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「脳内ビジネス」の話はまたにします!

神上学級のありがとうポイント

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20XX年4月、さくら小学校5年生の神上泰子(かみじょうやすこ)学級は色めきだった。
校庭には桜舞い散る始業初日、先生は簡単に自己紹介を終えると、段ボールに一杯のおもちゃを教壇の上に載せたのだった。
それを1つ1つ取り上げては、教壇と補助机の上に並べていく。全巻揃った人気のマンガやNintendo 3DSやそのソフト、女の子用にコスメやアクセサリーもある。
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神上先生が、手を大きく広げて言う。
「このおもちゃは、みなさんに配る4月分のおもちゃです。5月以降も毎月、みなさんにおもちゃが配られます!」
「わー!わー!」
クラス中が大騒ぎになると同時に、2人の男子生徒が教壇に飛びかかった。
「おっ、おれ、これ!DS!!3DS!絶対これ!」
「ずりー!でもおれもこのダンボール戦機、お母さんに買ってもらえなくてさーっ!!」
「くぉーらー!!」
突如、神上先生が鬼の形相で吼えた。
先生は女性とは言っても身長175cm、体重は80Kgオーバーという巨体の持ち主だった。
男の子2人は首根っこをつかまれ、教室の後ろの壁に投げつけられて「ぎゃん」と唸った。
「...タダであげる訳ではありません。おもちゃをタダでもらいたければ、夢庵にでも行ってキッズメニューを頼んで下さい。」
神上先生は、このおもちゃ配布が文科省からの通達によって行われる正式な教育の一環であることを説明した。
「・・・ということで、このおもちゃはみなさんの一ヶ月の成果によって配布されます。つまりお友達に何かしてあげて、そのお返しに『ありがとう』と言われたら、ポイントが加算されていって、その持ちポイントに応じておもちゃと交換できるというわけです。
マンガ本は1冊3~4ポイント。CDは20ポイント、DS本体は200ポイントという感じです。友達に『ありがとう』を1回言うと、言った本人のポイントは1減って、言われた人が1増えます。」
教室がざわつく。
「え?先生、質問です。それだと始めは誰もポイントを持ってないので、全然ポイントが増えていかないんじゃないですか?」
「いい質問ね。なので、まず初めに全員に20ポイントずつあげます。翌月からは月初に5ポイントずつあげます。後は自力で頑張ってちょうだい。」
「ポイントが0になってしまった人は、人に『ありがとう』を言えないんですか?」
「ポイントが0になってしまった人には、先生が『いったい今まで何してきたんだ?』と事情をよく聞いて、特別に5ポイント支給します。ナマポです。これをもらっている限りは、先生はうざいほど頻繁に生活指導をしていきます。かなり暑苦しく息苦しい学校生活になると思います。」
「『ありがとう』を言わないで、ずっと黙っていたら、固定収入だけで年間75ポイントじゃん。結構なポイントだよ。その方がお得かも。」
「フッ。そう思うなら、それもいいんじゃない?でも他の人が楽しく何かをしてあげたりしてもらったりしてる中で、何もしないでいるというのは相当苦しいことよ。鉄の意志が必要ね。」
「はい、じゃああとは進めながら都度説明していくわ。さあ、みんな!どんな係をやっていく?」
「係?」
「そう。みんなに『ありがとう』って言ってもらうためには、誰でもできることをやっていたらダメ。何か係を決めて、そればっかり一生懸命やることで腕が上がって、出来ない人から『すごーい』『ありがとう!』って言ってもらいやすくなるのよ」
「ふーん」
「でも、なにやったらいいのかわからないよー」
「まずどうしてもやってもらわないといけないお仕事があって、それは先生、係の名前まで考えて来ちゃいました」
  • ポイント係
  • 掃除整頓係
  • 風紀係
  • 保険係
神上先生は、この4つの係の名前を黒板に書いて説明を始めた。
ポイント係は、流通しているポイントの管理をする係よ。毎日たくさんの『ありがとう』が飛び交うでしょうから、不正や間違いのないようにきちんと管理する係よ。この係は算数の成績がいい人じゃないとなれないわ。
掃除整頓係は、みんなの生活環境を整える仕事よ。朝一番に来て机が曲がっていたら直したり、ゴミが散らかっていたらこまめに拾ったりするのよ。誰からありがとうと言われるわけでもなくやる、孤独だけど大事なお仕事よ。
風紀係は、ずるをしている人、公序良俗に鑑みてどうなのよ、という人を取り締まる係よ。まあ個人的に罰を与えないで、とりあえず捕まえて先生のところに連れてきてちょうだい。嫌われ役なので、あまり『ありがとう』とは言われないわね。
保険係は、みんなの健康を考える係よ。たとえば病気だったり、怪我をして泣いている子がいたら、いち早く見つけて、先生に教えに来てくれたり、保健室に連れて行ったりする係。これも病気をしている本人が超ブルーだったり気が動転していたり、持ちポイントがゼロだったりすることがあって、『ありがとう』って言えない可能性があるわね。
この4つの係は、みんなから直接の『ありがとう』がもらえないので、先生から毎月『20pt』の固定のポイントを出すわ。このポイントが市場に出回って、『ありがとう』のやりとりが活性化するんだけど、そんなことは始めは分からなくていいか...
