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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

この記事は、メルマガ「デジタル・クリエイターズ」に月1回連載中の「データ・デザインの地平」からの転載です。今月で10回目になりますので、まとめて載せています。

連載「データ・デザインの地平」
第4回 「
多重CRUDの脅威」 (2011年3月14日配信分)

設計者が直面する、未知のデータ

現在、一人のヒトに従属するデータとは、氏名、生年月日、住所などの個人情報や、診療記録、購入記録、交友リストといった、従来手法で定義可能なものです。
しかし、近未来、ヒトそのものがデバイスとなるとき、現在の汎用的なデータベースの基本項目にはない、「ヒト自身のデータ」が追加されることになるでしょう。
それは、記憶と自己認識に係るもので、次の3つが考えられます。

1つは、ヒトの生活史の映像データです。生活史ログがクラウド上で公開され、永代使用存在証明ポータルが開設され、3Dと音声合成技術によりヒトの姿が再現されるのも、そう遠い先ではないでしょう。その再現の元となる「記憶の中の」イメージ・データです。

2つ目は、客観的事実ではなく、ヒト固有の記憶です。たとえば、蜜柑の爽やかな香り、潮騒の音、タオルの柔らかい感触などです。この記憶は、身体感覚と切り離せないものであるかもしれず、海馬をメモリカード扱いすれば済むものではないかもしれません。

3つ目は、「私という一意な存在がある」ことを主張する基盤となる、意識のシーケンスです。全てのヒトにとって、「ヒトを存在たらしめるシステムはただひとつしかなく、それを認識するのは脳の働きによるものであって、意識の座は脳の一箇所にもとめることができる」かどうかは分かりません。それは実に曖昧で漠とした社会的承認にすぎません。もし、脳以外の場所に意識のシーケンスが認められるならば、その場所にもまた、一意性を示すデータが従属するかもしれません。

ヒトの入れ子化は、データの入れ子化を招く

第2回目で述べたように、「モノ」が動けば、それに伴って「データ」が、そして(XMLでは)「メタデータ」も、動きます。Aさんの所有する品物が、Bさんの所有するところとなれば、XMLでいえば、<品名>品名データ</品名>も、品物に伴って動きます。
前述の、記憶と自己認識のデータは、個人の所有であり、この「モノ」に相当します。
デバイスたるヒトの身体の一部分が受け渡されると、それに伴い、記憶と自己認識のデータもCRUD(Create/生成、Read/読み取り、Update/更新、Delete/削除)されることが考えられます

しかし、ヒトの身体の部分の受け渡し―――Aさんの身体の部分がBさんに提供される―――では、デバイス間の物理的な境界が不明瞭になります。このことは、ヒトが入れ子化した時、それに伴って入れ子化する従属データの扱いに厄介な問題を引き起こします。

たとえば、Aさんの身体の部分が、Bさんに提供されたとします。
Aさんに従属するデータは、Bさんに従属することになります。

次に、Bさんの身体の部分が、Cさんに提供されたとします。
(Aさんに従属するデータを含む)Bさんに従属するデータは、Cさんに従属することになります。

もし、Cさんの身体の部分が、巡り巡ってAさんに提供されるなら、Aさんのデータとは、(((Aさんのデータ)+Bさんのデータ)+Cさんのデータ)という、何とも珍妙なことになってしまいます。一歩間違えれば無限ループになってしまいます。

デバイスたるヒトは「一意なもの」です。そして、記憶と自己認識のデータも、その一意性を裏付けるものです。
そのため、Aさんの身体の部分がBさんに提供され、Aさんに従属するデータがBさんに従属するようになると、「一意なもの」であるBさんは、「一意なもの」であるAさんの一意性を裏付けるデータを含んでしまうか、あるいはトレース可能となります。
これでは、一意なものは親ノードであるBさんであって、AさんはBさんの子ノードである、という関係になりかねません。
等しいプライオリティであるはずのデバイスのデータベースで、プライオリティの差異が生じることは望ましくありません。

誰が一意な存在、一意なデバイスなのかを明確にするには、データのCRUDをどの時点で止め、一意性をどこまで認めるかという制約が必要です。
また、データのCRUDを許可せず、受け渡し先から参照するにしても、どの時点までさかのぼってトレースを可能とするかという基準
がもとめられます。
最終的に誰(どのデバイス)に一意性を認めるかという、境界設定が必要になります。

過渡期の構造変換は、混迷をきわめる

我々の社会生活基盤を支えるシステムで扱われるデータベースの主キーや、ユニークなデータを持つノードは、「一意なもの」に対する社会的承認のうえに定義されています
従来にはないデータを扱う必要性が生じれば、社会的承認も変わり、データ構造も変わります。
しかしながら、ヒトのデバイス化が根付くまでの過渡期には、この社会的承認の変更が難しい社会が形作られていきます。

前回述べた、脳が子ノード化する「フュージョン」の時代には、完全リアルタイムで思考が流通する世界になります。
リアルタイム性は、圧倒的な速度の脳活動を要求し、時間を要する作業に「NO」を突き付けます。子ノードたちは互いの思考の熟成期間を牽制し合い、個々の深い思考に沈潜する機会は奪われます。子ノード群のリンクは、例外的な思考様式をフィルタリングし、思考は一方向へと集約しがちになります。

その結果として集積されるのは、高速且つ正確な入出力処理による「知識」であり、いびつな脳の活動によって引き起こされるある種の「気付き」ではありません。膨大な知識の上に構築されるのは「過剰に健全で安定した社会」です。一度「一意性」に対する「社会的な承認」が標準化されてしまうと、その変更には、時間がかかるようになるでしょう。
頻繁な変更はもちろん混乱のもとですが、逆に、変更が遅延されたままデータベースを運用継続すると、後に見直さなければならないデータは肥大化します。

ようやく一意性に対する社会的承認が変更された暁には、それに沿った構造に合わせて、数年~数十年にわたり蓄積されてきた膨大なデータを再構築する必要が生じます
それが365日24時間稼働が原則であったり、人命にかかわるようなシステムともなれば、一時停止させることなく、データ移行するのは、容易なことではありません。
そのうえ、すべてのシステムのデータが一斉に再構築されることはないため、過渡期には、「一意なもの」の定義が異なる複数のシステムが稼働することになります。それらのデータ共有や連携にあたっては、構造変換が必要になります。

あまりにも荒唐無稽なことを書いているように思われるかもしれません。しかし、ヒトは、升目の形、木の形、に成型されるべく、生まれてくるわけではありません。データベース設計者は、いびつな形をしたヒトのデータを、データベースに当て嵌めなければならないのです。
近未来、我々設計者は、ため息交じりに、つぶやくことになるでしょう。

Who is a primary key ?
Who is a root node ?

≪ 第1回 UXデザインは、どこへ向かうのか? (2010/12/20)
≪ 第2回 そのデータは誰のもの? (2011/01/24)
≪ 第3回 子ノード化する脳 (2011/02/20)

Sei

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薬師寺 聖

薬師寺 聖

絵を描き、詩を書き、曲を書き、文を書き、企画書と仕様書を書き、コードを書き、思索を続ける、四国の人。

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