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夏目房之介の「で?」

「コルク」 マンガなどのエージェント業に転身したマンガ編集者

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コルク(cork)という会社ができた。『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などの担当者だった講談社編集者・佐渡島庸平が独立して作った、作家のエージェント会社。

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1210/01/news065.html

もちろん、エージェントという形態の必要性、可能性はずいぶん以前から語られていて、竹熊健太郎氏などもその論者だったと思う。僕も、リクツでいえば、そうなると思ってきたし、そんなことを著書で書いたこともある。けれど、日本のマンガ編集者制度はいい意味でも悪い意味でも強固に習慣化していて、これまで本格的な成功例は見られない。わずかに小学館出身の長崎尚志が浦沢直樹と組んだ例が可能性を感じさせた。昔から自称エージェントはいたが、どこか胡散臭いのもいたし、なかなかうまくいかないのかな、と思われた。それがなぜなのか、今の僕にはわからないが、本格的な成功例が出れば状況は変わるだろうと思う。

今回の例は、海外進出などを考えた点で面白いと思う。佐渡島は「作家と作品の価値を最大化するすること」が目的で、そのためには出版社編集では制度的な壁があると感じている。「最大化」は時間空間的に拡大すること、つまり「長く売れること」と、「世界に売っていくこと」を指す。https://cakes.mu/posts/402
このインタビューを見ると、この人は相当頭が切れるし、見通しもクリアなようだ。何よりも、実力のある作家たちが、彼の独立の相談を受けて、やってほしいと背中を押してくれたという話が興味深い。作家との関係が彼の財産だろうし、理念だけで終わらない条件を満たしてくれるかもしれない。また、作家たちにも現在そうした要求が強まっていると考えられる。http://cork.mu/

日本のマンガ家は、出版社に様々な業務を肩代わりしてもらっていて、それはそれで機能してきたが、たとえば海外のグラフィック・ノベルの作家たちと比べると、自分で自分のことやマンガのことを説明する能力、プレゼンテイション能力は低い気がする。「営業」のできない「職人」という側面が強い。自分で発信したい作家も多いが、そうなると今度は個人への負担が大きい。そこにエージェントの可能性がある。海外との交渉、外国語能力、契約思想、著作権の考え方の違いなどに対処できれば、今後大きく発展するかもしれない。そのためには、海外の出版社のみならず評論家、研究者、ファンたちとの交流も必要になるだろう。この点では、マンガ研究の先端で海外と交流している部分にも、協力できるところはあるかもしれない。
今後の活躍を期待したい動きです。

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