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個人が印税35%の電子書籍を出版できる時代 - Amazon Kindleの衝撃

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Amazonのクリスマス商戦において,電子書籍が通常書籍の売上を上回ったというニュースが出版関係者を驚かせた。Kindle自体の販売台数も100万台を突破し,またその上で閲覧できる電子書籍もすでに40万冊になろうとしている。

ここで驚くべきは,Amazonでの電子書籍登録がオンラインで誰にでも可能だということだ。
(現在は日本語コンテンツは不可だが,近い将来開放されるだろう)

Amazon1

これが電子書籍の登録画面,Amazon Digital Text Platformだ。
Amazon.comのユーザーIDを持っていれば誰でもアクセスできる。

そして次のような画面にしたがって,内容を登録していくだけで自動的に電子書籍登録ができるのだ。

Amazon2

登録内容は,(1)書籍の基本情報,(2)書籍の販売地域と販売条件,(3)書籍データのアップロード(データは自動変換される),(4)書籍の価格 の4つだけ。しかもその手続きはすべてオンラインで完結し,登録には5分とかからないのだ。

詳細な登録方法については こちらの記事 をご参照のこと。

書籍の基本情報としてISBN(日本図書コード)が求められるが,こちらも個人で申請可能なものだ。申請に必要な時間は約3週間,費用17850円で10冊分のコードを入手できる。この図書コード取得については,オルタナブロガーの永井氏がブログに書かれているのでご紹介したい。

自費出版の道#09: ISBNコードの取得 (2008/8/15)

一般的にまともに自費出版をしようとすると約200万円ほど必要といわれている。
それが電子書籍リーダーの普及によって,それが一冊あたり2000円程度,ごく簡単な手続きで本が出せる時代になったのだ。

しかも価格は著者が決定できる。

米国Amazon.com Kindle Books ベストセラー (2009/12/30)

米国アマゾンの販売状況を覗いてみると,通常10ドル強の書籍を2ドルという激安価格で売っているものと,通常書籍と同程度の金額で売っているものの2つのタイプがあることがわかる。例えばKindle Booksの売上1位「Midnight in Madrid」(前者タイプで2ドル),2位「The Lost Symbol」(後者タイプで11.6ドル)をピックアップしてみよう。

Doodle

Doodle2

一般的に印税は書籍価格の7-10%程度だが,Kindle Booksでは35%が出版社(個人で出版する場合は著者)の収入となる。

ちなみに書籍出版の一般的な収益構造は次のようになっている。
 ・ 著者への印税が7-10%
 ・ 製本原価が35-40%
 ・ 出版会社取り分が20-28%
 ・ 取次および書店マージン率が25-35%

Kindle Booksでは製本原価や出版会社の販売管理費が不要となる。例えば書籍定価が1000円,初版3000部が完売,印税が10%,製本原価が40%,流通マージンが30%だった場合の売上分配をシミュレーションしてみよう。

■リアル書籍の場合の売上300万円分配
  ・小売・流通会社 90万円 (30%) 
  ・印刷・製本会社 120万円 (40%)
  ・出版会社 60万円 (20%)
  ・著者 30万円 (10%)

■電子書籍の場合の売上300万円分配 (リアル書籍と同額の1000円で販売した場合)
  ・Amazon 195万円 (65%)
  ・出版会社 75万円 (25%)
  ・著者 30万円 (10%)

■電子書籍で著者が直接販売する場合の売上300万円分配 (同上)
  ・Amazon  195万円 (65%)
  ・著者 105万円 (35%)

この図式を見てわかるとおり電子書籍は出版会社にとって諸刃の剣だ。著名なベストセラー作家や漫画家,アルファブロガーなどが出版社の力を借りずに独自ルートで電子書籍を販売する日は近いだろう。また電子書籍はiPhoneアプリと異なりプログラミング不要だ。つまり誰でもいつでも出版できる時代がついに到来したのだ。

問題はこの電子書籍リーダー(およびタブレット)がどのくらい普及するかだが,モルガンスタンレー調査によると,累積台数で2010年には700万台,2013年に4900万台になると予想している。(台数単位は百万台)

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さらに,AmazonがKindleをPCアプリやiPhoneアプリとして無料提供しはじめているように,2013年には656百万台と予想されるスマートフォンをはじめ,PC,ネットブック,テレビなどでも閲覧できるようになる。少なくとも先進国においてはキャズムを軽々と超えていくのは間違いないだろう。

Amazonはこの勢いに乗じ,日本を含む全世界100ヶ国でKindleを発売開始した。またGoogleはソニー(電子書籍リーダー)と組んで電子書籍普及に乗り出すことを発表し,さらにAppleのジョブスもいよいよ電子書籍に本腰を入れ始めている。

iPhoneが出版業界を救う。電子書籍がGameに続くキラーアプリに (2009/11/04)

デジタル・コンテンツ配信は,コンテンツ著作者と販売ポータルに大いなるチャンスをもたらす反面,その中間に位置する事業者にとっては大変な脅威となる。音楽業界におけるレコード会社と同様,出版業や書籍流通業は新たな付加価値やビジネスモデルを構築する必要性に迫られるはずだ。

 
【追記】
2010年1月20日,Amazonが(条件つきで)印税を70%に引き上げるとのニュースを発表した。詳しくはこちらへ。
【速報】 米国Amazon,Kindle電子書籍の印税を35%から70%に大幅値上げ発表

 

【関連記事】
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