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SiriKitの立ち位置はどこなのか? 音声エージェントの仁義無き戦い

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WWDC 2016では、SiriKitが発表されました。Siriを始めとした音声エージェントとその現状、SiriKitの状況について、検討してみました。

そもそもSiriって何が便利なんだっけ

SiriはiOS端末などに搭載されている音声エージェントです。iOS端末では、ホームボタンを長押しするか、「Hey, Siri」と呼びかけることで起動することが出来ます。手で入力するのは若干手間がかかるけれど、声で言えば一瞬で済むようなことは、Siri経由で実行すると非常に簡単です。

例えば、カップ麺にお湯を入れた瞬間、「Hey, Siri. タイマーで3分!」と言えばSiriが起動して自動的にタイマーを開始してくれます。これが手入力になると、iPhoneを取りに行ってロック解除、時計アプリを探して起動、タイマーボタンを押して、3分に設定して開始ボタンをタップ、となります。手間が段違いに多くなるのはお分かり頂けると思います。

Apple Watchがあれば、iPhoneがちょっと遠くにあっても、大声を出す必要はありません。手元のWatchからSiriに同じことをお願いすればいいのです。とっても便利!

SiriKitって何?

Siriは便利なのですが、残念な点がいくつかあります。たとえば、メールを出すことは出来ても、LINEでメッセージを送ることは出来ないのです。何が違うかというと、メールはApple純正アプリで、Siriが使える機能として最初から組み込まれているのです。それに対して、LINEのようなサードパーティ製のアプリは、Siriからすると知らないアプリなので、使えない、使い方を知らないのです。

Siriから、あるサードパーティ製のアプリを呼び出せるようにしたいなあと思った時、問題はSiriがそのアプリの使い方を知らないことですから、使い方を教えてあげればいいのです。例えば、自作のメッセージングアプリを作ったとして、「このアプリはメッセージのやり取りが出来るからね」とSiriに教えてあげれば、Siriはそのアプリを呼び出すことが出来るようになるのです! ここでSiriKitの登場です。

SiriKitとは、Siriに「このアプリはこういう機能があるから、呼び出してね」とまさに教えてあげるものなのです。しかし、まだ、対応している機能は多くはありません。

現在SiriKitが対応している機能は下記のもののみです。この対応範囲の狭さが開発者に議論を呼んでいます。

  • 音声/ビデオ通話
  • メッセージング
  • 決済
  • 写真検索
  • ワークアウト
  • 乗車予約

それぞれの機能(Intentといいます)用に、アプリ側で受け口(Intent Handlerといいます)を用意してあげると、Siriからアプリの機能を利用することが出来るようになります。

Alexa, Google Now, Cortana, そしてSiri

さて、Siriと同じように音声で操作する音声エージェントは今、戦いの時期を迎えています。主なプレイヤーは、AmazonのAlexa、GoogleのGoogle Now、MicrosoftのCortana、そしてAppleのSiriです。

その戦場はいくつかに分かれています。

まずは、スマートフォンなどのモバイルデバイスです。この領域では、iOSがSiri、AndroidがGoogle Now、WindowsPhoneがCortana、と、OSによってエージェントが分かれています。iPhoneでもGoogleアプリが出ていて、アプリを立ち上げれば「OK, Google」と話し掛けることが出来たりします。しかし、音声だけで端末ロック状態もしくはホーム画面から起動することが出来る、それぞれのOS固有のエージェントを使うのが基本になると思います。

次に、デスクトップコンピュータです。デスクトップでは、Windows10にCortanaが搭載されています。秋にリリースのmacOS SierraにはSiriが搭載されます。この領域はまだこれからです。しかし、モバイルデバイスよりも音声エージェントの選択の自由度は高いでしょう。ロック状態から直接音声で操作することはあまり考えられず、デスクの前に座った状態で、PCを使いながら声を掛けるはずです。その前提では、例えばmacOS上であっても、常駐するAlexa, Google Now, Cortanaのエージェントを立ち上げておくことが出来ます。ユーザはこれらを選ぶことが出来るようになるでしょう。

