ユーザー参加型ウェブ・ソーシャルウェブを考察するブログ
日本のソフトウェア産業は「製造業」よりも「サービス業」に分類されます。なぜなら、革新的なプロダクトを研究開発し、一気呵成に市場に展開するよりも、顧客ニーズに沿ったオーダーメイドのシステムを逐次的に開発することが主流となっているからです。
創業期は受託開発で糊口をしのぎ、徐々に自社製品の研究開発に資金を回して、いつかは自社ブランドで世界を席巻する、というストーリーは巷にあふれますが、これは結局のところローリスクでスタートしながらハイリターンを得ようとする野望であり、実現へのハードルは低くないのです。その理由は、中毒性のある受託開発と、ソフトウェア産業の悲惨この上ない「重層下請け構造」にあります。
1.受託開発では「技術」が蓄積しない
住信インベストメントの辻俊彦氏はご自身のブログで次のように述べておられます。
「クオリティの高い受託開発力は、オリジナリティ溢れる尖った自社開発力を生み出す素地になると思っている。投資検討の評価においても、象牙の塔に籠る社員よりは、世間とのコミュニケーションに関心を払い、お客さまの心を掴める社員が多いことを開発型企業の評価において重要視している。」
辻氏の主張の主旨は『受託開発を「うまくやれば」自社開発にも弾みがつく』というものですが、そもそもそれができる企業は自社開発を最初から行うはずです。重層下請け構造の中では、顧客の声は歪曲され、決めたはずの仕様は一方的に変更され、予定通りの開発すらままなりません。結果として投下資本の無視できない割合が書類コストと調整コストに消えてしまうため、技術資産の蓄積どころではありません。また、受託開発を進めるためには営業力が必要となり、技術をバックボーンとしたイノベーションは益々難しくなります。
凡庸なものを作り続けていれば非凡なものを作る力が生まれる、という辻氏の主張には首を傾けざるを得ません。業務の輪郭が不明確で、常に上流工程に振り回される受託開発は、手離れが良くなく、技術開発以外の業務に割くリソースが多いです。受託開発からイノベーションは生まれないと私は考えます。
2.受託開発では「人材」が蓄積しない
受託開発が主流の日本では、産業レベルでは大手システムインテグレータが上流工程を、中小下請け企業が下流工程を担当しており、一企業レベルでもシステムエンジニアが設計を、プログラマが実際の構築を行っています。どちらの上下構造においても分業は明確ですが、皮肉なことに技術力と権力とが反比例の関係にあります。
このような状況では、不条理かつ強いストレスが下請け企業あるいはプログラマにかかり、人材が常に流出してゆきます。ソフトウェア産業におけるうつ病の罹患率は高く(関連記事)、またうつ病の認知度の低さや、意外と根強い「ド根性」型ビジネス手法が拍車をかけます(参考:『ITエンジニアの「心の病」―技術者がとりつかれやすい30の疾患』)。
この構造を脱する手段としては、下請け企業自身が上流SIerに変身するか、プログラマがシステムエンジニアにキャリアチェンジするなどの選択肢がありますが、どちらもさらなる階層を産み出すだけで、イノベーションには全く寄与しません。むしろ階層間の技術力のギャップが広がるだけで、悪影響さえあります。
また、受託開発を切り回す職種である「プロジェクトマネージャー」の育成が重視される一方で、自社製品・自社サービスの開発に必要な「プロダクトマネージャー」という職種が日本において日の目を見ないことも、人材育成制度やキャリア感覚が「サービス業」仕様となっていることの現れです。つまり、どれだけ不本意で劣悪な環境だったとしても、労働力市場においては、受託開発型スキルを習得することが、価値向上につながるのです。
3.受託開発では「資金」が蓄積しない
第三に、何よりもソフトウェアベンチャーには資金がありません。受託開発で利益を上げたとしても、長期にわたってその利益を研究開発に地道に振り向けることは不可能です。毎月の給与から天引きで預金を積み立てなければお金がたまらないのと一緒です。グロービスキャピタルパートナーズの小林雅氏はご自身のブログにおいて、
「短期的なお金稼ぎのために受託開発をするといかはやってはいけない。イノベーションは生まれません。Googleのようにとにかく好きなサービスを作りだすようにしないといけないのです。」
と説いていらっしゃいますが、基本的にはこのマインドこそがソフトウェアベンチャーに必要です。知的労働によって「職人」となるべきプログラマーを、肉体労働に徹する「工員」にしてしまう現実が、自転車操業のソフトウェア企業を多数生んでいます。産業全体にもっとリスクマネーが必要ですし、資金を募る企業の側にも、より高度で確かな技術や、コンピュータサイエンスのアカデミズムが必要です。
以上のように、中毒性のある受託開発は技術・人材・資金のいずれの蓄積にも寄与しないと説きましたが、ソフトウェア産業に革新をもたらすために解決すべき課題は多いです。ビジネスモデルだけでなく、教育、法制度、税、金融など、それこそ腐るほどあります。隗より始めよ、と改めて自戒しましたd。
Special
- PR -| cat_kei | 2007/06/09 19:01 |
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まったく同感。感銘を受けます。 | |
| Masaharu | 2007/06/09 19:09 |
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>cat_keiさん 規模が大きくなると後戻りも出来なくなりますね。社会的な影響力の大きな会社は、プロジェクトにおいて品質よりも対外的な信用を重視するからかもしれません。 業界特化したノウハウを持つ、というのは、現在のような上流/下流・SE/PGといった垂直分業を水平分業に変える一案だと思います。 | |
| inoccu | 2007/06/09 23:06 |
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趣旨には同感しますが、少なくないSIerが受託開発どころか、技術者派遣に留まっているのが現実ではないでしょうか。レベルはさらに低いと言わざるを得ません。 | |
| Masaharu | 2007/06/10 01:17 |
