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夏目房之介の「で?」

九井諒子『竜のかわいい七つの子』他

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竜のかわいい七つの子.jpg昨年、この作家の『ダンジョン飯』1,2を読んだ。ゲームをベースにしたグルメマンガだったが、僕は面白く読んだ。ゲームにまったく親和性がなく、知識もない、60代の人間が読んでも「面白い」と感じたのである。これは何かあるんじゃないかと思って、年間ベストにあげた。周囲の学生たちは「いやあ、あれをあげるのはちょっとーー」という雰囲気だった。あまりにあざとい、ということなんだろうか。ただ、僕は「あざとい」部分以外のところで面白いと思ったので、あえてあげたのだった。

その後、短編集『ひきだしにテラリウム』『竜のかわいい七つ子』『竜の学校は山の上』を読んで、確認し、確信した。俺は間違ってない、と。まず、僕はこの作家の作品が、その絵や発想やテイストが、好きなんである。そして、そこに共通する「すっとぼけた哀愁」みたいな感覚が、じつは『ダンジョン飯』にすら、ほのかに漂っている。中で一番好きなのが『竜のかわいい七つの子』で、何が楽しくてこの作家が描いてるのか、よくわかった気がした。

絵は、けっこう多彩なパターンを描き分けていて、エッセイマンガとファンタジーの接続とか、変なことをやっているのだが、絵に執着もありそうで、うまいのに、ヘタウマの崩し方がけっこうイってるのも面白い。多様な絵柄をもっているのは、さまざまなマンガのパターンを使い分けられるということで、パロディになりやすい。でも同時に根っこのところで、奇妙な執着を感じさせるので、ただパロディ遊びで終わってないところがいいと思う。まあ、個人的に好き、といえばいいだけかもしれないが。

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