とまあ、こんな感じなんだけど、やりたい人いる?
A夫:「僕、『ポイント係』でいい。計算、得意だし。」
B子:「私も20pt決まったポイントが入るなら、『掃除整頓係』がいい。」
C夫D子、それに4~5人がそれに続いて、あっさりと決まった。
「わかったわ。あなたたちにはじゃあこの4つの係を分担してやってもらうわ」
「でも、この係は途中でどんなに面白いことを思いついても副業をしてはいけないの。このお仕事だけを一生懸命やってちょうだい。
それと、先生の言うことには絶対服従。自由が欲しければ別のことをやればいいのよ。安定と自由は同時には得られないの。わかる?」
「は、はい...」
係の決まった生徒達は席を立ち、黒板に書かれた係名のところに名前を書いた。
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「さて、残った32人の生徒達。あなたたちはどうする?なんでもいいのよ」
「みんなから『ありがとう』って言われたらいいんだよね!なら、おれやりたいことがある!」
「あら、E夫君、どんなの?」
E夫「イベント係!」
E夫:「1ヶ月に1回お楽しみ会みたいなイベントを開いて、みんなを楽しませれば『ありがとう』って言われる!ぜったい!」
「へえー、それはいい考え...」
神上先生が言い終わる前にF夫、G夫、H子、その他10人くらいが「おれもおれもー!」「わたしもわたしもー!」と叫ぶ。
「あらあら、連れションならぬ、連れ挙手ね。えーっと、5、6、7、8、、、11人!11人もイベント係をやったら毎月イベントだらけになっちゃうじゃない。イベントは、やるとしても1ヶ月に1回よ」
「えーーーーっ!?」
大合唱が教室内をこだまする。カンペンケースを机に叩きつけたり、机や椅子をつかんでガタガタ音を立てる生徒もいる。
「うっせーっ!!普段の成績が下がったら、ワシが校長からどやされるんじゃい!!」
神上先生、再び鬼の形相となって一喝
生徒達は静まりかえる。
「イベント係をやりたいならやりなさい。でもイベントは1ヶ月に1回。係のみんなからそれぞれ企画を出してもらって一番面白そうなのをやることにしましょう。」
E夫「いいよ!おれ、絶対面白い自信あるから!だって、それやれたらたぶん全員から2回ずつ『ありがとう』って言われるね。そしたら一気に80pt!そしたら3ヶ月でDSだ!」
2名の生徒が取り下げたものの、結局9人の生徒が黒板のイベント係のところに名前を書いた。
「はい、じゃあイベント係は決まったとして、他には?」
I子:「わたしはペット係がやりたいです」
「あら、いいわね。でもこのクラスにペットはいないじゃない」
I子:「あの、うちにハムスターの赤ちゃんが生まれたので、持ってきていいですか?それを世話します。」
「それはいいわよー。じゃあI子さんはペット係ね」
J夫K子も「ペット係」をやりたいと続く。
J夫「おれもこないだ池で取ってきたカエルの卵、持ってくる」
(持ってくんなよ、気持ち悪りぃ...)
