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iPadに見る積み重ねの大切さ

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いよいよiPadが発売された。

iPhoneの時は、幸運にも発売日に入手できたのだが、iPadは残念ながら入手することはできなかった。そのため、私自身がレビューを書くことはできないが、多くのレビューがネット上にすでにあるので、ぜひ、いろいろ見て、読んで欲しい。その素晴らしさを感じることができるだろう。

さて、発表日のエントリでは、iPadがライフスタイルを変える、と書いたが、今でも、まったく同じ思いだ。今日は、改めて、何がこのようなデバイスを実現したのか、ということについて書いてみたい。

多くのレビューでは「AppleだからiPadが作れた」という記述がある。Appleをスティーブ・ジョブズに置き換えても良いかもしれない。確かにそのとおりだと思う。しかし、ここで、私は「積み重ね」について指摘したい。

積み重ねの大切さ
iPadが実現している操作感は、技術的には、何年も前から実現可能であった。実際に試作品もいくつもあったことだろう。しかし、一握りの専門家が作り出した素晴らしいインタフェースだけでは、このような成功は実現できなかった。

本当に凄いのは、この操作感を実現するソフトウェア開発を、多くのデベロッパにSDK という形で開放したことだ。MacのToolboxの頃から、Appleにはユーザインタフェース(UI)デザインへのこだわりがある会社であり、iPhoneでは、タッチパネルのためのインタフェースに関するこだわりをSDKという形で表現したのだ。また、アニメーションを多様したインタフェースのために、携帯端末にGPUを搭載する、という英断も、重要であった。

iPhoneアプリの登場当時、多くのアプリがまだまだUIがコナれていなかったことを思いだせるだろうか。

しかし、AppStoreの使いやすさや、販売数の多さから、多くのデベロッパを引きつけ、iPhoneのアプリが大量に登場した。そして、次第に使い易いアプリが選別され、結果、デベロッパのUIの使いこなしレベルが向上していった。iPhone開発では、多くのデベロッパやユーザが互いに切磋琢磨することによって、開発のレベル自体を向上させ、さらにAppleもSDKのバージョンアップによって、これを支えたのだ。

単に高度なSDKが存在しただけではなく、相互に批判しあい、刺激しあうAppStoreという環境が、デベロッパの成長に重要な役割を果たしたのだと思う。

また、ユーザも同時にタッチパネルを使ったアプリに慣れていった。

そして、その積み重ねの上に、現在の iPadが存在している。
すなわち、いきなり iPadが出ても、十分に洗練されたUIを作ることは出来なかったであろうし、たとえ限られた専門家には作れたとしても、デベロッパの数が十分ではなかったであろう、ということだ。

つまり、(1)iPhoneが登場し、(2)SDKの公開がUIの普遍化を実現し、(3)多くのデベロッパがそれを使いこなし、(4)ユーザが慣れ、その上に(5)iPadが登場した、という積み重ねが行われたのだ。

こういった積み重ねのみによって、新しい次元のコンピューティングが実現されるのだと思う。Appleがそれを計算していたかどうかは別として、普及する技術には、必然的な積み重ねが存在するのだ。

Androidの場合
Androidが同じような積み重ねを行えているか、というと、実は違う方向に進んでいるような気がして少し心配になっている。

例えば、AndroidのSDKには、自由度は高いのだが、十分にUIを規定できていない、という弱点が存在しており、アプリの統一性の低さにつながっている。

また、日本では、携帯電話会社、もしくは端末ベンダ毎にアプリマーケットが乱立する可能性があり、アプリ間で切磋琢磨する市場が十分に成立しないのでは、という心配もある。「積み重ね」を大切にして欲しいと願うばかりだ。

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