オルタナティブ・ブログ > Social Reading >

ソーシャルメディア×読書など。ソーシャル・リーディングな日常を綴ります。

【書評】『ヒドラ』:海に浮かぶ宝石

»

著者: 山下 桂司
岩波書店 / 単行本(ソフトカバー) / 128ページ / 2011-06-29
ISBN/EAN: 9784000295819

ヒドラという生物をご存じだろうか。9つの頭をもち、切っても切っても首が生えてくる、ギリシャ神話の水蛇怪獣のことではない。れっきとした海の生物だ。サンゴやイソギンチャクと同じグループに属し、海の宝石とも呼ばれる水生の生物なのである。本書は、そんな不思議な生き物「ヒドラ」の解説本である。

◆本書の目次
1 ヒドラって何?
2 ヒドラの摩訶不思議な一生
3 海に浮かぶ宝石 - アクチヌラ幼生
4 ヒドラのおそるべき能力
5 出会いと共生のストーリー
6 ヒドラとヒトら

ヒドラ類のうちかなりの種類は、小さなイソギンチャクや草花のように物にくっついて生活する時期(ポリプ体)と、浮遊して生活する時期(クラゲ体)を持っている。ポリプの大きさは、小さな種は約1mm、大きな種では1.5mと種によって1000倍以上の差があるという。この他にも、体の形、色、増え方、群れの形、住み場所と途方もなくバリエーションに富んでおり、この多様さがヒドラの持つ魅力の一つである。

そしてこのヒドラのもつ能力に、恐るべきものがある。ヒドラはれっきとした動物なのだが、体を切られても、小さく切り刻まれても、死なない。それどころか、元通りの体を再生することができるのだ。「切断」→「傷口の修復」→「細胞の再構成」というステップが、小さな台風がだんだん巨大化していくような活発さで行われ、ほぼ二日程度で完全に再生するとのこと。ギリシャ神話も真っ青である。

さらにこんな実験結果もある。あるヒドラの柱体部の神経系を、頭部に移動すると胴部に特有の性状を示し、足部に移動すると足部特有の性状を示したという。つまり、ヒドラの神経系は、細胞ともに移動しながら、移動先の体の位置に応じて、自在のその性状を変えることができるのだ。このしなやかなシステムに、人類が学ぶところも多いのではないだろうか。

全編を通して、著者のヒドラに対する愛情は半端ない。まさに身も心も捧げている様子が、ひしと伝わってくる。その最大の理由は「美しいから」。そんな大好きなヒドラを、切ったり刻んだりできるというのも、非常に不思議な関係だ。その再生能力に対する強い信頼があってこそなのだろう。

ヒドラの多くは、磯の岩の下面などで簡単に見ることができるようだ。今年は、花火やお祭りが中止の地域も多い。そんな夏には、ぜひ海の宝石「ヒドラ」を見に行ってはいかがだろうか。

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント等につきましては、Facebookページの方でお願いいたします。

Comment(0)