最後に、スマートホームの核として家庭の中心に置かれる独立機器。これには、Amazon Echo(音声エージェントがAlexa)やGoogle Home(音声エージェントがGoogle Now)があります。これらの機器は、純粋に音声のみでコミュニケーションすることを想定しています。

この分野では、Alexaがかなり先行していて、サードパーティ製の機能が多数組み込まれています。例えば、アメリカのドミノ・ピザでは、「Alexa, ピザを注文して!」「どのピザにします?」・・・というやり取りでピザの注文が出来ます。まだ英語でしか会話が出来ませんが、これは既にサービスインしています。小さい画面で頑張ってメニューを探して注文するよりも、紙のメニュー見ながら「これにしようかな!」という方が、自然なコミュニケーションであると感じられると思います。

上で見たように、モバイルデバイスは、OSにガッチリ組み込まれたエージェントを使用することになります。そうすると、モバイルデバイスにおいては、音声エージェント間のバトルというよりも、端末を選択する時の基準の一つとして、音声エージェントの完成度が求められる事になると思います。

その観点で見ると、SiriKitは対応範囲を絞りながら、おそらく絞る事によって対応の精度を上げているのではないかと考えられ、iPhoneが選択されることに一定の貢献をするのではないかと思います。おそらく、Siriを使って決済を行ったり、Uberの車を呼んだりするCMは作るでしょう。そう、iPhoneならね(古い)

iPhoneを販売するという目的にあっては、SiriKitは正しい選択をしたといえます。

主戦場はスマートホーム

さて、今後ガチンコの戦争となるのはスマートホームの領域です。何しろ、まだ家庭にこのような機器は普及しているとは言いがたいのです。どのプレイヤーが市場を獲得するか、まだ可能性は誰にでもあります。Amazon Echoは先行しています。実際に販売され、サービスとして稼働しています。Google Homeは、まだ販売されていませんが、販売は近いでしょう。

Apple陣営が、この領域で出遅れているのかというと、実はそうではありません。AppleにはApple TVがあり、これは実際に販売されているのです。そしてApple TVにはSiriが乗っています。今回のWWDCでも、tvOSのSiriの機能強化を言っています。

しかしながら、Apple TVは、独立した機器ではありません。出力先のTVがあって初めて役に立つのです。今回公開されたSiriKitも、画面への出力を大前提としています。その部分で、Alexaとの違いは明確です。Alexaは最終的な結果を音声で返します。SiriKitは、最終的にはSiriUIExtensionを介して結果を画面表示で返します。

Appleは、機能強化したSiriでApple TVのスマートホーム市場での地位を維持しようとしているように見えます。しかし、流れは変わっています。AmazonもGoogleも、FireTV, Chromecast(これは若干立ち位置が違いますが)というTVを表示端末とする機器を持っていますが、その上で独立した機器としてAmazon EchoやGoogle Homeを投入しているのです。それは、音声でコミュニケーションが完結する必要性があると判断しているからです。

今のAppleは、SiriKitの構成を見る限り、音声でコミュニケーションを完結することをイメージに持っていません。しかし、いつでも使えるスマートホームの核には、やはり音声で完結する独立した機器が必要なのです。なぜなら必ずしもTVは常についている訳ではなく、また、TVをつけている間、音声エージェントの出力でTV画面を妨害することはユーザに好まれるとは思われないからです。

スマートホームの市場において、Appleは先行していたにもかかわらず、音声エージェントへの方向転換で大きく出遅れてしまったのです。

スマートホーム市場を獲得するという目的にあっては、SiriKitの戦略は大きく誤ったといえます。

Appleはここでの出遅れを認識しているはずです。おそらく将来的にはApple TVでTV出力をせずともSiriエージェントとして完結できる機能を出すでしょう。問題は、長らくビジュアルイメージで勝ってきたAppleのイメージ戦略が使えないことです。何しろ音声だけなのです。

その状況で、この出遅れを回収できるのか、追いつけるのか。困難な船出となります。

スマートホームが浸透すれば、家の機能との連動はスマートフォンの必須機能となるはずですので、スマートホーム領域で失敗すれば、iPhoneにも影響が出かねません。出遅れを早く回収するためにも、AppleはSiriKitの立ち位置をもう一度考える必要があるように思われます。

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