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オープンソース系パッケージソフトウェアベンダーの社長のブログ

 金曜日にブロガーズ・ミーティング@マイクロソフト2に参加した。「Web 2.0時代におけるマイクロソフトからの提言」というテーマで、マイクロソフトの成本氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部戦略企画本部 戦略担当部長)の講演のNetMeeting配信会場に同席し、ブロードキャスト中に議論したり、前後で雑談したりという形をとるミーティングだった。

成本氏は、「Web2.0は、Webの進化の一つの過程。今までの常識のいくつかが逆になると考えるとわかりやすい」と述べ、

a) provider    vs    consumer
b) application    vs    service
c) technology    vs    experience
d) business    vs culture

という4つの対立軸をあげて、Web2.0を斬って行き、最終的には「Software plus Service」(+Live時代)という結論を導くのだが、のっけからa)で「Web2.0とは旭山動物園だ」というたとえが飛び出し(註:実際にはそんなワンフレーズポリティクス的な口調ではありませんでした)、実にうまいなと思った。

4つの対立軸

 a)とc)はほとんど同じことを指していたのではないかと思う。「experience」はマイクロソフトフレーズだから、必ず言わなければいけ なかったが、technology vs experience、ではいまいち意味が分かりづらいから、provider vs consumer、すなわち作り手対使い手という言葉に置き換えたのではないか、とも邪推してしまった。

 旭山動物園には、残念ながら行ったことが無いのだが、お客様は動物園を見たいのではない、動物が見たいんだ、という視点からある意味での主客逆転 を行い、成功したと聞いている。Webに置き換えると、お客様は技術が使いたい(動物園に来たい)わけではない、何かを成し遂げたい(動物を見るという体 験experienceをしたい)のだ。技術を提供する側(動物園)の都合で考える時代は終わった。それがWeb2.0の本質だという。

 そんなこと言ったって、技術が追いつかないんだから、仕方が無いじゃない、という言い訳はもはやできない。今や使い手側の視点で考えられるだけの技術的材料は十分に整っているということなのだろう。

 その手段の議論としてのb) application vs serviceがある。使い手が求めるのことが、serviceというのは、いわゆるWeb servicesのことなのか?という質問に対しては、成本氏は「もう少し包括的な概念を指している」という主旨の答えをしていたが、具体的には Windows Live ガジェット/APIを意識していることから、Web services + Web上で可能になるサービスのことを指しているのだろう。

 さてここまではよく聞く話で、experienceというマイクロソフト用語については少しわざとらしさを感じながらも、皆がおおむね同意するところではないだろうか。ここから先が面白い。


コミュニティとSoftware plus Service〜長い尾っぽではなく大きなお腹

 ここで成本氏は「妥協案」を提示する。「コミュニティ」と「Software plus Service」だ。Web上でのServiceが成立するためには、いくつかの条件が必要(リ ンク先は成本氏のブログエントリ)だと問題提起し、「すべてがWeb上で完結するようなサービスを提供するのは現在はまだ難しい」という結論を下す(少な くとも私には下しているようにとれた)。この理想と現実の間を埋めるのが「コミュニティ」と「Software plus Service」だというのだ。

 単語だけ聞いても、意味がわからないだろう。この主張を理解するには、まずd) business vs culture についての説明が必要だ。「Web2.0はまだビジネスになっていない」といい「カルチャーの変革」であるという。割とセンセーショナルな主張だと思うの だが、「ロングテール」を例にあげ、「まだビジネスとしては成り立っていない」とはっきり否定していた。Webによって今現在ビジネスになっているのは、 2:8の法則でいうところのトップの2ではないことは明らかだが、尾っぽのロングテールがビジネスになっているという訳でもなく、その間の6ぐらいのとこ ろがビジネスになっているという。成本氏は、この部分を「恐竜の大きなお腹の部分」と呼んでいた。「ロングテール」の意義を完全否定するわけではないが、 それは「ビジネス」的な意義を持っているというよりは、「カルチャーの変革」としての意義を持っているのだというのだ。

 ロングテールが本当にビジネスになっているのかいないのかについては、根拠も示されていないし、私も十分な判断材料を持っていないので、なんとも いえないが、ここで成本氏が言いたかったのはすなわち、完全なone-to-oneサービスを行ってかつ儲かるモデルを作るほどには、まだWeb上のビジ ネス規模、あるいは技術が成熟しきっていないのだということなのではないかと思う。

 そこで「コミュニティ」「Software plus Service」と話が繋がってくる。a) provider vs consumerで、作り手の時代から使い手の時代へと時代が流れているという話があった。この究極な姿は、one-to-oneサービスである。しかし それを実現するほどには、まだ時代が追いついていない。それではどうするのか。「個人」指向にいく前の段階として「コミュニティ」指向があるのだ、という のが成本氏の解だ。完全なone-to-oneサービスを実現することはまだできないが、ある一定の同じような指向性をもった集合に対するサービスを細分 化する流れは確実に始まっているのだと。そしてこのとき、SaaS で埋めきれない、コミュニティと個人の間を埋めるのが、「Software plus Service」なのだ。

 マイクロソフトは、Windowsプラットフォームの進化と、Windows Liveによって、SoftwareとServiceの両面をサポートするという。


現実主義の陰で見え隠れした保守主義

 なんというか、筋は通っているのだが、極めて現実主義的な解であるように個人的には感じた。とても勇気のある主張がいくつかあった。ロングテール の未熟性の指摘や、コミュニティ主義という現実解の提示である。Web 2.0とかWeb serviceとかマッシュアップとかいう単語に沸く人々に対する指し水を指すことは、なかなかできないし、なんとなく言葉だけ先行している感もある Web 2.0の各種概念に、現実味を添えた鋭い主張だと思う。