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>inoccuさん 断定的な文体や二分法の多用、言及不足の部分などがあり、読者の皆様には分かりにくい記事になってしまったようです。 | |
| とおりすがり | 2007/06/10 05:15 |
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梅田望夫さんが「ウェブ人間論」でおっしゃられている事の焼き増し。切り口次第で蛇足になります。 | |
| SQ | 2007/06/10 06:24 |
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「技術力と権力とが反比例の関係」のように、権限が最適に分配されていないことが一番の問題だと思います。日本のソフト競争力に直接的に影響するのはこれでしょうか。 | |
| ookawara.com | 2007/06/10 10:49 |
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この問題は、もはや構造の崩壊を待つしかないのでは?と悲観(変に固執していないことで逆に楽観か?)しています。腕に覚えがあったら、歪な日本市場をパッシングして海外へ打って出るのもアリかと。 | |
| Masaharu | 2007/06/10 16:10 |
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>とおりすがりさん >SQさん >ookawara.comさん | |
| kk | 2007/06/10 20:34 |
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工員でなく職人と書かれてますが、どちらかというと職人でなく芸術家と書かれたほうがしっくりきます。 | |
| Masaharu | 2007/06/10 21:19 |
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>kkさん | |
| 安江健 | 2007/06/12 02:37 |
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学生の時にシステム開発会社を経営していまして、まさに大迫さんのおっしゃる通りの状況でした。この重層下請け構造のお蔭で起業出来たと言うのも事実ですが、長点はただ他より単価安いだけの学生プログラマー集団、最終的に摩耗、疲弊しきってしまい、自社開発なんて遠い夢の話しでした。 この問題の解決は非常に難しいかもしれませんが、1プログラマーとして日本の技術者が楽しく仕事出来るような環境作りに1役変えたらなと思っています。 | |
| Masaharu | 2007/06/12 08:11 |
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>安江健さん | |
| あひる | 2007/06/17 06:46 |
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まぁ日本企業の特色を良くあらわしてるよね。 | |
| Masaharu | 2007/06/17 12:28 |
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>あひるさん | |
| soulram | 2007/06/27 23:50 |
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拝見させていただきました。非常にわかりやすく、この業界にいる一人として、うなずくばかりでした。 | |
| Masaharu | 2007/06/28 00:14 |
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>soulramさん | |
| 課長007 | 2007/07/31 22:44 |
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SIerの類似モデルとして建設業も知る小生としては、どちらも第三次産業としては【遅れた領域】と捉えています。 建築物に「プレハブ」があるように、ソフトウェアにも「パッケージ」がありますが、費用対効果抜きにオーダーメイドを選び、あれもこれもと“使われない装飾”を望む施主=クライアントがいる限り、受託開発というムダな商品もなくなりませんね。 結果として、経営能力の低いソフトウェアハウスや零細建設業者など“お山の大将”が「生まれては消え」を繰り返すこととなり、小売業や飲食業のようなチェーン化や標準化も進められないまま、日本の労働生産性を下げる要因の一つになってしまっているのではないでしょうか? | |
| Z | 2007/08/12 23:07 |
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要するに、中小ソフト会社に就職したら不幸だと。 | |
| A | 2007/08/19 00:48 |
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To Z: ソフトウェアベンチャーとして躍進するには、目先の利益を追う受託開発に頼っていてはいけないと言いたいのでは・・・? 売れる製品を開発するには、それだけの才能や努力が必要で誰もが成し得るわけではない。 誰もがヒットする音楽を創造しえないのと同じ。 受託開発という仕事も需要は確かにあるから、受託専門の中小ソフト会社の存在価値が決して否定されるのではない。 売れる製品を創る才能や努力が無いのに、それを目指しても玉砕あるのみ。 これは自分が何を目指したいかという類の問題だと思う。 「隗より始めよ、と改めて自戒した。」にすべてが集約されるように思える。
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| Masaharu | 2007/08/23 23:18 |
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>課長007さん | |

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