「はい、ペット係もいいわねー。がんばりなさい。」
L夫「ばあか。それ、誰から『ありがとう』って言われるんだよ。」
ニヒルなL夫が組んだ足を投げ出して言う。
L夫「自分がやりたいことやってたってしょうがないんだよ。おれはそういう意味が分からない係をやるやつらの教育係をやるよ」
「まあ偉そうね。自分では何もやらずに教育だけするっていうの?でもそういうのもアリね。そういうのを『コンサルテーション』っていうのよ。L夫君は『コンサル係』ね。」
L夫「コ、コンサル係、、、か、かっこいい...!」
「フフ、コンサルは目に見える成果物が出ないから『ありがとう』を言ってもらうのは難しいのよ...。感謝されてもポイントにはなりにくい。それがコンサル。はい、他!
M子:「わたしは、こんなの考えました。月末、欲しいコスメとかがあって、でもそれに必要なポイントがあとちょっとのところで足らないって人にポイントを貸してあげるんです。そして、翌月になったら貸してあげたポイントを5割増しで返してもらうんです。それをやれば、直接『ありがとう』って言われなくてもポイントが溜まると思います。、、、こういうのって、アリですか?」
「早くも金貸しビジネスの旨味に気づいちゃったのね?しかも1月で5割というのは、もし翌月から債務者が一度も返済できないと年間で12975%に膨れあがるわ。ただ市場にそんなにポイントは出回ってないので、回収の見込みはないわね。」
M子:「?」
「でもとってもいいわよ。世の中、自由な着眼点が大事。ポイント係のA夫君とよく相談して進めてちょうだい。あまり非道いことをしていると、風紀係のC夫君が発動するわよ。はい、M子さんは『金融係』。他はいませんか?
N夫:「ぼ、僕は、、」
「何か考えた?」
N夫:「僕は、鉛筆貸出し係をやろうと思います」
「あら?鉛筆はみんな持ってきてるじゃない」
N夫:「そうなんですけど、だいたいクラスで2日に1人くらいは筆箱を忘れる人がいるじゃないですか。その時、鉛筆や消しゴムを貸してあげるんです。それで『ありがとう』って言ってもらおうと...」
「ふーん、でもそういう時は隣の人に借りちゃうんじゃないの?」
N夫:「隣の人は消しゴムは1つしか持ってなかったりするし、鉛筆とかも一番へぼいのしか貸してくれない人とかいて嫌な気持ちになるので、ものすごく状態のいい鉛筆と消しゴムを貸してあげるんです。」
それ、割とイケるかも知れない、とO子、P夫が乗った。O子は広い友人関係を持っているので、教科書を他のクラスの友達から借りてきてあげられる。P夫は兄が昔使っていた絵の具や習字道具があるので、それを持ってきておくという話になった。
「君たち、地味ねぇ。でもこれまでの中では一番着実に『ありがとう』がもらえそうな係ね...。はい、他!」
ざわざわとざわつくが、クラスの1/3以上、15名の生徒の係がまだ決まっていない。
「君たち、いいの?係をやらなくて。何事も自由なので、そういう生き方もあるにはあるけど...」
Q夫:「先生、おれたちは、まあいいよ。お互いに『ありがとう』って言い合えば、かわりばんに、たまに欲しいおもちゃが手に入るよ。」
R子:「それよりも、あくせくしないで、自分らしく学校生活を送りたいわ」
S夫:「たまにM子にポイントを借りてやっていけばいいよな」
M子:ニコッ(係をやってない人には貸さないわよ...)
「じゃあ、まあ気が変わったら来月から係をやってちょうだい。モラトリアム期間ということでいいでしょう。」
「あ、そうそう言い忘れていたけど早口で言います。獲得したポイントには税ポイントがかかります。大した率ではないけど25.5%よ。意味が分からない人は気にしなくていいです。月末には分かります。まあちょっと多めに稼いでおかないと、欲しいおもちゃがゲットできないかもしれない、とだけ言っておきます。早口終わり。」
「それじゃあ、明日から早速頑張っていきましょう!経済で、強い日本よ、カムバック!」
そんじゃーね!

 

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