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「脳内ビジネス」の話はまたにします!

株式会社の仕組みを弾丸のように説明しておく

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社会人になったら、自分が普段任されている仕事以外に、一般教養として会計簿記と法律(民法と商法の一部)とこれはさすがに通らないんじゃないかという領収書の通し方くらいは身につけておくべきと思います。

が、意外と株式会社という組織について、まったくもって誤解している人が多いので、ちょっとまとめておきます。弾丸のように説明しますので、もし分かりにくかったら近くの識者の方に聞いてください。

たとえば掲示板等で、こんなことを言う人がいます。

・○○って会社、今年に入って株価が半額になってる。あれじゃ資金繰りが大変だろう。

・△△って中小企業は、ホームページ探しても決算報告書どころか売上推移も公開してない。隠蔽体質のブラックじゃないのか?

・日本の会社は内部留保をたくさん抱えているところが多い。あれを社員に分配すれば景気も良くなるのにね。

・マネーの虎とか、おいしかったよなぁ。あんなプレゼン一つで数百万、数千万を手に出来るんだから。

・昨日□□社の株を100万円買ったよ。大事な俺の金を預けたんだから社長はしっかり儲けてくれよ。


これらの言説について即座におかしいと思えない人、あるいはちょっとはおかしい気がしてもどこがどうおかしいかまでは分らない人は、この先を是非読み進められたく思います。


■株式会社の基本的な仕組み

まず株式会社の基本的な仕組みについて説明します。

そもそも株式会社というのは、何か事業のネタがあって儲ける自信はあるが、先立つお金がない人(=起業家)が作る法人組織と考えてください。

自分にはお金がないので、お金持ちの他人に事業計画を説明して出資してもらうのですが、その代わりに、彼らに株主という地位を与え、株主総会という会議で経営に口を出す権利を与えるのです。

株主は起業家にその株主総会で「あんたを信用するからこの金を使って会社を経営してくれ。儲かったら利息代わりに配当をくれ。」と約束させて、彼を社長に任命します。

株主と社長はそういう関係なので、約束通りの業績が上がらないと株主は社長をクビにできます。ここをわかってない人が多くて、それゆえに会社は社員(従業員)のものだとか言う人がいます。会社の資金を自分の財布から出し、どのような経営者を社長に据え、どういう経営方針で行くかを最終決定(承認)するのは株主ですので、会社は株主のものです。

ちなみに株主総会では株主は一人一票の多数決で意思決定を行わずに、出資した額に応じて議決権が与えられます。民主的じゃないですね。

よくドラマとか島耕作とかでも「大株主」という言葉が出てきて、会社経営者がその人を恐れたりしますが、会社の株主の過半数を持っていれば、他に何人株主がいようとほぼ完全に独裁政治が可能なのです。もちろん社長の更迭(=辞めさせること)も可能です。

社長はそうならないように経営を一生懸命行い、株主のために利益を出そうとします。

株主から出資してもらったお金を使って、事務所を構え、従業員を雇い、商品を仕入れて広告を打って販売活動を行って、儲けを出して、儲かった余剰分を株主に分配するのです。

これが株式会社の基本的な仕組みです。


■中小企業の仕組み

で、我々のような市井の中小企業はどうかというと、基本的にはその仕組みのまんまなのですが、株主と社長を同じ人がやっているだけです。

始めにそんなにお金が必要なかったとか、お金を出してくれる人がいなかったとかの理由で、起業家自らが数十万円数百万のお金を会社に出資し、つまり自分が一人株主になり、即座に自分自身を社長に任命するのです。

その後社長は経営を続け、利益を出すのですが、株主(=自分)の了承を取って、儲かったお金を分配せずに会社の資本金に組み込んで増資するのが一般的です。

このとき、株主と社長の意思決定会議は脳内で行われますが、それを議事録として残しておかないとのちのち面倒なことになるかもしれないと税理士から言われるので残しておきます。

