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「生保」というと最近は「生活保護」の略称だったりしますが、こちらは「生命保険」です。保険会社(メーカー)、代理店(販社)だと言いづらいこと、言えないことを、分かりやすく書いていきたいと思います。新規加入や見直しの際にご参考にして頂ければ幸いです。また、取り上げて欲しいテーマがあればリクエストしてみて下さい。可能な限りお答えしていきます。

「想定外」という確信犯?

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今回は「生保のトリセツ」とは直接関係ないものとなりますが、保険の根本である「事前の備え」に関連して書かせていただきます。


今回の地震の影響で発生した原発問題において、専門家や東電などのコメントで
「想定外の地震」「想定外の津波」との発言が多くありました。
「それなら仕方ないのか・・」と感じた方がいらっしゃると思います。

初動の遅れ、曖昧な説明や後手後手の対応などは当初から「人災だ!」との見方が
大多数ですが、今回の地震にて原発が津波にやられてしまったのは「想定外」の
地震や津波の規模によるものであるから、政府にも東電にも保安庁にも責任はない、
天災だから仕方ないといった雰囲気が多少あったように思いますが、様々な情報を
知ることによって、それは違うということが分かってきました。

東北電力の女川原発は津波を想定してコストをかけて高台につくられていました。
そのため津波の被害は最小限で避難所となっていることだけを見ても、東京電力の
「想定外」は怪しくなってきます。
東北電力の「想定内」が東京電力では「想定外」なんてあり得ません。

2011年4月9日の読売新聞朝刊の記事で、元原子力安全委員長の松浦祥次郎氏
のインタビュー記事が掲載されていました。
この方は大学で正規に電子力工学を勉強した最初の世代で、原子力開発の黎明期
から関わり、日本原子力研究所の所長や原子力安全委員会の委員長を歴任していた
と紹介されいます。

読売の編集者が「・・・津波への備えが安全委員会も甘すぎたのではないか」という
質問に「(前略)今回と同様の規模の津波が過去にあったと警告する研究者がいるのを知ったのは最近のことだ」と答えています。

これはかなり衝撃でした。
これでは一般素人の我々と同じではないですか。
現在はネットで検索すれば一般素人でもいろいろと情報を取れますが、日本原子力
研究所の所長や原子力安全委員会の委員長を歴任していた方がこれでは、リスク
マネジメントもヘッタクレもありません。

地元の東北電力は、当然過去の津波のことは織り込んで対策を立てていたので、津波
をなんとか乗り切りました(綱渡りのようでしたが)。

ここでこの方の不明を非難したいわけではありません。
この記事でも指摘していますが、問題は「政府―学者―東電」という所謂「原子力
ムラ」と呼ばれる馴合いが根っこにあることです。
そしてその「原子力ムラ」の住人が無神経になってしまっていることも問題です。

共産党系の政治家や一部御用学者ではない専門家が、今回のような津波の被害が
想定される、と過去に指摘していたようですが、「原子力ムラ」の巨大な権力や利権
の前にかき消されてしまっています。

原発の設計や構造においては大きな問題がないとすれば、歴代の津波を想定して
高台に設置すれば福島の原発の被害は全く違ったものになったはずです。
津波に対する備えが不完全と指摘された時点でなんらかの対策があれば、今回とは
違った結果になったかもしれませんが、それまでに築いた「安全神話」を覆すこと
となり、またコストが甚大になるため「原子力ムラ」の住人には現実的には不可能
だったのでしょう。

東電管轄外に原発をつくるのであれば、最低限東北電力と同じレベルで安全対策を
するべきで、当時の専門家のトップが過去の津波について「・・・知ったのは最近
のことだ」と私と同じレベルであるのは、この方の個人的な責任があるにせよ(ト
ップですから組織の責任を負うのは当然)組織としての無神経さが伺えます。
東北地方のことを鑑みれば過去の津波のデータを調べるの当然だと思います。

後付け、結果論の話になってしまいますが、このムラの無神経さをつい最近感じた
ので敢えて書きました。
自宅は計画停電の対象地域なのですが、「3月の電気料金は検針ができなかったの
で2月と同じ料金をお支払いいただきます」といきなり請求書が来ました。
「停電くらって節電しているのに寒くて暖房を使い倒した2月と同じかよ」と3秒
ほど感情的になりましたが、「東電も大変なんだな」と気持ちを入れ替えました。
しかし、わすれたころに「3月電気料金についてのお願い」として2月と同じ料金
にするが4月に清算する旨の手紙が届きました。
割増請求書を出したあとに、その理由とお詫びを告げる間抜けさ、無神経さは如何
ともしがたいと感じたのは私だけだはないはずです。

お客様のことを少しでも鑑みれば、このような手紙は請求書の前に出すのが鉄則で
少なくとも請求書と一緒にしなければなりません。
後出しは最悪で、「感情的な3秒」が「あきれた10秒」となってフラッシュバック
してしまいます。

どうでもいいような細かい話になってしまいましたが、東北地方のことを深く考え
ないことと、今回の東電からの手紙の件は根っこは同じに思えてなりません。

電力ユーザーに対しては地域独占であること、原発設置地域の方には補助金を払うか
らいいだろうということで、普通の事業会社より組織自体が無神経になっているよう
です。

大きな利権→無神経な組織→リスクマネジメントの不備

このような構図が今回見えてきたように思います。
利権にまみれた当事者が自らを律してリスクマネジメントをすることは事実上不可能
だったのです。
専門家もマスコミも東電のバラマキにより無批判となっていたので尚更です。
(東電から一部大学への過大な寄付金やマスコミへの甚大な広告費等)

ここに来て「想定外」としていたのは甘かったと陳謝する専門家も出来てきています
が、これまでは「想定外」というエキュスキューズありきの「原発安全神話」であり、
「原子力ムラ」の住人達は結果的に確信犯であったと思います。

この構図をぶち壊すには、「原子力ムラ」と全く利害を共にしない第三者機関を立ち
上げるしかないように感じます。
「原子力ムラ」には政府も絡んでいますので、海外の専門家に委ねるしかないかもし
れません。
もはや日本だけの問題でないわけですから。

 

強引に生命保険の話につなげるようですが、客観的、中立的にリスクマネジメントする
ことは生保も同じような難しさがあるのだな、と感じました。
リスクの大きさや質は違いますが、構造的には似通っています。
「生保ムラ」は存在し、教育機関へのバラマキはあまり聞きませんが、マスコミへの
広告費の大きさにおける影響は無視できないものです。
保険業界は十数年前に外圧により風穴が開きましたしたので、原発問題ひいてはエネ
ギー問題についても同じようなことがあるかもしれません。

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