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【読んでみた】片桐はいりさんの『もぎりよ今夜も有難う』

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この本、自分では絶対に買わない種類の本であります。

それが、本の交歓会であるブクブク交換だと、こういう本がパッと自分の目の前に出てくる。今回は、台湾カフェストーリーという映画の上映会に併設された会場で行われた交換会だったこともあり、ビジネス書は少なめ、こういった映画に関する本もいくつか出品されていました。

わたくし、そんなに映画を観る人間ではないので、当然映画関連の本も読まない。でもなぜかこの本は「もらってよ!」とはいりさんに言われているようで、気がついた時には手にとっていました。そしてそのままゲットです。

それまで、はいりさんのイメージというのは、「顔がおもしろすぎて、きっと街角でスカウトされたに違いない怪女優」、というものでしかなかった(=完全に間違ってる)ので、いろんな勝手な思い込みを払拭する意味でも、この本はとっても楽しく読ませていただきました。

まず、彼女はもともと銀座の映画館でもぎりのバイトをしながら劇団員をしていた人で、根っからの映画オタク。しかもどうやらお嬢様育ちらしい。まぁ、お嬢様は置いといて、出るべくして世に出た人だったのですね。知らずに大変失礼しました。

ですから、学生の頃から何度も観ていた『転校生』の主役であった小林聡美さんと『かもめ食堂』で共演、舞台挨拶で横に立っているときの気持ちなどは、もうはかりしれませんよね。そんなことも書いてあります。

非常にウィットに富んだエッセイで、出る側=女優ではなく、どちらかというと観る側の視点で書かれているのがおもしろい。いや、観る側ではあるのですが、厳密に言うとはいりさんの感覚では、チケットのもぎりというのも、あくまで映画を作る側の人間のひとり!らしく、もぎりに関してもプロ意識をもって(でも適度にサボりながら)臨んでいたようです。このあたりの、われわれに近い微妙な観点が、何ともいえない魅力のひとつになっていると思います。

また、文章自体もおもしろい。
映画も本も大好きな方のようで、言葉の表現が豊かです。
普段、こういった本ではほとんど付箋をしないのですが、こんなにつけてしまいましたw。

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なんだか、映画好きの人ってこういう感覚なのねってキュンとしてしまうフレーズとか、まるで映画のナレーションのような言い回しが、読んでて楽しいのです。

・映画を観ている間だけ、なにかから救われる。

・幼い頃から、どんな映画を観てもたいてい口もきけないくらい感動してしまう。観終わるとひと言もしゃべれなくなってしまうので、歳とともに誰かと連れ立って行くことが少なくなっていった。

・映画もお芝居も闇の特産物なのだから、それを育む暗闇は有害無害あらゆる物を含んで肥えていたほうがよい。かもめ座の場内は、かつてそこにうずまいていた煙のような酸いや甘いが焚きこまれ、燻製のようにしみこんで、今も生々しい色香を漂わせていた。

・今もって数字にまつわるすべてが苦手だ。世渡りでは妙に計算高いところがあるくせに、現実に計算はもれなくどんぶり勘定である。

・知らないはずの景色を思い出して、鼻の辺りがつんとした。

いつの間にか引き込まれて、自分も映画ファンになったような気になっていました。(^^ゞ

映画人は、当然のごとくみなさん映画が大好きで、各々映画について語らせたら止まらないとは思いますが、映画の楽しみ方、映画の世界の奥深さを文章でおもしろおかしく書ける人はなかなかいません。

やはり持っている人は違いますね。
僭越ながら、はいりさん、文才あると思いました。

もぎりよ今夜も有難う

        片桐はいり キネマ旬報社 2010-07-30
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               by ヨメレバ

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