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少子高齢化で、ますます困難になる「介護の問題」に劇的に効く、3つの開発ネタ。

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少子高齢化そのものが問題、なわけではないと思う。
既存の社会システムのままで少子高齢化が進んでいることが問題なのである。

若年層の人口比が少くても、その少ない労働人口でも国の経済力を低下させず、既存の社会インフラを維持し続けられるシステムが既に構築されているなら、問題はないはずだ。が、現実はといえば、リアルな変化に、社会システムのバージョンアップが付いていっていない。

とくに、問題になるのは、働き盛りの介護離職である。
もともとPCの業務に就いていた人たちは、在宅勤務に移行して仕事を続けられる可能性はある。だが、時間と場所の制約を受ける、製造や対面販売の仕事に就いている人は、介護休暇を十分に何度でもとることができる職場でデスクワークに配置転換をしてもらえるのでない限り、退職せざるをえないだろう。

貯金と親の年金で介護を続け、いざ復職をとなったときには自分が高齢。ブランクがあり、再就職先を見つけにくい。結婚するには遅く、(それが女性なら出産年齢を過ぎており)さらに少子化を進めることになる。もちろん自分の老後資金も蓄えられない。ところが、社会的には「独身子ナシは、子アリより経済的に豊かなはず、子は社会で育てるものだから支援して当然」などとみなされていたりする。という事態が頻発する。これでは少なからず心を病み、自分の老後のための保険加入も難しくなるかもしれない。

もっとも、在宅勤務になった人たちもまた、困難な現実に直面する。突発事項が多々発生するので、勤務先や顧客のためにも、また自分が社会的な信用を失わないためにも、作業を1~2日は前倒しで進めておかなければならないが、そういうプレッシャーに耐え続けなければならない。

苦労が人の器を大きくするとは言う。それは結果的に、幸運にも、苦労の後に人生の成功者となった人の言い分でしかない。この世には、しなくてもいい理不尽な苦労もある。

できるだけ早急に、介護分野での機械化をすすめ、若年層が介護のために仕事に注力できなくなる事態を防がなければならない。
二人で四人(両家の両親)を介護するのでは、介護以外の労働をする人材がいなくなってしまう。
介護福祉士兼介護システムのオペレーターが、一人で20~30人を担当できるぐらいでなければ、だめだ。

睡眠を削ってでも頑張ればいいかのような精神論や、つかみどころのない親への感謝をふりかざしても、介護者に無言の圧力をかけて精神の崩壊を早めるだけである。

「こころ」と「頭数」では、問題は解決しない。
必要なのは「サイエンス」と「テクノロジ」だ。

機器の開発とシステム構築が必要だ。

とりわけ、次の3つのテーマの解決が急務である。

・排せつ支援機器。あるいは、移動トイレ・システム。

寝たきり高齢者の排せつを介助するシステムはあるようだが、志のある私企業単独に任せておくのではなく、潤沢な研究開発費を付け、産学の叡智を結集して研究開発を支援すれば、肌にフィットする素材で(人工臓器ができるくらいサイエンスは発展しているのだから)、機器も小型化し、メンテナンスは自動、且つ、安価で提供できるものが開発できるのではなかろうか。

なぜ、この宇宙に人が行く時代に、まだ、我々は「おむつ」というものの存在を黙認しているのだろう。

また、寝たきりではなくともロコモティブシンドロームで歩きづらい高齢者が、自分で用をたせるようにしなければならない。
それには、「高齢者が移動する」のではなく、「トイレが移動する」方がいい。BMIでトイレをしたいという意志を感知し、排せつ物を受ける部分の機器が、療養ベッドの下に移動してくる。(パンツにはワイヤが入っていて、自動的に形状を変えて脱げる、というのは冗談だが)、用を済ませば、その機器はトイレ本体に戻り、自身を洗浄乾燥し充電して、スタンバイするというもの。

