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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

スマートグリッドがよくわかる6枚の絵と1本の動画 - スマートグリッドの現状についてのメモ(5)

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最近はスマートグリッドに関する情報が各所で流布するようになり、今年春頃にあった「スマートグリッドってそもそも何?」という状況はなくなりました。日本でも7月に、JETRO市川類氏による「米国におけるスマート・グリッドの産業構造と標準化を巡る最近の動向」や野村證券の「21世紀型電力網の夜明け」が出て、これらに目を通すことで全体的な動向を把握することができるようになりました。

その一方でまとまったレポートを読む機会をなかなか持てず、かと言って、新聞雑誌などに載る断片的なニュースだけでは満足できないという方々もいらっしゃると思います。
「スマートグリッド何ぞや」の直感的な理解を得るには「絵」を見るのが一番早いです。ということで米系の電力業界の資料からピックアップした絵を何枚か引用します。

1枚目はEPRI (Electric Power Research Institute、米国電力中央研究所)が各所で使っている原典中の原典とも言うべきスマートグリッド概念図。電力会社のプレゼン資料などでも引用されています。

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かいつまんで説明すると…。
左側に「Dynamic Systems Control」「Distribution Operations」「Data Management」があるのは、米国の現行の送配電が比較的ローテクな給電コントロールを行っている現状から日本流のきめ細かなハイテクを使った給電コントロールに移行するということです。
「Utility Communications」は、電気の流れとは別にコミュニケーションの流れ(データの流れ)もスマートグリッドには不可欠であるということを示しています。
「Advanced Metering」は「スマートメーター」とも呼ばれる、遠隔の電力会社から読み取りが可能な電力計。このインフラがいわゆるAMI (Advanced Metering Infrastructure)です。Advanced Meterにはone wayとtwo wayがあり、one wayは電力会社からの自動読取にのみ使われるもの、two wayは双方向のやりとりを行って種々の高度なサービスを実現します。
「Consumer Portal & Building EMS (Energy Management System)」の「Consumer Portal」は家庭内で電力消費状況などを確認するための表示パネルないしはPCとブラウザでアクセスできる電力消費状況確認ページ。企業のビルなどではもう少し大がかりになり、EMSと呼ばれる高度な電力消費管理機能群となります。
「PV」はPhotovoltaicの略で言うまでもなく太陽光発電。
「Renewables」は再生可能エネルギー。
家の中に見える「Control Interface」は家電や家庭内情報機器などに装着ないし内蔵される、統合的な省エネルギー実現のための電力消費コントロール用装置。自動的にオンオフする類です。これがConsumer Portalでコントロールされます。
「Plug-In Hybrids」は家庭電源で充電可能なハイブリッドカー。搭載されている蓄電池は家庭の余剰発電の蓄電にも利用されます。
「Smart End-Use Devicec」は謎ですね。エアコンなどをスマートにコントロールするということでしょうか。
「Distributed Generation & Storage」は各家庭や各地域に設置される分散型の発電施設。この絵ではPVとRenewableによる発電が家庭の屋根にすでに存在しているので、Distributed Generationで示されているのは電力会社の保有・運営による地域の小規模分散発電施設ということでしょう。「Storage」も電力会社の保有・運営による地域の余剰電力蓄電目的のものと言えそうです。

2枚目に行きましょう。こちらはスマートグリッドが盛んなカリフォルニア州で展開するPG&Eの資料から引用したもの。同社は米電力会社のトップ5に入ります。
この絵が示しているのは、電力系統全体を構成する電力の流れ(実線)とは別に、コミュニケーション=データ(点線)の流れが必要だということです。各所の「S」は電力需給の変動などを感知するセンサー。センサーから出たデータが変電所(Substation)や中央給電指令所(Distribution Operator)に送られ、スマートグリッド全体のバランスが恒常的に保たれます。
「Advanced Computing」ないし「Distributed computing」という言葉が中に見えますが、これはリアルタイムで膨大なセンサーからデータを受けて電力需給をコントロールするのには膨大な演算量が必要ということで、その演算処理を分散型のコンピュータアーキテクチャで行うということでしょう。このへんはITベンダーの出番ですね。
下に「Microgrid / sustainable communities」とあるのは、その地域で閉じた格好で発電から電力消費までをまかなう、いわば地産地消の概念を示したものです。
右下に住宅とビルの絵がありますが、これが次の図で拡大して説明されています。

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3枚目。同じくPG&Eの資料から。
左の住宅の図は上掲のEPRIの図を元にしていることがすぐにわかります。
右のビルの図では、住宅に設置されていた太陽光発電、Advanced Meterなどがより大規模に展開されているわけです。

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4枚目は、最大手Exelonのスマートグリッド概念図。構成要素は上の各図にあるものと同じですね。
同社系電力小売会社のComEdは、1年半で5,600万ドルを投じるAMIパイロットを2009年から始める計画を持っています。two wayのメーターを約14万世帯に設置し、15分置きにメーターを自動読取したり、家庭にはインターネット経由で電力消費が確認できる機能が提供される予定。もう1つの系列電力小売会社PECOには160万世帯にAdvanced Meterを設置する計画があります。ただしどちらの計画もオバマ政権の補助金が出たらという条件付きのようです。

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5枚目は、連邦レベルの規制を仕切るFederal Energy Regulatory Commission (FERC)の資料からの引用。
この図では、家庭内の各要素が無線で一種のゲートウェイに集められ、そこから「Information」(上で言うコミュニケーション、データと同じ)の流れとして上流にある給電コントロールに流れる様が示されています。これは、Home Area Network (HAN)と呼ばれることがあり、HANで検索するとたくさんの資料が出てきます(PDFファイルを指定して検索するとよいでしょう)。
家庭内の各デバイスのデータを無線で集める技術はいくつかあるようですが、よく目にするのはZigbeeです。しかし私個人はこのへんがまだ不案内です。

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6枚目は番外編。米国のものではなく、EUのスマートグリッドビジョンを啓蒙するホワイトペーパーで見つけました。2020年ごろの未来を表したものです。非常に夢のある絵です。環境と調和したスマートグリッドの全体像が美しく描かれています。

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最後に、スマートグリッドがピーク電力消費の削減においてどう機能するかを説明した動画を掲げます。Duke Energyがスマートグリッド啓蒙ブログで公開しているものです。4分弱。

この動画では以下を説明しています。
- 通常時は発電所から来た電力が送電線、変電所、配電線を伝わって家庭や企業に送られる。
- 太陽光発電は日が照っている間に発電を行い、必要があれば地域のグリッドに送電する。余剰な電力は蓄電池に蓄電する。
- 各家庭ではResidential Energy Management System (REMS)が動作している。
- 地域に導入されたスマートグリッド技術、太陽光発電、蓄電池、REMSが一体となって「仮想的な発電所」が構成される。
- この仮想的な発電所があることで、Duke Energyはピーク時(夏の暑い時間帯など)に、電力卸売市場などからピークの高い値がついた電力を買う必要がなくなる。あるいは新規のピーク対応用発電所を建設する必要がなくなる。
- ピーク時になり、Duke Energyの送配電網全体において電力の融通がきつくなると、蓄電池に指示が送られ、地域に送電し、ピークを緩和する。
- それと同時に家庭のREMSに信号が送られ、各世帯に不要不急の電気機器を切るように伝えられる(事前の設定により、ピーク時=電力代金が高い時間帯では、特定の電気機器を自動的にオフにする仕組みが働く)。
- ピークが過ぎると、通常の送配電に戻る。

米国電力業界で進展しているスマートグリッドは、おおむねこれらの絵および動画で示されている範疇に収まります。

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