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夏目房之介の「で?」

TVアニメ『ピンポン』

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http://www.pingpong-anime.tv/

ゼミの学生たちが騒いでいた松本大洋『ピンポン』のアニメを観た。
なるほど、松本大洋を、それも『ピンポン』をアニメにするっていうのは、こういうことなんだ、と思えるアニメだった。マンガの、あの線、あの絵、あのリズムを、どうやったらアニメにできるか、それも愛情をこめて。そんなふうに感じる出来あがりで、ちょっと感動する。色もいい。かつて福本伸行のマンガがアニメとして動いたときも感動したけど、これはまたちょっと違う。
『鉄コン筋クリート』はフランスでアニメ化されて、これも作品への尊敬と愛を感じる丁寧な出来だったが、あのなめらかなフルアニメ的な完成度とは違う、ほとんど止め絵の美学をセンスだけで追求しようとしているような思い切りのいい新鮮さ。かつて出崎統が『佐武と市』で見せたような「そうか、枚数の少ないアニメはこうやって美学になるんだ!」という感動に近い、それをさらに洗練させた現在のレベルでの挑戦というべきか。たしかにピンポンの「速さ」を映像化する、という点では、やや物足りないが、マンガ版『ピンポン』の手法がもつ卓球場面のアニメ的再現を追求しているのは確かな気がする。その心意気がいいんだね。

もっとも、松本大洋と『ピンポン』が好きな視聴者の感想でしかないのかもしれない。このアニメで初めてこの作品に接する人は、どう感じるんだろう? 原作を読んでみたいと思ってくれると、なんかうれしいけど。

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