オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インフラPPPプロジェクト公開入札におけるプロポーザルの審査基準

»

昨日の投稿の続きで、インフラ輸出(海外インフラPPP事業)における競争入札の審査基準について記します。

インフラ案件を公開入札にかけて、政府側が受け取ることになるプロポーザルは大きく分けて、テクニカルな部分に関するものと、ファイナンシャルな部分に関するものの2種類あります。ある国が原子力発電所を受注する際に、非常に安い価格を提示したというような場合の「価格」は後者に含まれます。

■テクニカルプロポーザル

政府の担当者は、水や鉄道といったインフラ事業について専門家であるケースはまれですから、特にテクニカルプロポーザルについては、中身の良し悪しの判断に困るのが通例です。選ぶ側にも悩みがあるのです。
そこで一般的には、政府側が、リーガルアドバイザー(契約面をカバー)、ファイナンシャルアドバイザー(提案のファイナンス内容を精査)に加えて、テクニカルアドバイザーを雇って、テクニカルプロポーザルの精査を行います。

世界銀行の政府関係者向け教科書的な資料によると、ファイナンシャルプロポーザルの審査に先立って、まずはテクニカルプロポーザルの中身が審査されるそうです。スペックが劣っているものを先にはじくわけですね。

また、テクニカルプロポーザルに、仮にイノベーティブな提案が盛り込まれていた場合に、そのイノベーティブな方策の実現可能性がどうかということが吟味されて、実現性がないと判断されると、そこで弾かれるということも書いてあります。これも政府側からすれば当たり前の判断ですね。インフラ事業の特性として、実績がない方策を盛り込んだテクニカルプロポーザルは、難しいところがあるのではないでしょうか。

テクニカルプロポーザルがよしとされた入札者については、その中からベストなフィナンシャルプロポーザルを提出した入札者が落札することになります。ベストなフィナンシャルプロポーザルとは、その案件においてValue For Moneyのよさを示すもの、海水淡水化プラントの場合なら単位造水量当たりの造水価格がもっとも安いことを提示したもの、ということになります。

テクニカルプロポーザルとファイナンシャルプロポーザルを同時並行で審査する場合もあるそうです。以下の項目にそれぞれ得点を割り当て、最高得点を獲得した入札者を落札者とするやり方です。
 ー 投資プラン(30点)
 ー 追加投資の有無(5点)
 ー 運営組織プラン(25点)
 ー メンテナンスプラン(8点)
 ー 政府側に支払われるコンセッションフィーの額(12)
 ー エンドユーザーが支払うことになる利用料(5)
 ー (政府事業から引き継ぐケースにおいて)公営企業から引き継ぐ従業員数(15)
上記はブエノスアイレスの貨物鉄道のケースです。

また、別なパターンでは、テクニカルプロポーザルを入札者めいめいに作成させずに、次のようにするものあります。ファイナンシャルプロポーザルを出す前の段階で、政府側から、テクニカル系のスペックやサービスに関する水準を明記したものを出し、それについて入札者複数と議論をするなかで、水準設定の調整等を行って、確定的なテクニカル要件を得ます。そして、入札者全員が同一のテクニカル要件に基づいてファイナンシャルプロポーザルを作成し、そのファイナンシャルプロポーザルだけで競わせるという形式です。水道、電力、通信サービスなど、いわゆるUtilityと呼ばれる分野ではこれが合っているかも知れません。

補足しておくと、事前資格審査によって最良の入札資格者を選定した後で、政府がその入札資格者1社と何度も何度も交渉を重ね、その中で妥当なテクニカル要件、ファイナンシャル要件に落とし込んでいくという、交渉ベースのやり方があります。英国の鉄道案件で日立製作所が受注しましたが、あそこで言われていた"Preferred Bidder"が、そうした優先交渉権獲得者という意味です。

■ファイナンシャルプロポーザル

ファイナンシャルプロポーザルで要求されるものには、以下の例があります。事業分野によって、あるいは政府側のコンセッションのデザインによって変わってきます。

  • コンソーシアムが事業権を得る資産に対して、政府側に支払われるコンセッションフィー(一時的もしくは毎年支払われるもの)の額の多さ
  • 政府が負担することになるコストの少なさ
  • コンソーシアムが行う投資の額の多さ
  • エンドユーザーに課される料金の少なさ(現状のサービスより料金が低下した幅等)
  • そのインフラ事業の全営業期間に得られるキャッシュフローの純現在価値の少なさ(多ければ儲けすぎという考え方)
  • そのインフラ事業の収益が落ち込んだ場合に政府が支払うことになる補助金の少なさ
  • そのインフラ事業で想定されている粗利の少なさ(少ない粗利であれば経営が効率的という考え方)

様々なファイナンシャルの審査基準があるわけですが、入札する側としては、どのような基準が課されたとしても、妥当な水準のサービスをなるべく低コストで提供できる体制、例えば、ライフサイクルコストが最小化できるような製品群によって構成されたプラントがあれば、入札で有利になるということが言えそうです。

Comment(0)