 一方で、ソフトウェアで巨大な既得権益を持つマイクロソフトが、サービスへの移行のスピードを否定するようなことを言うと、個人的には、なんとな く保守主義的に聞こえてしまう。OfficeやWindows で侵略的に版図を広げていた頃のマイクロソフトに対して悪態をつきながらも憧れを感じていた元PC少年の私としてはなんとなく寂しい。

 Web上にアプリケーションプラットフォームが移行することを恐れてIE6をアップデートしなくなったり(リンク先はJoel Spolsky氏の主張、和訳は書籍として出版されています)、オープンソースの流れを否定して「妥協案」としての「シェアドソース」という考え方を流行らせようとしたりした前科があるマイクロソフトだけに、まっとうに聞こえる主張でもなんとなく斜めから見なければいけないような気になってしまう。

 今回のミーティングではじめて知ったのだが、マイクロソフトでは「Web 2.0」という単語は公式には使わないらしい。一方で、Windows Live!の準備は着々と進めている。斜めから見ると、イノベーションに追従しつつも、準備ができるまではサービスを否定し、既得権益を守れるだけ守り続 けるという姿勢にも見えなくもない。

 2000年頃からソフトウェアを強く否定しているセールスフォースドットコムとか、Googleも交えたディスカッションもあったりするとすごく面白いと思うが、ちょっとすぐには実現しなそうだ。


Digital Lifestyleを作るのだという呼びかけ

 懐疑的な意見も書いてみたが、最後に成本氏は、developerへの呼びかけとして、「Digital lifestyleを作ろう」という呼びかけを行っていた。コードを書くというようなちまちましたことをしているのではないのだ、新しい lifestyleを創っているのだ、という誇りを持とう、という呼びかけだったのだが、裏を返せば、技術で何ができるか、ということも大事だが、それに よって人間の生活がどのように変わるのか、ということを意識していこう、意識していかないと置いていかれるぞ、ということではないか。

 ミーティング前後の雑談タイムでも、旧来型の開発者では生き残っていけないのだ、というような話でしばし盛り上がった。成本氏のお話は、これから のconsumerの時代、experienceの時代の理想に対して、作り手がどのように、どれだけ近づいていけるのか、というのが一貫したテーマだっ たように思う。consumer、experienceを重視できる時代が(やっと)やってきたのだという観点には全面的に同意したい。

 急に現実的な話になってしまうが、特にWebの世界では、技術の進展により、昔通用していたような言い訳は通じなくなった。

 Web フォームにはtextとselectとradioboxとtextareaしか無いから、その範囲内でできるものしか作れないという甘えや、画面遷移の方 法に制限があるというような甘えはajaxによって打ち砕かれようとしているし、回線速度も問題では無くなったし、ブラウザ間の差異もずいぶん無くなった しetc. etc..、GoogleやWindows Liveがその実例を示しつつある。

 しかし悪いことに、Webに数々の制約がありながら、Webアプリケーションに対する需要が高いという時代が長く続いたので、我々作り手は無意識 のうちにその制約に甘える習慣がついてしまっているように思う。今こそ、技術で何ができるのか、という視点ではなく、使い手に何を提供できるのか、という 視点で物事を徹底して見直さなければならないのだ、という当たり前の事実を再認識するという意味で、個人的にはとても勉強になるミーティングだった。

ogura

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コメント
mohno 2006/10/10 21:05

小椋さん、読み応えのあるエントリをありがとうございます。(成本も喜んでおります)
「Web 2.0」という表現を使わないのは、「Web 2.0」の“要素”(と呼ばれているもの)の否定ではなく、定義のあいまいさなどにあると考えています。たとえば、今日 AJAX と呼ばれている JavaScript による非同期処理を“技術的”に使いはじめたのもはるか昔です。「マイクロソフト=Web 1.0」という図式で語られるのは不本意であろうと、客観的に思います。そういう意味では、(Live はすでに公式運用がはじまっていますが)準備が整ったからって「これからは Web 2.0 対応のマイクロソフトをよろしく」とは言わないと思います・・・たぶん :-)

小椋 2006/10/11 11:57

mohnoさん
長いのに読んでいただいて、本当にありがとうございます!

すいません表現がわかりにくかったのですが、
いいたかったのは、

「Web2.0を目指してるくせに
Web2.0という表現を使わないのはおかしい」

ということではなくて、

「世界最大のISVという地位によって、
いわゆるイノベーションのジレンマにはまっているかもしれない」

ということ、

「そのような(斜めからの)観点から見ると、Software plus Serviceということが、魅力的な現実解であるというよりは、イノベーションの足を引っ張る(悪い言い方をしてすいません)動きに見えなくもない」

ということでした。

同じ事象を斜めではない方向から見ると、夢のような世界観や妄想、Web 2.0という漠然とした概念を提示するだけでなく、むしろそういった妄想を勇気を持って否定する立場に立って、着実な現実解を勇気を持って提示しているという姿勢にも見えます。

「尊敬する一方で、ちょっとした懐疑を差し挟まざるを得なかった」というのが私の気持ちでした。わかりにくくて申し訳ありません。

いずれにしても刺激的なミーティングでした。ありがとうございました!

mohno 2006/10/11 23:17

なるほど。Software plus Services は「過去のイノベーションの堅持」に見えるかもしれませんね:-)
私は現実主義者ですし、ユーザーにとっては“イノベーション”であるかどうかより“便利なサービスやアプリケーション”であるかどうかの方が重要だと思うので、この考え方自体はよいと思っています。


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小椋 一宏

株式会社HDE代表取締役社長。歳、IT企業家年目、PC歴年。

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