体重があり自力で歩行困難な人を動かそうとするから大変なのであって、軽量で自走式の機器を開発する方向で考えた方が、ブレイクスルーにつながると思う。

・ナンセンスコールをフィルタリングして緊急性の高いもの以外は着信拒否するシステム。
および、(誤ったフィルタリングによるリスクを防ぐため)心拍数と呼吸、酸素濃度をモニタリングして、それらに異常が発生すれば、あらかじめ契約しておいた近隣の病院と警備保障会社へ通報する、リストバンド型の防水緊急時連絡システム。

要介護度が高くなければ生じない排せつの問題よりも、要支援あるいはそれにいたらない高齢者も発生源となるという点で、ナンセンスコールは、若年層の労働力に大きな影響を与える問題である。

ナンセンスコールは、介護者を電話恐怖に陥れ、仕事に支障をきたす事態を引き起こす。プロの介護職であっても既に影響が出始めているのではないかと懸念する。

ナンセンスコール問題の本質は、「考える前にコールしてしまって」相手に邪険にされても、「コールすることを抑えられない」ために「コールを正当化してしまい」さらに相手を打ちのめし、悪循環に陥ってしまうことにある。
その原因を、「淋しいからコールするのだ、話し相手になってあげればいい」では、何も解決しない。それどころか、タダでさえ看る側の人口が少ないのに、一対一対応を正当化したのでは、事態を悪化させるだけである。

淋しさというこころの問題ではなく、科学と医療の問題としてとらえるべきだ。

私個人は、ナンセンスコールをする人の何割かは、未発見の脳の部分的損傷(転倒事故や脳血管障害による"本人も気付いていない"後遺症、"症状がなく放置されている"良性脳腫瘍や先天的な機能不全など)や、未診断で自覚のない広汎性発達障害、糖尿病ではないが無反応性あるいは反応性低血糖症などの問題を抱えているのではないかと思っている。MRI造影で原因に行きあたることもあるように思う。
そして、それらが独立した原因ではなく、たとえば脳の一部損傷によりこだわりが生じ、こだわりの対象が高脂質の食事にあれば、そればかり食べ続けて低血糖症状を引き起こしやすくなり、低血糖が発達障碍様の言動を引き起こす、というように、順不同で連鎖していたなら、原因は特定しにくいだろう。

ナンセンスコールをして周りから疎まれる状況は淋しいだろうし、脳の問題のある場所によっては自己認識に影響するだろうから淋しい感というよりは自己不全感のようなものが強烈である可能性もあるかもしれないが、淋しさは結果であって、原因ではないだろう。

脳の特性ならば、ナンセンスコールをする人が悪いわけではない。
また、受ける側の精神が脆弱なわけでもない。
どちらも悪くない。

が、介護者は追い詰められる。

努力すれば解決できるような問題ではない。技術で解決する方向を考えるべきだろう。

・ボーカロイド技術を用いた、仮想のコミュニケーションを実現する"プラシーボ・リスナー・システム"。

要介護高齢者の中には、介護者が困惑するような言葉を出力する人がいる。

人間は言葉を解釈するから精神が壊れるのであって、バーチャルな話相手なら何を言われても病まない。何度同じことを言われてもウンザリしない。ヒトが行うと病んでしまい、機器が行えば平気な作業は、人と機器で分担すべきだ。

介護者が心身を病むと、社会にとっては労働力が減ることになる。医療費も増える。
さらに、その病んだ人を支えるために、介護を担当していなかった家族にも負担がかかり、今度は家族が心身不調になる。心身の不調は、拡がるのである。

体の弱った高齢者は「社会通念上は」弱者とされるが、言葉ひとつで、強者を芋づる式に弱体化させてしまうこともある。これは高齢者側の問題ではない。介護者の問題でもない。介護者を取り囲む人たちの問題である。介護者側は、"社会的弱者に心を尽くさない冷たい人間"だと社会から見なされることを恐れるあまり、高齢者からの要求に対し、体力気力の限界を超えた状態にあっても、NOを言えなくなっているのだ。(介護者に対して「親を見るのはあなたしかいないのだから」「生んで育ててくれた親なのだから、やさしくしてあげなさい」「孤独死しないように毎日顔を出してあげるといい」などと言うのは、やめたほうがいい)