このように株主と社長がなあなあというかベッタリというか本人なので、社長はどんなにヘボ経営をやっていても株主から辞めろと言われませんし、利益が出ても配当を寄こせと厳しく言われることもないのです。これを「閉鎖的企業」とか言われますが、別に悪いことではないです。むしろ社長に才覚があれば、外野にギャーギャー言われることがないので、経営はブレず、安定します。

まあ逆にいい加減な経営をしていても一切ブレーキがかからず倒産まで一直線ということもあり得ますが。。


■上場企業の仕組み

一方で、パナソニックとか住友商事とかといった上場企業も、同じ株式会社ですので基本的には同じような構造ではあるのですが、彼らは株式を発行して出資を募った時に「株主の権利はいつでも誰にでもいくらででも売ってもいいですよ」と謳ってます。

これは、市場で自社の株がいくらで売買されようが、会社の財務にはまったく影響がないので好きにやってくれという意味です。

もちろん今度、新たに株式を発行して資金を調達しようというときには、株価が安いよりは高い方がお金を集めやすいので、まったく関係ないかというとそんなことはないですが。

中小企業の社長でも「俺は株主が誰になっても気にしないぜ。株をどんどん発行するから買ってもらって、あとは自由に売り買いしてくれ。俺は株主が誰であっても誠心誠意仕事をして利益を還元させて見せる!」という人もいるかと思いますが、そういうことはお上が許していません。

株式上場のためには各市場ごとにとても厳しい基準があって、それを満たすのは容易なことではありません。それは、ある投資家がその会社のことをよく知らずに株を買ってしまったあと、その会社が突然経営破たんしてしまったりして、株式が紙切れになってしまい(比喩的表現。今は株券を発行している会社はほとんどない。)、不測の損害を受けてしまうことを避けるための措置です。

なので、上場会社と中小企業には、その「上場基準」という障壁を持って大きな隔たりがあると言えます。

■ベンチャー企業の仕組み

最後にベンチャー企業はどんな感じになっているかというと、彼らも基本的には中小企業な訳ですが、そこからこの上場企業になろうと目論んでいるのです。

株式は、現時点は社長以下創業者しか持っていないかも知れませんが、外部のお金持ちの人にも出資してもらって、それを元手に事業を一気に拡大させて、マザーズとかJASDAQとかの市場に株式を公開しようとします。上場の動機にはいくつかあるのですが、一つ一番大きいのは資金調達が容易になるからででしょう。

非上場だとお金を調達する方法は銀行から融資を受けるか知り合いのお金持ちに出資をしてもらうかのどちらかくらいしかなかったのですが、上場していれば「新しく株式を発行しますよー」と言っただけで多数の出資者が現れます。そしてそれは出資ですので返済する必要がないのです。これはありがたいです。

ということで、これをやっていきたいのですが、ベンチャーの初期の課題は最初の出資者を捜すことです。これは別に誰でも構わないのですが、ただ上場までのノウハウや人脈を持つベンチャーキャピタル(VC)と言われる投資専門の会社にお願いすると話が早いです。

そうやってVCから出資と上場準備の手ほどきを受けて、なかなか険しい道ではありますが、もし万一上場に成功してしまうと、社長他創業者が始めから持っていた株も、途中でVC等に引き受けてもらった株も、額が一気に跳ね上がります。ここではっきり、株を持っている社長他創業者は大金持ちになると言っていいでしょう。働いた以上のお金を手にするというべきでしょうか。。

社長はそこでこのままその会社で経営を続けるか、会社は別の人に任せて別の事業を始めるか選択します。ただこの創業者利益があまりに大きくエキサイティングなので、一度成功するとまた新しい会社を起こしたい、あるいはVCをやってみたいと考える人が多いようですね。


