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小学校の授業で学ぶ〜表現を工夫する

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ある小学校の5年生の授業を見学にいきました。
先生は、数年前まで日本を代表する歌劇団で、オペラ歌手として第一線で活躍していた男性の先生。

「今日は題材として、中学1年の音楽の教材である魔王を、少し先取りして小学5年生の音楽授業で取り上げてみます」

「魔王」を3回、語り・歌うことでひとつのメッセージを伝えた授業でした。

「物語」を語る

最初に魔王が作曲された背景を紹介していきます。

失恋をして何日も家に閉じこもっていたシューベルトのところへ友人が訪れ、当時発売されたばかりのゲーテの詩集を渡して元気づけようとします。しかし、シューベルトはその本を払いのけ、友人は怒って帰ってしまう。シューベルトはさらに落ち込んで泣き伏せます。

もともとゲーテが好きだったシューベルトは、泣きつかれて、ふと落ちていた詩集を拾い上げます。たまたま開いていたページの詩が「魔王」。その作品にのめりこみ、何度も読むうちに曲が頭に思い浮かび、傑作が生まれます。

先生は45分という限られた時間の中で、ゆっくりと耳に心地よい低音の声で解説します。教室を前後左右に歩き回りながら、シューベルトの様子をドラマチックに紹介し、興味深いエピソードを挿入、本を実際に放り投げるなどの動きもあるので、授業を聞いている子どもと、子どもの周りで見学している大人たちは話の世界にひきこまれていきます。

第1回目の魔王は朗読。音楽をかけずに先生が日本語で魔王を読みます。
登場人物のナレーター、子ども、父親、魔王の4人がかわるがわる話します。

魔王は、馬車で宿にむかう父と息子の話し。息子に魔王が甘い言葉で誘います。怖がる息子をなだめようとする父、しかし宿についたときには、子どもは魔王のもとへ連れ去られてしまいます。

読み終えた後、この魔王は当時ヨーロッパで流行し人々から恐れられていた伝染病だということを補足します。

課題と改善点を洗い出す

第2回目の魔王は、めちゃくちゃな表現で伴奏にあわせて歌います。

先生が子どもたちに与えた課題は以下のとおり。
「これから先生は、各登場人物とは全く異なる性格・雰囲気で魔王を歌うので、それぞれの登場人物ごとに問題点と良くする方法を考え、話し合いましょう」

まず5分間で一人一人が問題と改善点を書き出し、次の5分間でグループディスカッションを行い、グループの代表の生徒が発表します。
「子どもがずっと大きな声で歌っていたけれど、怖がってだんだん弱っていく感じに歌った方がいいと思います」
「ナレーターがずっとにやにやして笑っていたのはよくない。まじめに最後まではっきりと伝えたほうがいいです」
など。

伝えるために

第3回目、発表の内容を反映させて先生は魔王を表現豊かに歌い上げます。

陰鬱な雰囲気をかもしだすナレーター、一見優しそうに誘いながら最後は本性を表す魔王、安心させようと声をかける父、けれども声が次第に細くなっていく子ども。最初に歌ったちぐはぐな人物像、表現方法ではイメージしきれなかった場面は、歌い直すと情景がありありと目に浮かびます。

先生は「キャラクターを正しくはっきりさせることで、物語が伝わりやすくなりましたね」と子どもたちに語りかけます。そして、「けんかをして仲直りをする時や誰かを説得する時など、人に何かを伝えるときには、相手にわかってもらうために、場面にあわせて表現を工夫することが大切です」とまとめました。

驚きました。
「表現を工夫する」というメッセージとその伝え方に。

最近ビジネスパーソンのためのプレゼンテーションやコミュニケーションの講座が増えています。今、私がある官公庁向けに企画している研修も、難しい内容をわかりやすく伝える技術を高めるこを目的としています。

シューベルトにまつわる様々な話しで「音楽」への関心を高め、課題解決能力を培うワークショップを行い、実際に先生自身が歌を変化させながら「表現を工夫する」ことを伝える。音楽の分野にとどめず、日常に活用できるシーンにまで落とし込む。

人を魅了する技を極めたプロフェッショナルが、小学校という教育現場に来て行う極めて実践的な授業でした。

この先生は子どもから「どうして音楽を勉強しなきゃいけないの?」とは決して言われないだろうな、と思いながら学校を後にしました。

(オプンラボ 小林利恵子)


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