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夏目房之介の「で?」

八卦掌報告(もう何回目か忘れましたが) 下勢

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 このところ、講習会の課題は下盤強化で下勢を繰り返して練習している。下勢とは、片足を後ろに出し、低い姿勢をとってお尻が地面すれすれになるまで落とし、足と同側の手を足の前か後ろに沿わせて、低い姿勢から半分立ち上がるような動作である。見るからに負担の大きい動作で、年齢に関係なく低く座れない人もいる。僕は以前からこの姿勢は比較的に落とせるが、きついのは同じだ。おかげで、しばらくできなくなっていた片足スクワット(尻をつく寸前まで落とすので、あまりやってはいけない)ができるようになっていた。
太極拳をやっていたときは、練習前に必ずストレッチで下勢と似た姿勢をとったが、その場合には出した足のつまさきは起こし、上に向ける。この姿勢だと膝の裏側がとくに伸びるが、やり過ぎると痛めたり、スジが伸びすぎる感じがする。
 下勢は、両足の裏をきちんと地面につける。これだけで、伸びる場所はまったく違うのがわかる。膝裏ではなく、内股の筋肉が伸ばされ、膝と股関節のスジが伸びるように思う。
この動作をきちんと認識しながら行うために、今は自己練習でゆっくりと確認しながらやっている。そのかわり毎日2~3度しかやらない(つか、しんどくてできない)。とくに、両足裏をきちんとつけるのは思ったより大変で、最初に下げたときは、なかなかきつい。ここでじっくり伸ばすと、二回目からは比較的楽に落とせる。
 一応下勢の形を作れたあとで、さらに上半身を緩め腰を落とすと、内股だけでなく、腰の後ろの下半分がじわじわ引っ張られている感じがある。正確にはわからないが、尻を覆う筋肉やスジが伸ばされているのは間違いないだろう。
内股のスジは「怠け者のスジ」といわれ、なかなか鍛えるのが難しいそうだが、ここを鍛えられると体を支え、中正を守ったまま動き、力を出すときに重要な機能性を発揮するんだろうな、というのは何となく感じる。
 ただ、やはり負担の大きい練習であることも事実で、内股とお尻あたりの負担は尋常ではなく、あまり無理して練習すべきでないな、とも感じる。李先生によると、夏は体が伸びようとする季節なのでスジを伸ばすのに重要な季節で、暑いからこそスジを伸ばすことができ、夏以外にはそんな練習をしてはいけないんだそうだ。たしかにこれを寒い時期にやったら、体を痛めるだろう。
 先日、李先生は、スジを一方向にだけ伸ばす一般のスポーツなどのストレッチではなく、前後左右方向にひっぱることができるのは八卦掌の練習なのだ、という話をされた。一方向にだけ伸ばすと、それと交差方向のスジは縮んでしまうのだそうで、それでは効果がないのだという。何となく「なるほど~」とイメージできたが、下勢に似たストレッチと、下勢そのものとの違いもそこにあるのかもしれない。
 ところで、現在は単換掌の下勢は足の後ろに同側の手を沿わせ、双換掌では前側に沿わせている。このふたつ、最初は何が違うのかよくわからなかったのだが、しばらくやっていると、あきらかに前者の下勢のほうがきつく感じる。人によって違うかもしれないが、一動作の負担は僕の場合、あきらかに後者のほうが楽だ。理由は今は思いつかない。何しろきつい動作なので、そこまで内感覚を
さぐる余裕がまだないのである。
 いずれにせよ、ただ歩いているだけでも、この練習で下半身が強化されているのがわかる、というのは嬉しい。もう明日で66歳になるが、まだこうして進化できるというのは、まことにありがたい限りである。

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