インターネットでの調べ物にWikipediaは欠かせないが、殊に英語版Wikipediaが持つ情報量にはいつも圧倒されます。

 野口悠紀雄氏は多くの著書の中で、グローバリゼーションを「20世紀型」と「21世紀型」とに分け、知的労働が自由に流通する「21世紀型グローバリゼーション」の時代にあって、日本が「絶望的なまでに」無策であると警鐘を鳴らしています。

 ですが、ソフトウェア産業における北米とインドの分業体制や、それを支える「超」国籍企業(例えばテレビで再三取り上げられたInfosys社など)の24時間営業体制など、ビジネス面での知的労働を取り上げるまでもなく、すでに様々な無料Webサービスの中に、実は知的労働の自由な流通は完成しつつあります。

 中国の中開村やインドのバンガロールなどが台頭してはいるものの、依然として「先端IT産業のメッカ=シリコンバレー」というイメージは支配的だと思います。ですが多くのユーザー参加型(Web2.0)サービスにおいて、このイメージは必ずしも妥当ではなくなってきています。

 Google Appsにも劣らないオンライン・オフィス・スイートを提供するZoho(インド)を筆頭に、音楽分野のパイオニアであるlast.fm(イギリス)、動画のMetacafe(イスラエル)、スタートページのNetvibes(フランス)、SNSのHabbo Hotel(フィンランド)、ソーシャルブックマークのSpurl(アイスランド)など、世界中で着実に革新的なWebサービスが産み出されています。多言語対応しているものもありますが、基本的にこれらは全て英語で提供されるサービスです。

 一方でこうしたサービスのユーザーはまた世界中におり、アメリカ人ユーザーが50%を超えるようなサービスは実は少なくなってきています。MetacafeやNetvibesやLast.fmなど日本でも名が知られてきましたが、アメリカ人ユーザーはせいぜい20%です。そして意外なことに、ブラジル、イタリア、スペイン、ポーランドなど、必ずしも英語を得意としない国からも大量のユーザーが押し寄せているのです。

 つまり、サービス提供者もユーザーも、英語を公用語として一大知識流通圏を形成しており、そのネットワーク外部性(いわゆる「規模の経済」による効果)はひたすら圧倒的なものとなっています。例えば、Wikipediaの日本語版と英語版で同じ言葉を調べたときなど、私はこの事実を痛感します。英語版は特に歴史や学説、参考文献などが手厚くカバーされているという印象です。

 ・Web2.0(日本語版)Web2.0(英語版)
 ・グローバリゼーション(日本語版)Globalization(英語版)

 このように英語のWebサービスが普遍化の一途をたどる一方で、日本語のWebサービスは日本でのみ生産され、当然日本人ユーザーが90%を超えているわけですが、果たしてこの事実をどう受け取るべきでしょうか?

 日本語サービスはネットワーク外部性に限界があり、ビジネスとしての規模も小さくならざるを得ません。それはそれで国際社会から隔離されはするものの、日本語市場として単独で成立するから良い、という意見があるかもしれません。ですが、インターネットビジネスの国際競争力低下の影響は、残念ながら一産業に留まらず、社会全体に波及してしまうのが21世紀です。Webサービスの隔離は、ソフトウェア産業だけでなく知識基盤社会における日本の国力をまるごと失墜させるでしょう。

 別の意見として、自動翻訳技術がこの言語の壁を打破するという意見もあるでしょう。ですが、自動翻訳技術はリアルタイムでかつカジュアルなコミュニケーションには対応できません。略語や造語の多い日本語では尚更難しいです。静的HTMLページの自動翻訳ならある程度可能でしょうが、例えば日本の企業がインドにコールセンターを置いてやりとりしようとしても無理があります。知的労働の流通にはオン・タイムのコミュニケーションが極めて重要ですが、自動翻訳技術によってここに活路を見出す日は遠いです。

 4月以降、「セカンドライフの日本語版が待たれる」というフレーズがメディアから聞こえてきますが、その意図は何なのでしょうか。セカンドライフのプレイに必要な専用ソフトには、貧相だが既に日本語メニューも用意してあります。ヘルプやデフォルトのアイテムなどはほとんど英語ですが、これらが日本語になったとして、果たして何が起こるのでしょうか?おそらく、依然としてユーザー間コミュニケーションは英語が主体であり、ユーザーが生成するアイテムや広告も英語が主体となるでしょう。現在、日本語ユーザーは「Shinjuku」や「Akiba」といった地域を中心に活動していますが、その「鎖国」度がより高まると予想されます。そして、その現象が暗示するものは現実社会における日本の未来かもしれません。

 3Dの仮想世界が精度を増せば増すほど、実はそこで展開されるのは「情報」の自由な流通だけでなく、「ヒト」の自由な流通でもあります。人間そっくりのポリゴンが歩き、インスタント・メッセンジャーで会話をする様子は、まさしく「ヒト」の自由な流通が達成された結果であり、移民社会のシミュレーションに他ならないのではないでしょうか。セカンドライフは、「ヒト」レベルで国際化が進んだ未来を垣間見れる貴重な場かもしれません。

 インド・ヨーロッパ語族ではない日本人にとって、英語の習得に必要なコストは比較的高いです。『フラット化する世界』ではないですが、国境がますます意味を失うこれからの社会において、日本人は英語とどのように付き合っていくべきでしょうか。Web2.0という一連の現象は、私にこうした問題提起をしますが、私は英語力を磨くしか選択肢はないと考えます。

Masaharu

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コメント
2007/05/16 18:49

日本から英語で表現できないものを失くしていけば壁は低くなるのでは?

Masaharu 2007/05/16 23:36

コメントありがとうございます。そうですね。それぞれの言語には特有の考え方・文化があると思います。日本は高等教育まで全て日本語で進めるので、英語を使う必要性がないということが、本文で挙げたブラジル・イタリア・スペイン・ポーランドなどとの違いではないかとも考えます。

z 2007/08/23 01:34

英語が習得できたって、日本人に英語圏の文化があうかどうかは別でしょう。日本独自のユーザー参加型Webサービスがあっても、問題ないのではないでしょうか?グーグルでさえ広告収入以外のビジネスモデルが築けてないこの世界で、日本の未来がどうのこうのの話は、語れないと思いますが、いかがでしょうか。

Masaharu 2007/08/23 23:36

>zさん
コメントありがとうございます。
英語圏の文化と日本の文化は異なりますね。日本独自のユーザー参加型Webサービスがあっても、問題ありません。むしろ歓迎すべきだと思います。
ただ「ウェブの長所をどのように社会に活かすか」という点について、英語圏では日本語圏よりも強い執着や希望を感じます。英語圏で運営されるサービスに驚かされたり啓発されたりすることも多く、こうした資産をもっと活用できれば良いと思います。


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株式会社Parmy執行役員プロダクトマネジメント&ユーザーエクスペリエンス担当。このブログでは、ユーザーが参加する新しいウェブの世界についての考察を綴ります。

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