こんな感じで超特急で3つの会社組織の特徴を説明してきましたが、実際のところは会社もいろいろでして、それぞれの会社の中間的な状態の会社もあります。ベンチャーでVCからの出資を受け入れたのですがもうほとんど上場は諦めてしまって普通の中小企業っぽくなっていたり、かつて上場していたのですが不特定多数の株主にあれこれ言われるのが嫌で非上場に転換したとか、ベンチャーなのに社長がVCから出資を募るより銀行からの融資の方が好きな会社とか、いろいろあります。

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■5つのコメントのおさらい

ということで、冒頭の5つのコメントをおさらいしてみましょう。

・○○って会社、今年に入って株価が半額になってる。あれじゃ資金繰りが大変だろう。

株価が下がってもそれ自体では経営は全然やばくないです。ただ既存株主は怒っている可能性が高いので、早くなんとかしないと株主総会で経営陣が更迭されてしまう可能性はあります。また、株価が不当に安いと買収されてしまうかも知れません。あと自社株を大量に持ってると、決算書上に株式の評価損が計上されることはあります。ただそれは計算上の損失で現金を失ってるわけではないので資金繰りとかには全然関係ないです。

・△△って中小企業は、ホームページ探しても決算報告書どころか売上推移も公開してない。隠蔽体質のブラックじゃないのか?

上場会社じゃなければ、決算やら売上の情報を外部に公開する義務はありません(※1 こちらは誤りであるという指摘を受けました)。何かの意図を持って公開している会社はありますが、それが本当かどうか分かったものではありません。弊社も最近は公開していませんが、それは世の中には商社やメーカーの年商とソフト開発会社の年商を同列で比較するような人がたくさんいるし、実際は粗利率や外注比率、社員数、給与総額、家賃や広告費まで公開しないと経営成績なんてわかるはずがなく、それを公開しようとすると大変なコストがかかるからです。

・日本の会社は内部留保をたくさん抱えているところが多い。あれを社員に分配すれば景気も良くなるのにね。

経営者が従業員にお金を支払うのと、その余剰の利益をどう処分するかの話はフェーズが全然違います。社長は株主からお金を預かって従業員を雇って販売活動を行って、利益が出たら株主に分配する約束をしているので、その余剰利益部分を従業員給与に充てるなんて発想自体まったくお門違いです。(より詳しくは城繁幸さんのブログをご覧ください。)

・マネーの虎とか、おいしかったよなぁ。あんなプレゼン一つで数百万、数千万を手に出来るんだから。

出資を受けてもそのお金は社長の懐に入るわけではありません。そのお金を事業とはまったく関係ない社長の私的なことに使ったり、「300万円で店舗を改装する」と言っていたのに急にもったいなくなって使わなかったりすると社長は株主に怒られてしまいます。ちゃんと計画通り使って、ちゃんと儲けることを約束して出してもらったお金です。実際、何千万出資してもらっても、社長の報酬は当面月10万円、ということだって十分あり得ます。

・昨日□□社の株を100万円買ったよ。大事な俺の金を預けたんだから社長はしっかり儲けてくれよ。

通常、一般投資家が証券会社から株を買うのは、他の株主から個人的に売ってもらっているだけですので、そのお金は□□社の口座には一切入っていません。ただ、株式を買うという行為は、誰かが過去に払った出資によって得た株主としての権利を譲り受けているということですので、社長以下経営陣に対して「しっかり儲けてくれよ。」と願うのは間違ってないです。

儲けて配当が多くなれば、株価も上がってキャピタルゲインで儲かる可能性はありますが、経営陣に要求できるのはそのうちの「配当」部分だけで、「キャピタルゲイン」うんぬんは、会社にはほとんど制御不能です。

間違ってたらごめんなさい。そんじゃーね。


(※1) 上場企業以外に決算公告の義務がないというのは誤りでした。すべての株式会社にその義務があるとのことです。

決算公告 - Wikipedia

お詫びして訂正いたします。

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