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夏目房之介の「で?」

僕のレコードとの出会い略史

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レコードジャケットは絵としての良さもあって、所有欲を満足させてくれる。だけではなく、それぞれに個人的な思い出があって、なかなか捨てがたいものになってしまうのだが、その思い出とも音楽とも無縁な人間が相続したりすると、これはもう重くて汚いうえ、聴くこともできないゴミの山である。誰か、それを喜んでくれる人の手に渡ったほうがいいに決まっているが、なかなかそうもいかないものなのだ。今回、彼らレコードやテープにとっては、けっこう幸せな出会いになっただろう。
クリフリチャードのレコードは、僕が生まれて初めて自分のものにしたレコード。来日したクリフのバックに、アルバイトでヴァイオリンを弾いた父が、なぜか彼からサイン入りでもらったレコードなのだ。父はむろん聴かないので、僕にくれたのだが、その後僕がロック、ブルーズ、ジャズへと趣味が移り、クラシックには興味を持たなかったので、やらなきゃよかったとのちに愚痴っていた。
もう一枚、父が持っていたレコードにラヴィ・シャンカールのシタールがある。これを聴いて、僕は高校時代に来日した彼の演奏を聴き、音楽というジャンルに、哲学的に難解なものが存在することを初めて知った。
やがて、レイ・チャールスやプラターズからMJQをへてジャズへと移行して、ボサノバからアストラッド・ジルベルトにほれ込み、さらに名盤「ゲッツ オウ ゴーゴー」に出あう。
そして、大学時代に好きだったコが好きだといった理由で、背伸びして買ったのがマイルスの「フォア&モア」だった。最初は一体そこで何が行われているのかさっぱりわからなかったが、必死に聴き続けていたらだんだんわかるようになって、ハマっていったのだった。
いずれにせよ、もはや半世紀も前の話である。目も遠くなろうというものだ。

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