決して暴言を発する高齢者側が悪いわけではない。「発するな」と言ってもそれは脳の制御機構の問題で本人には解決できないのだから仕方ない。実際、そういった人々に対してみれば、一人一人は悪い人たちではなく、浮かんだ(「浮かんだ」≠「思いついた」)言葉が出力された後で、当人が意識していることは明白である(つまり、ナンセンスコーラー同様、リベット述べるところの「自発的な拒否」をする機能にバグがあるように見える)

かといって、言葉を受け止める側が、常時、言葉を符牒のようにとらえて、解釈などしなければいいのではないか?といえば、それはそれ、相手の言葉をよく聞き理解するようにという教育を受けてきているのだから、これまた難しい。

常時相手の脳内の処理をイメージしながら対応するのは困難であり、完璧に対応するなら、それは「科学者と被験者」「記者と患者」の関係になってしまい、ヘルパーと利用者、家族同士、といった温かみのある関係ではなくなってしまう。

それなら、一日の会話のうちの何割かでも、機器に代わってもらうことができれば、介護者の負担も減るというものだ。
ただし、それは、「プラシーボ」でなければならない。ユーザーが、「どうせ話している相手はコンピュータだ」と思ってしまったら、効果半減。対応している相手が、人間であると錯覚させる必要があるため、対応している相手の1割は、それ相応の教育を受けた人間(コールセンターのプロ且つ心理療法士のような)でなければならない。つまり、どのユーザーも、自分は幸運にも、1割の人間の担当者と話しているのだ、と錯覚するようなものでなければならない。だから、人と違わぬ発声のできる機器でなければならない。ミクさんなら、孫娘になれるだろう(ただ、鼻の下を伸ばしている爺を想像すると、ちょっとキモイかもしんない)。

上記の3つが開発されるなら、

・業務経験とノウハウを持つ30代40代の介護離職を防ぐことができる。

・夜間の度重なる起床による睡眠不足の人が減り、仕事のクオリティが向上する。ミスがなくなる。作業中の事故が減る。交通事故も減る。
自殺者も減る。

(私は、介護者の自殺の原因の何割かは「こころ」の問題という漠然としたものではなく「睡眠不足を原因とする脳内物質の不安定」という物理的な問題であり、問題が軽微な段階で良質の睡眠を一定期間確保できれば防ぐことができると思っている)。

・作業が中断されず、安心して仕事に注力できるようになる。

・介護者の精神疾患が減り、医療費が抑制でき、労働力も失われずに済む。

未就労の女性や外国人の採用というソフトパワーに期待することは、現実味に欠けるのではないかと思う。(たとえば、ヘルパーとして出向き、好みを聞き、冷蔵庫内にあるあり合わせの材料で、その地域なりの調理方法で食事を作ることが、外国人に出来るだろうか。懐メロの話にあいの手をうつことができるだろうか。未就労の人間を短期間でペイできるほどの即戦力に育てることができるだろうか。基本的な社員教育システムすら確立していない介護事業者もある)

上記の研究開発に達成目標付きで(単なる報告で終わらないように、プロトタイプ制作までを義務付けて)推進するほうがよいと思う。
今の日本に、そんな予算はない、だろうか?
予算がない、のではなく、予算配分と、年度内に申請した通りに予算を消化しなければならないシステムが足かせになっているということは考えられないだろうか(もっとも、それを変えることは難しいのだろうけれども)。

※上記ナンセンスコール問題については、以前に書いた記事「高齢化社会で、ITに何ができるのか?(1)安否のグレーゾーン状態での電話への対応」もご覧ください。

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