は、このAとBについて書きたいと思います。

dc99471883404e3e09a601bfc65c8041_s.jpgAにおいても、Bにおいても、分かるようになるためには、今、自分がどのような状態であるかを把握することは大事です。これを言い換えると、自分の『現在地を知る』ということだと思っています。

■ 『現在地を知る』ということ
例えば、日常生活で、ある目的地に到着するためには、今、自分がどの場所にいるかを知っている必要があります。それは、今の自分の居場所(現在地)が分からないと、目的地までの経路が分からず、目的地に到着することができないからです。
同様に、技術や知識を習得する場合も、今、自分がどの場所にいるか(自分がどこまでを分かっているか)を知っている必要があります。
私は、自分の『現在地を知る』ことは、とても大事なことだと思っていますので、新入社員研修の講師を担当する際には、必ず、以下の3つのことを伝えています。

  1. 今、自分がどこにいるか、常に、現在地を確認する
  2. ○○は理解できている。△△は理解できていないと、質問は具体的に伝える
  3. 分からないのは、受講する側の問題ではなく、教える側の問題である
    =相手に分かりやすく教えるのは、教える側のプロとしての責任
    =分からないことを伝えてもらえれば、分かるようになるまで伴走する

講師として気を付けているのは、3の教え方に関する部分です。
常に、『
講師の視点』と『受講者の視点』の両方の視点をもつようにするため、現在地を新入社員の時の自分に戻して考えるようにしています。

少し話がそれますが、世の中には、後輩の方から質問された際に、「前にも教えたよね」「前にも言ったよね」という言葉を口にされる方が、少なからずいらっしゃるようです。
そのような言葉が出てしまう方は、ぜひ、ご自分が新入社員だった頃を思い出していただき、現在地を新入社員の頃に戻して考えていただくとともに、伝わっていないのは、自分の教え方に問題があるのではないか?という観点で、教え方を振り返っていただきたいと思っています。

■ A『分からないところが、分からない』という状況
話を戻しますと、多くの場合、上記の1と2を意識しながら、段階的に技術や知識を習得していくことができるのですが、稀に、『分からないところが、分からない』という質問を受けることがあります。
これは、私自身もそうだったのですが、初見の言葉が多すぎて、まるで象形文字を見ている気持ちになってしまい、どこから手をつけていいのか、自分では分からない状況です。
外部のカンファレンスなどに参加しても、分からない言葉のオンパレードで、「IT業界でやっていけるのだろうか?」と、とても不安な気持ちになっていたものでした。
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Aの『分からないところが、分からない』状況は、自分が『分かっていない』ことを分かっているので、『分かる』ようにすることは、難しいことではありません。
『分からないところが、分からない』状況を『分かる』ようにするためには、体系的に理解できるように、1つ1つ丁寧に問いを立てていきます。
この時、私は、以下の2つを繰り返すことが重要であると考えています。

  • 問いを立てる側:
    自分の現在地を、相手の現在地(例えば、新入社員)に戻して問いを立てる。

  • 問いを答える側:
    (インターネットで検索した言葉ではなく)自分の言葉で説明をする。

私が問いを立てる場合は、『分からないところが、分からない』という、絡み合った状態を1つずつ紐解き、点の状態(要素)に分解するための問いを立てていきます。
そして、点の状態(要素)に分解してから、今度は、線や面を形成していくための問いを立て、体系的に理解するためのサポートをしていきます。
自分が『分かっていない』ことを分かっている場合は、一度、点の状態(要素)に分解してから、線や面を形成していくことで、『分かる』ようにすることができます。

■ B『分かっていない』ことが、分からないという状況
人材育成や人材開発において難しいのは、Bの『分かっていない』ことが、分からない(気づいていない)状況です。こちらは、『分かっていない』ことを、分からない(自分では分かっている、自分ではできていると思っている)状況なので、自分から技術や知識を習得しようと思わないという落とし穴があります。

『分かっていない』ことが、分からない状況が起きる要因の1つとして、自分の体験や常識という先入観があると思っています。言い換えると、知識や経験が邪魔をする」ということです。
これは、社会人歴が長くなり、周りからフィードバックを受ける機会がない(あったとしても形骸化している)場合、特に顕著だと思っています。

また、同じ組織や集団に長く所属している場合、意識的に思考していないと、その集団の『常識』によって、思考が停止してしまう =『分かっていない』ことが、分からない状況を作り出してしまっているように感じています。

『分かっていない』ことが、分からない状況に陥らないように、私が意識していることは、以下の3つです。

  • 経験の更新:常に、自ら経験し、自ら考え、経験をアップデートする
  • 経験の補強:自分が経験できないことは、経験している人から、直接、話を訊く
  • 思考の拡張:安心・安全の場を創り、互いにリスペクトして、本音で対話をする

「最近の新入社員は・・・」「最近の若い人は・・・」という記事を目にするたびに思うことは、先入観を持たず、ぜひ、平等な視点でディスカッションをしていただきたいということです。
少なくとも、私は、自らの経験をとおして、若い世代の方々とのディスカッションが大事なinsightsをもたらせてくれることを知っています。

いつの時代も、
『分かっていない』ことが、分からない(気づいていない)人ではなく 『分かっていない』ことが、分かる人でありたいと思っています。

■【参考】行動の質:『ふつうは』『当たり前』の基準は、どこにある?
http://blogs.itmedia.co.jp/shiinomami/2018/11/post_10.html





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