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人材ビジネス経験は平均15年以上。古今東西、老若男女の転職を見てきた現役のヘッドハンター達が、今起こっている転職現場の「ホントですか?」を分かりやすく解説。転職成功やキャリアアップのヒントも、5人のヘッドハンターが交代で紹介します。

ヘッドハンターは2度訪れる

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優秀であればあるほど、その人材を自社に招き入れたいと思う企業は多くなる。それが2社の場合もあれば、もっと多いことだってあるわけだ。その為、我々ヘッドハンターも同一人物と再びコンタクトを取る場合がある。もちろん1度目のヘッドハンティングで移籍に至らなかった方が対象なのだが、本人がその頃の記憶が薄れた頃に我々はまた訪れる。

ある上場IT系企業のグループ会社でアドテクノロジーというWEB広告配信システムのエンジニアをしていた30代前半のAさんとは、1度目のヘッドハンティングから半年後に再会した。2度目となる今回の依頼元は動画広告で急成長を遂げる新興企業である。WEB広告配信技術を高めたいというニーズがあり、その先駆者であるAさんに白羽の矢が立った。

彼は、再会した際に今回の依頼主の企業名を伝えると、「今、実は最も気になっている会社だった!」と明かしてくれた。

ここで少し、彼らIT系エンジニアの採用事情を話しておきたい。昨今、全般的にIT系エンジニアは各社争奪戦を繰り広げていて、特にWEB広告分野では更にその傾向が著しい。アドテクノロジーという広告配信の技術が急速に発展し拡大している一方、その技術者はまだ世に少なく、その為、最新技術で武装したい各社は希少な経験者をめぐって人材獲得に果敢に挑んでいる真っ只中である。

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例えば、グーグルやアマゾンなどの外資系大手はダイレクトリクルーティングといって自社にヘッドハンターを抱えて積極採用を繰り広げているが、日系のIT系企業はそこまでは出来ない。ヘッドハンティングをしたい目ぼしい人材がいる場合には我々のようなヘッドハンティング会社を利用することが多い。当社にもIT系エンジニアニーズはここ1年で5倍ほども増えている。

さて、Aさんの話に戻るが、彼と初めて会ったのは1年前になる。その時にある上場企業の依頼で1度目のヘッドハンティングをしたのだが、最終的に依頼元の社長との相性が合わず本人から辞退した経緯がある。彼はアドテクノロジーを活用したエンジニアとして確かな実力があるだけでなく、爽やかで社交的な印象を持つ好青年であった。加えて、「良いシステムを作って世の中に送り出したい」というプロダクトアウトの意識が非常に強く、1度目のヘッドハンティング依頼主であった企業とはここの意識の相違で破談となっている。同社は営業会社の色が強く、システムの品質以上に新商品を短期間でリリースして"営業活動の種"にすることが最重要視されていたからだ。実はこの頃、Aさんが在籍していた会社もどちらかというとプロダクトアウト型の企業から営業会社の色合いが強まっていて、自分の方向性との相違に悩みだしていたようなので尚更、移籍には前向きになれなかったそうだ。

以来、私もAさんのことは常に気を留めており、アドテクノロジーの優秀な技術者を欲しがり、プロダクトアウトの方針が強い企業があれば是非、また彼に声をかけたいと思っていたのだった。

半年後の2度目のヘッドハンティングをした頃、彼はいろんな場で同業他社の情報収集をしていた。転職意欲が高い訳ではないが、自分の働き方にマッチする企業は世の中にあるのか?を探していた。例えばハッカソンというエンジニアの勉強会や交流会などに頻繁に顔を出していたようである。このような場を通して、実は2度目のヘッドハンティング依頼主の社長や同社の社員とも既に自らも交流を持っていた。いずれも魅力的な人物なのに加えて、同社の話を聞けば聞くほど、自身の考えや経験を最も活かせる企業なのではないか?と思っていたそうだ。ただ、互いを知る仲になったからこそ、自らその会社を志望することに遠慮を感じていたという。

そんな中、私が代理人としての2度目のヘッドハンティング依頼主の話をしたものだから、「今、実は最も気になっている会社だった!」となったわけである。依頼主の社長とも当然、話も合ってトントン拍子で話が進み、彼はその3か月後に移籍した。特に印象深かったのは、「現職との契約で機密保持契約の縛りが厳しく技術の全てを転職後に提供できるわけでない...。」ということを伝えた上で、「多少の時間を要してもよいので自社独自の全く新しいシステムを開発してもらいたい」という社長の承諾があったことである。

彼は現在、まだ世の中にないであろう広告配信システムを開発している真っ只中で、「良いシステムを作って世の中に送り出したい」という彼のありったけの想いをぶつけている。

2度あることは3度ある。我々が2度目のヘッドハンティングをするような方は、企業ニーズが高く、恐らく3度目もkosugi.jpgあるはずだ。その企業がその時に最も気になっていた会社だった、という運命的な出会いのこともある。その為に、今日もどこかで我々はヘッドハンティングを行っている。(小杉隆英)

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