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夏目房之介の「で?」

谷口ジロー画集

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『谷口ジロー画集』(小学館)を送っていただいた。ありがたい!

谷口ジロー画集.JPG豪華な、まさに「画集」で、さすが欧州で高名になったマンガ家・谷口ジローである。序文は、ブノワ・ペータースと関川夏央。それに谷口さん自身の伝記的コラムとあとがき。それらが、それぞれ仏、英、日語で併記されている。「世界同時発売」だそうである。好きな作家の画集が、かくも華々しく、しかも奥ゆかしく発売されるのは、やっぱり素直にうれしい。

見ていて、やはり谷口の「劇画」の時代から、『「坊っちゃん」の時代』を経て、今の国際作家・谷口になってゆく画風の変化に、歴史の奇妙な(個人の中では少し屈折を含んだ)面白さを感じる。たぶん、同じ時代を、谷口を含むマンガの変化をみて生きてきたからだろうか。ところで関川さんは「深町丈太郎」の今を描いたい欲求に言及していて、ほんとなら楽しみだなあ。でも、深町はやっぱり、劇画時代の谷口さんの手で生まれた野郎で、そこが好きなんだけどねえ。みたい気持ちと、みたくない気持ち、半々。

ページをめくっていて、もちろん一番好きな作品は『遥かな町』だったり、『「坊っちゃん」の時代』はやっぱり存在感があると感じたりしながらも、個人的な「歴史」の中で、どうしても『事件屋稼業』に偏愛を感じている自分がいる。5556円+税。日本のマンガ市場では高い。でも、こういう画集や作品集が今後、グラフィック・ノベルというカテゴリーで長く売れる市場ができてもいいな、と思う。

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